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タコのグルメ日記  作者: 百合姫
Ⅳ章 豊饒の森

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35/110

どんな価値観?

作中で説明し忘れていたのですが、やまいが奴隷の首輪をつけているのにもかかわらず主人公から離れることが出来たのは邪竜の加護のおかげです。

ぼっちになるという地味にきつい制約がある代わりに呪いや魔法の効果も軽減してくれるという加護。戦闘力もその辺の上級魔獣を一人でしとめることができるかもしれない、というほどの強さまで行きます。竜とも軽く渡り合えます。

この世界で人間が竜と戦えば当然それなりの犠牲が必要になりますが、それを一人で倒す。

人間としては規格外なのです。あくまで人間の範疇ですが。

とんてんかん。

とんてんかん。

とんてんかん。


トンカチが奏でる子気味良い音が響く早朝。

チュンチュンとさえずるスズメ的な鳴き声。


平和である。

平和に風呂桶を作っていた。

タコの僕に風呂は必要ないので当然ながらやまい専用である。


「すぐ大きくなるだろうし・・・大きめに作っておこうか。」


子供の成長は早いって聞く。

グリューネに頼んで見つけた檜(ひのき)をたっぷり使って、しっかり作りこむ。

それにエンデに空けられた動物の皮だけで防いだ大穴もしっかり防がないとだめだ。

どちらかと言えばそっちを優先するべきかもしれない。

何にしても材料が足らないな。


思ったよりこの付近に生える檜が少なかった。

それに最近、グリューネに合わせて調理したものばかり。

たまには生でガッツリいきたい。

生で血の滴る肉を、生で体液噴出す脳漿を。

久方ぶりに狩ってその場でむしゃぶりつきたいものだ。


欲求不満を抱えつつ、とんてんかんとトンカチを打ち付ける。


「なにをしてるの?」

「うーん?

お風呂を作ってる。」

「・・・ふぅん。」


分かったのか分からないのか、やまいはそれだけ言って黙る。

しかし目線はずっと僕の手元だ。

それにしても僕の足が10本もあると便利極まりない。

切った木材を抑えるための道具や人手が要らないため、ちょっとした小屋くらいまでなら一人で大した手間も無く作れてしまう。

今も、二本の先っぽを人の手に擬態して、残りはすべて木材を支えたり、抑えたり、カンナにかけて木材をまっすぐにしたりと効率よく作業している。

特にカンナがけは風呂として使うため、表面を滑らかにするために必要不可欠な工程だ。

一つ一つの木材を丁寧に仕上げていく。


作業をしながら今日の献立は何にしようと考えたところで、ふと思いついた。

昨日の黒いオーラ、もとい邪竜の加護とやらが上手く使えないやまいをおいていくわけにも行かない以上、狩りなんてとてもじゃないができない。

と思っていたのだが、何も僕自身が狩りをしなくても良いという事実に気づいたのである。


「ふふふふふ。さっそく捕りに行きますか。

やまい、一緒に行こう。」

「・・・?」


首をかしげるやまいに狩りに行くことやそれに関する注意事項、なぜ連れて行くかの説明をした後で、僕達は森に入っていくのだった。


☆ ☆ ☆


「いたいた。やまい、声を出しちゃ駄目だからね。」

「う、うん。

なにをするの?」

「要は食べ物が手に入れば良いって事さ。」


僕は固定概念にとらわれていた。

働かざるもの食うべからず。

日々の糧は自分で稼ぐのが普通である。

動物なれば。

しかし、動物にもそのやり方は千差万別。

自分で捕らえる肉体的にしんどいものもあれば、待ち伏せしてとおりかがるやつを狩る動物も居る。


僕の場合は前者と後者の中間で、臨機応変に対応といったところだ。

それはともかく今日は新たな狩りの方法を試そうと思う。


「やまいはこれをつぶして、体に擦り付けて。」

「・・・くちゃい。」

「その臭いが他の動物を遠ざけてくれるんだ。」


やまいに渡したのは獣よけ。

グリューネに教えてもらった植物の実で、それを専門に食べる蛾の幼虫やサルがいるそうだがそれら以外はまず近づかないほど。それを身に付けていれば、よっぽどお腹が空いてない限り襲ってきた相手から逃げるほどの臭いを放つ実である。

臭いといっても魔力的な―魔力を持つ物ほど臭く感じるという不思議な香料のようで、物理的な物ではないため時間が経てばすぐに薄れる。

その上、人間からしたら多少臭う程度であるため獣除けとしては重宝されるそうな。

とはいえこの木の実―アンブロシアが成る木の個体数はこの広大な森でも少なく、かなり貴重なものである。

グリューネさんが少し照れたように『獣よけよ。メープルシロップ欲しさに持ってきただけだから。』とつぶやいて置いて行ったものだ。

どう考えてもやまいの身を案じてのことだろう。

その言い分ではグリューネが必死に否定していた食い意地張ったキャラになってしまうのにもかかわらず、良い人である。その良いわけで良いのかなとちょっと思ったが、親切心なので何も言わずありがたく頂戴した。


ちなみになぜ僕がこの実を前にして普通に過ごせているのか、またもや驚いているようだったがスルーした。

普通は実に近づくのも嫌がるらしい。

とはいえ、そこは僕が考えても仕方ない。


僕も獣よけが使えてラッキーと思っておけば良いだけである。

魔人、もとい動物よりの人であるやまいにはちょっと臭いが気になる様子だが、それでも効果は抜群。我慢してもらおう。

僕がちょっと離れてる隙にその辺の獣に襲われるわけにも行かないので。


そして気になる今日の獲物だが、僕の視線の先には人が三人。

女性の魔法使いに男性二人。

一人は筋骨粒々のボディビルダーのような男。

重装備に身を固め、機動力の無さをリーチの長い槍で補っているようだ。

盾も俗に言うタワーシールドの類で、その巨漢すら楽々と隠せるほどの大きさを持つ。

実に重そうだ。


そしてもう一人の男は遊撃タイプと呼ばれる者だろう。

筋肉は細く締められていて、装備もそんなにがっちりとはしていない。

右手には普通の剣より短いショートソードと呼ばれる類のものに、左手にはこじんまりとした盾を装備している。


それぞれの武器防具に動物の素材が使われているらしく、見た目的にもかっこよかった。


そして女性は短いスカートに短パン。

短めのローブと言った感じだ。

ただローブに魔力がこめられていることが分かるので、おそらく見た目どおりの防御力ではないと思われる。

なんてことはさておき。

目の前の獲物につい舌なめずりをしてしまう――なんてことはタコである僕には土台無理な話だけれど。


「さて、良い具合に弱っているみたいだし。頭からマルかじりといこう。」


僕は目の前の冒険者達の背後から一気に這い寄って、まずは一番後方に居た魔法使いの女性を触腕でぶったたいた。

短い悲鳴を上げて、吹き飛ばされた女性冒険者は何度か木々にぶつかり、動かなくなった。

やりすぎたかもしれない。正直力の加減が分からん。

当然立ち止まることなく、そのまま突き進み、一番厄介そうな遊撃タイプのお兄さん。

もとい遊撃お兄さんをしとめにかかる。


「なっ!?」


魔法使いが倒れて気づいた冒険者残り二人は即座にこちらに向き直ろうとしたが、そもそも冒険者がここにいるのは何らかの目的があってきたためだ。

彼らの目的はこの森に住む動物を狩ってその素材を売ることだろう。

もしかしたら装備の強化かもしれない。

なんしても僕がそう判断したのは彼らの目の前に相対していた動物が根拠である。

逃げようともせず、ひたすら目の前の肉食動物とやりあっていたのなら誰でもそう予想が出来る。

ゲームじゃないのだから、目的と外れていれば即座に逃げてしまえば良い。

逃げずに戦ったと言うことはなんらかの危険な動物とたたってまで得たい利益があるということだ。


彼らは驚いただろう。

彼らが相対してるカマキリを大きくしたような動物はこの森の中でも中堅クラス。僕だって正面から渡り合いたいとは露ほどにも思わない。

それを回復呪文なり、ちまちま削るなりでようやく目的の動物(カマキリ)を狩れると思ったのに、突如乱入してきた巨大タコ。

そのタコが彼らの獲物を『横取り』しようとしているのだから。

タコに向き直りたくても、目の前のカマキリだっている。

彼らは挟み撃ちでうろたえていた。さらには魔法使いのほうも心配なのだろう。浮き足立っていた。

ここが好機とばかりにカマキリは重装備おじさんに猛攻をしかける。それを凌ぐ重装備おじさん。遊撃お兄さんは僕に向き直る。


僕の獲物は当然人間じゃない。

精神的に食べたいとは思わないし、野生動物のほうが遥かに美味しそうなのだからわざわざ好んで食べるほどではない。

彼らが相対する動物こそが僕の獲物だ。

適度に弱らせてもらった彼らの獲物を僕が獲物とする。


なんという頭脳プレイ。

これならば忍び寄る必要も無い。

やまいを連れる事で、真正面から戦うのは危険であるということも気にせずに済む。

なにせ相手方は冒険者達に弱らせてもらえるのだから。

一から獲物を取るよりも遥かに時間がかからず、その分やまいが危険にさらされる時間も減るということ。

人間側も疲弊しているので、どちらと相対しても大した労力ではない。

もう一度言おう。

なんという頭脳プレイ。

今度から僕は孔明と名乗っても良いかもしれない。

いや、名乗らないしこの程度で名乗れるほど軽い名前ではないだろうけれども。

正直、ただ姑息なだけな気がするが、これもまた立派な生存戦略。

許せ、冒険者の方々。


というわけでちょこまか動く遊撃お兄さんを触腕で絡み取ったあとに、思いっきり分投げて木に叩きつけ、動けないことを確認した後、ダイオウオオカマキリ(僕命名)とやりあっている重装備お兄さんを見る。

見て、どちらと戦ったほうが楽かを考え、まずはカマキリをしとめるべく周りの風景の色と体色を合わせてカマキリの背後にしのびよる。

激しく動くカマキリの体にずるずるとタコの体で張り付き、首元にまで来た後、エアスラッシュで一思いに頭を落とした。

この巨大なカマキリのように体が大きい生物だと体に張り付いて至近距離から致死性の攻撃を、というのが出来て楽で良い。

しかも今は戦闘中で激しく動く重装備おじさんに気を取られている最中。

楽勝だった。

今日は豪華なご飯が出来そうだ。

この場で軽く食べて、帰ってから調理してやまいのご飯としよう。


重装備おじさんは僕を警戒して槍を構えるが、仲間も気になるようでじわりじわりと距離を取っている。

僕はおじさんをスルーしてカマキリをひきづってやまいの元へと戻る。

もちろんやまいの姿が目に入らないようにカマキリの巨体を盾にしながらだ。


このまま去っていけば彼は追ってくるまい。

そのためにそこそこの怪我をお仲間に与えたのだからして。


重装備おじさんの仲間を心配する叫びをBGMに悠々と帰る僕とやまいだった。



☆ ☆ ☆


途中やってきた動物も臭い木の実、アンブロシアをすりつぶしたものをすぐに破けるほどに削った羊皮紙で包んだものをぶつけるだけで去って行く。

やまいも僕も怪我一つすることなく帰ってきたのであった。


「・・・だ、大丈夫かな?

その、横取りして良いの?」


そのやまいの不安げな表情を見て、カマキリの体に彼らの名前は書いてないじゃないかと思って、口をつぐんだ。

たとえ冗談でもこの言い分は無いな。

子供かっ!と言う話だ。

まじめに答えるならばこれもまた弱肉強食、と言うのは簡単だが、将来やまいはおそらく森を出るだろう。

今でこそこうして僕と一緒に居るが、それはそうするしかないからだ。

全種族から嫌われるという加護の副作用があるからだ。

嫌わないで居てくれる存在が僕とグリューネしかいないからだ。


しかし、グリューネの言うペヅェリさんとやらに加護を貰えば外で過ごせるようになるかもしれない。

そうなれば子供、というか誰だって森という環境だけじゃなく、世界を見て回る、少なくとももっと人と触れ合いたいと考えるはず。

僕は今のところ森で色々と満足しているのだが、もともとここに居なかった彼女は違うかもしれない。故郷に帰りたいと思うかも知れない。

嫌われなくなるのだからそう考えても不思議じゃない。

村人を殺す際に親を殺してしまったのか、それとも逃げ出したのかは不明なものの、副作用がなくなれば親と会いたい、と考える可能性もある。

となれば保護者として。

保護者として外に出ても良い価値観を備えさせる、とまではいかずとも少なくとも知識としてでも良いから教えておくと言うのは義務かもしれない。


人間社会はある種の弱肉強食ではあるものの、森とはまた違ったベクトルである。

ううむ、なんと答えるべきか。


駄目だけどいいんだよ?


いや、わけわからん。


考えるな、感じろ!


いや、ないな。何を感じろと言うのだろう?


実はあの冒険者達は悪者だからいいんだよ。


これだっ!!

彼らには悪いが悪者になってもらおう。

あいつらは悪いからそいつらから物をぶんどっても構わないのさ!!

盗賊がやってきたので、返り討ちにして身包みを剥いだことの何が悪い!的なノリで・・・いや、だめだ。

悪者だからと悪者に対して悪者のようなことをしていたら、それは悪者だろう。

いや、一口に悪いと言ってもさまざまな悪さがあるのだが。


こうしてうんうんと考えると日本の道徳の教育ってすごいなぁって思う。

あそこまで人殺しに忌避感を抱くような教育が出来てしまうのだ。

そこをもっと別の、たとえば小さな子供大好き!子育て大好き!!子作りパンパンしようぜ!!と思えるような教育を施せば子作りがしたくなってしたくなって若旦那、若奥様が急増して少子化や年金問題が一挙解決なんてことも――ないな。

中高生の段階で安定した収入を得られるほど単純な構造に今の社会は無い。


閑話休題。


変に難しいかんじに思考がずれていったが、何が言いたいかと言えば僕がこうして子供を教育する側に回るととたんに分からなくなるということだ。

悪者だからぶっとばしてもいい。なんていう視野狭窄を起こして欲しくはないし、かといって弱肉強食だから良いみたいな野性動物の価値観をつけてしまうのも、いずれ外に出る人間に対しての教育としてはどうかと思う。

が、けれど、だ。


誰しも小さな時は親を信じ、親が何事も正しい、親は間違えない、と思い込んでいるが、それも成長していくごとに徐々に徐々に気づいていく。

多角的な思考を得ていく過程で気づくのだ。

自分の価値観だけがすべてでないことに。


っと、すっかり保護者気分でいるのもつかの間。とりあえずだ。

もう、めんどくさいからそれっぽいこと言って終わりにしてしまおう。

そう思ってしまう僕は保護者失格なのだろう。多分。


「いいんだよ。カマキリだからね。」

「カマキリだとどうして・・・」

「カマキリだとそういう決まりが出来るんだ。」

「・・・?どういう決まり?」

「こういう決まり。」


手で適当に円を書く。


「・・・分からない。」

「大人になっていくうちに分かるようになるよ。」


まずこんな感じにしていたら、分からないだろうけれど。

その日の夜、僕は寝る前にちょっと考えてようやく冷静に。

猛省して、次の朝には。


「自然界ではね。

弱肉強食の世界なんだ。自然にいるうちはこの掟が絶対。

弱い生物は何をしても文句を言えない。やまいも自分で何かやりたいことを見つけたらまずは力をつけるんだ。」

「力を・・・?」

「そう。力ない正義ほどむなしいものは無いのさ。」


真面目に教育しようと思っても特に思いつかなかったので、漫画とかで見るそれっぽいセリフを引用した。

これが僕の限界だった。子育てなんてしたことないもの。だってタコだから。


「・・・分からないけど・・・分かった。」


なんとなく分かってもらえたようで、やまいの目には何かの意思が宿っていたように見えた。



感想への返信


まず感想の疑問について。

》というか寝てる間に変化が解けて、朝起きたらタコの姿になってるとかにならないんだろうか?

A人の姿は解けます。寝ながら筋トレが出来ないように、やまいを寝かしつけるまで人の姿だよ!っていう話。説明足らずでした。


》最近の話だと人化、少女の世話となり、タコやグルメ、サバイバル要素が薄くなりありきたりな展開になってます

A誰か主人公を魔獣だと知るレギュラーキャラがもう一人欲しかった。普通の人だと都合良くタコであることを受け入れるなんて無理かな、と思ったので。この世界の魔獣に対する人間の対応はゴキブリに対する日本人みたいな感じ。

当然、それそのままというわけではないですが、忌避感の強さでは同等くらい、という設定。

そういう価値観に染まっていず、森に引っ張っても問題ないということで奴隷の子供と言うことに。今回からは今までみたいに戻ると思います。お付き合い頂ければ。


動物豆知識


ヒノキは伐採後、100年ほどかけて徐々に徐々に頑丈になっていくという不思議な木材だそうで、世界遺産の建築物に使われているのもヒノキだとか。

ヒノキだからこそ何百年と現存できていたそうな。

ちなみになぜ伐採後に徐々に頑強になっていくのかは詳しくは分かっていないとか。

面白い木材ですよね。ちなみに作者はヒノキの香りがめちゃくちゃ好きです。

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