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NO,THANK YOU!!  作者: 伍代ダイチ
NO,THANK YOU!!
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1.言い忘れ―9

 何も知らない二人に流が説明する。

「千里眼ってのは分かるよな? まぁ、わかるとは思うが、超能力の名前だ。『彼女』の使うな。その能力が余りに高いことから、超能力名で呼ばれる事が多いんだが、まぁ、なんだ、簡単に言えば『何でも見える』超能力者の事だな」

 と、同時に、扉をノックする音。流が返事をすると、扉が開き、そこから、

「お、丁度良いタイミングで来た来た。彼女が、千里眼の『長谷琴』ちゃん」

 飯塚が手で指して紹介するのは、今朝、恭介達のクラスに転校してきたばかりの、あのモデルのような見た目ギャルの女子が、入ってきた。やっほ、と手を上げて元気なのが印象づいた。

「琴ちゃんだ」

 桃が嬉しそうに笑んだ。知り合いが来た、ということに少し心を落ち着かせたのだろう。

 そして恭介は、ども、と適当な挨拶をした。

「分かってるとは思うが、『恭介と』同じクラスにしたのはNPCの指示あってだ。で、琴ちゃんが、お前に体術を教える」

「そうかいそうかい……って、えぇ!?」

 恭介は驚愕の表情で琴へと目をやった。華奢とも言える細すぎる身体のライン。確かに引き締まっているが、戦えるのか、と思える程度の筋肉量。こいつから、体術を学べるのか? と恭介は間抜けな表情で彼女を見て、思った。

「見すぎ」

 桃に肘打ちされ、やっと我に帰った恭介は、父親に問う。

「長谷さんが明日一日で俺を戦えるまでにするのか!?」

「ははは、一日じゃ戦えるまでには厳しいかもな。だが、軽い任務に付ける程度の基礎くらいは身につくさ。何せ、琴ちゃんは体術の達人だからな」

 達人なんて、と琴が照れる。そして、説明めいた言葉。

「私の超能力『千里眼』は確かに便利だし、その能力を活かして私は基本敵にバックアップとか司令官役に着くことが多いんだけど、戦わなきゃいけない時もたまにだけど出てくる。でも、千里眼は戦力にはならないからね、人一倍訓練は積んできたんだよ」

 なるほど、と二人は納得して頷く。超能力を戦う為に使う、という考えは間違っていないが、戦力に使えない場合もあるのだな、と再認識した。

「明日は訓練。あ、筋肉痛にはなるなよ。そして、明後日は琴ちゃんがリーダーになって、桃ちゃん、恭介の三人で任務に付いてもらう」

「了解」

 そこからは、流と飯島による任務についての簡単な説明が始まった。その途中で挟まる雑談で分かった事だが、どうやら桃もNPCに加入したこと自体はまだ、最近のことらしい。超能力の発現は大分前だが、その間はフリーの状態でいたとのこと。そして、琴は、既に三年、NPCにいるという。恭介は一番の後輩だった。




    2




 日曜日、三人は早朝のブリーフィングを追え、三人で地元から車で一時間程にあるとある山の麓に来ていた。三人を車で送った部下は「健闘を祈る」という謎の台詞を置いてすぐに去っていった。

 中規模の山だった。が、いくつかが連なっているため、その本質より大きく見える。木々が生い茂っているが、その全てが緑で、虫が多そうだ、と琴がうんざりとした表情で見上げている。恭介達が立つその場所は山に沿うようにして舗装された道路。ガードレールの向こうには僅かな崖。遠くにどこかの町が見える。

 真夏となると、こういう場所の方がより涼しいモノだ。が、暑いことには変わりない。桃は超能力の効果でもあるのか、見たまんまの意味で涼しい顔をしているが、恭介も琴も汗ばんでいた。

「この山の中腹、丁度半分くらいの所だね。その『中』にあるね。見えるよ」

 琴が山を見上げ、適当な位置を指差し、言う。

 今日の任務は、山中にアジトを構えたジェネシスの下っ端の、そのアジトを破壊し、無力化すること。そして可能ならば、超能力も奪ってくること。

 琴には、山中に身を隠すそのアジトが、見えているのだろう。

 NPCには規則、というモノが存在しない。国の管轄、とも言えるこの組織だが、国の所有物ではない。そもそも、善意を持った超能力者団体なため、マナーが守られ、暗黙の了解で動いている部分も多い。そんなNPCの任務で、殺害は許可されている。当然と言えば当然。敵はほぼ必ず超能力者で、どんな危険があるかわからない。殺さないように、と手を抜き、こちらがやられてしまっては元も子もないのだから。

「まずは山登りからか……初任務辛いねぇ」

 恭介がはぁ、と嘆息した後、先に歩を進め始めた。ブリーフィング前に、山が舞台だとわかっていれば、それなりの装備をしてきたのにな、と思いつつ、進んだ。

「筋肉痛なんだから、無理しちゃダメだよ」

 桃はそう言いながら、恭介に続く。恭介は昨日の、琴の体術の特訓のおかげで、全身筋肉痛だった。山登りで、アジトに到達する前に堪えてしまわなければ良いが、と桃は彼を気にかけていた。

「桃ちゃん涼しそうだねぇ」

 琴がうなだれながら続く。

「一応、水の超能力者だからね。あったかくすることはできないけど、逆は簡単だよ」

「なー。この前から気になってたんだけど、桃の超能力って『氷』じゃねぇの?」

 足を進めながら、先を見据えて恭介が訊く。

 そうだ。恭介が始めて超能力の存在を知ったあの時、桃は氷を操り、今恭介が所持している雷撃の超能力を持っていたジェネシスの下っ端と戦っていた。あの光景を見る限り、それは水ではなく、氷だと思った。

 が、

「なんか、最初は水しか出せなかったんだけどね、それも、汗かいてるだけにしか見えない微量ね。でも、慣れてきて、気づけば凍らせることも出来るようになって、今では氷がメインになってる、ってところかな? ほら、水って圧縮すると氷になるっていうでしょ? 多分そんな感じなんじゃないかなぁって思ってる」

 今の、涼しそうな状態、そして今の話から分かる、超能力の慣れ具合からして、桃も相当な超能力者なのだ、と容易く推測できた。

「圧縮の規模が違うと思うけどね。っていうか桃ちゃん。どうかその涼しさを私に恵んでください」

 琴が最後尾から声を上げる。くれー、涼しさを分け与え賜えー、とふざけて叫んでいるあたりから、隠している余裕が伺える気がした。

 暫く雑談をしながら登ること数十分。琴の合図で、全員足を止めた。琴がすぐに視線を移し、そして、指差す。

「そこだね。そこに入口がある……。すっごい簡素な隠し方」

 呆れた様にそう言って、演技めいた溜息を吐き出した琴は、二人から少しだけ離れた位置にまで言って、そして、斜面を何度か蹴った。

「うん。ここだ」

 何度か蹴ると、なんと、その斜面が沈んだ。まるで、落とし穴のようだった。

「恭介君。ちょっと手貸してくれないかな? 重いから」

 琴の手招きに誘われて恭介が向かう、と、琴が蹴っていたそれが何なのかハッキリと分かった。

 鉄板だ。その上に土や砂利を貼り付けてある。それが琴に蹴られることで僅かに移動し、その先に隠されていた『アジトの扉』へと少しばかりズレて沈んでいた。

「確かに簡素だな。これ。本当にジェネシスの組織なのかよ……」 

 呆れた様に言って、恭介が端を持つ。

「本当だね。あ、筋肉痛だったね、あまり無理はしないでね」

 琴が反対側を持ち、そして二人でズラす。簡素な隠し扉とはいえど、そこそこの大きさの鉄板だ。持ち上げることは出来なかった。

 鉄板がどき、その先の光景を移す。三人がは、アジトの入口、の前に立ちはだかった。鉄製の扉だ。扉の横に、一から九のナンバーキーと、エンターと思われるボタンが並んだ所謂パスワードキーが設置されている。よく見るとそのパスワードキーの機械の隅には、カードキーを通すと思われる溝もある。ここまでは、簡素にはしてくれなかった様だ。

「監視カメラはない。この程度のセキュリティで大丈夫だとでも思ってるのかしら。中にも十数人しかいないし……、きっと、下請けって感じなのね」

 そんなことを言いながら琴は、恭介に道を譲るかの如く、半歩引いてパスワードキーの前を開けた。どうして譲られたのか理解出来ない恭介は、へ、と間抜けな表情で漏らした。

「きょうちゃんの超能力で開けろってことじゃないかな?」

 桃のフォロー。

「強奪でどうやって開けるんだよ!?」

「そっちじゃないよね、雷撃の方だよね。きょうちゃん落ち着こうね」

 桃のフォロー。

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