能力
薄暗く狭い通りを、真新しいスーツを着た男が歩いていた。
「最近金に困ってきた。…久しぶりに仕事でもするか。」男はそう呟き、通りのとある家へと向かった。
男は家のドアを叩き、「宅急便です。」と言った。すると家の中からゆっくりと一人の女が出てきた。女は埃にまみれたようなシャツとズボンを着ていた。
女が何か話そうとした瞬間、男は女の口を押さえて、そのまま家の中へと侵入し、素早く女の手と足を縛り、目隠しをした。わずか十数秒の話であった。
その後男は証拠を残さないための服装に着替えた。
男の仕事とは、強盗であった。
家の中は全く整理されていないように見えた。
床に本が積み重ねられ、文房具が散乱している。机はあるが、その上はカップラーメンのようなインスタント食品と食器が積み重ねられていた。布団はあったが、そこは作業スペースとして用いられているのか、その上にも様々な物が積み重ねられていた。
「全く酷い状態だな…さて、早速金になりそうな物を取っていくか。」男はそう呟き、ジャラジャラという音を立てて床に散乱している文房具を足で払いのけた。
「…うぐぉか、すぁ、ない…」女は言葉を発した。だが、発音は普通の人のものとは大きくかけ離れていた。
「知的障害者っぽい話し方だな。」男は鼻で笑った。「どうせその様子じゃ自分だけじゃ俺が盗みに入った事なんて伝えられないんだろ?じゃあ、じっくりと金になりそうな物を取らせていただきますか…」
男は家の中を漁り、財布、バッグ等の金目の物を盗んだ。女は最早何も話そうとはしなかった。
「じゃあな、せいぜい縛られたままくたばっちまいな。」男はそう言って家を出て行った。
その2日後、男は警察に捕まった。
「2日前に例の家で強盗事件を起こしたのはお前だな、証拠は上がってるんだぞ。」警官が言った。
「…畜生、なんであんな貧乏人の知的障害者の家に入ったのに捕まったんだ…」
「知的障害者、か。あんたは『障害』と名が付く性質を持っている者は、あらゆる面で『健常者』に劣っていると考えてはいないか?」
「障害者がそれ以外の人間に劣ってるのは当たり前だろ?」
「ところが、そうとも限らない訳だ…」警官は一枚の紙を取り出した。
それは、白黒写真と見間違えそうな程精密な男の似顔絵であった。
「彼女は事件の4時間後、友人によって縛られた状態で発見された。友人に彼女は強盗に入られたことを話し、そして荒らされた部屋を元の状態に戻した。特性として彼女は部屋を『整理』されるのを非常に嫌うんだよ。そして、盗まれて見つからない物が何なのかを理解し、この似顔絵と、盗まれた物の正確な絵を描いたんだよ。」
警官はまた紙を取り出した。そこには男が盗んだ物の正確な絵が描かれていた。
「あんたの家からこれも発見されたんだよ。もう疑う余地もないな。障害を持ちながら、画家として活動していた人の家に盗みに入ったのが運の尽きだった、そういう訳だ。」
『自閉症』について調べていたら、色々考えさせられるような事が書いてあったので、それを少し小説の体裁を取るような形にしてみました。




