↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
タコのグルメ日記  作者: 百合姫
Ⅳ章 豊饒の森

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

31/110

少女の予後

「ま、まるで反応を示さん。」

『何を買ってきたかと思えば・・・くだらないわね。』

「だったらグリューネが留守番をしてくればいいんだ!」

『いやよ。なんでそこまで束縛されなくちゃいけないのかしら?』

「ご飯。」

『・・・う、うるさいわね。

樹液の出る木々や香辛料としての植物とか色々教えてあげてるじゃない。

そもそも、私は森の全生物の味方なの。貴方一人にそうそう贔屓できるわけないでしょう?

少なくとも戦うことは無いわ。』

「・・・だから連れてきたんだよ。

けど、本当に無反応なんだなぁ。」


ぜんぜんピクリとも動かない少女。

あ、そういえば名前も知らなかった。


「とりあえずメープルシロップを作らないとな。こんなことなら作ってから買い物に行けばよかったよ。とりあえず水を飲ませておかないと・・・おおっ!?」


少女が漏らした。

おしっこを漏らした。


「え?ええええっ!?」


しかし少女はノーアクション。

なんてこったい。

尿意を覚えたら何を考えるまでも無くそのまま出すってことか。

ここまでのものとは思わなかった。

これは早急になんとかしないといけないぞ。


「グリューネ、エンデを治したときのアレは使えないの?」

『無理よ。』

「なんで分かるの?」

『彼女の姿を見れば分かる。

瞳孔が開いて、髪の毛が白く染まる。そして目が赤く染まる。この症状から見てアラフレシアと呼ばれる植物が原料の強力な心壊剤を使われたみたいだから。私のあの魔法じゃ治せない。亜人が好んで使う薬ね。亜人としての特徴――鱗や動物の耳や尻尾といったものも腐り落ちるから・・・ほら、頭に角がついていた跡がある。アラフレシアと断言できるわ。』

「治す方法は知ってる?」

『治す薬は存在しないわ。

この薬を亜人が好むのは同属殺しを禁忌とするため、たとえ仲間を殺されたからと言って殺し返せない。けれど殺さないで居るのは大きな不安が残る。

しかし中途半端な懲罰だと報復されるかもしれない。

ゆえに報復がまず無理だからということで使用される薬剤。』

「こっちの方がよほど禁忌にすべきだと思うけど・・・まぁいいや。そうか、治せる手段は無いのか・・・」


とりあえずメープルシロップを試してみるべきだな。

まずは―


「おしっこを片付けないと。」


雑巾を取り出して、拭いて、少女の服も剥ぎ取る。

子供なので目を奪われることも無い、と思っていたのだが、ついつい凝視してしまった。


「尻尾?」

『尻尾だけ残っていたのね。』


細く短い尻尾が生えていた。

元気なく垂れているが、下着の中に納まっていたようである。


「腐り落ちてないね?」

『うーん・・・判別がつきづらいけど、竜に近縁な亜人なのかしら?

だとすれば元々はかなり太く強靭だったろうし多少は残っていても不思議は無いと思うわ。』

「なるほどねぇ、とりあえずこの服は―洗濯して棚に突っ込んで、日々の服は新しく作っちゃおうか。また汚されても困る。」


来ていた服は店で着せられたゴスロリ調のもの。

これがぼろっちかったら捨てていたが、捨てるのはいささか勿体無いくらいに可愛い服だ。

とりあえず脱水状態にならないように口をこじ開けて水を飲ませたあと、メープルシロップ作成にとりかかった。

余談だけれど、タコの姿をした僕に触腕で無理やり口をこじ開けられた幼女の姿はちょっと官能的だった。


それにしても、これで治らなかったらどうしよう?

非常に面倒な世話が――いや、そのときはそのとき。奴隷から開放してあげればいいのだ!

といえたらどれだけ良かったか。

この状態でほっぽってみろ。

まず間違いなく肉食動物の餌になる。

彼女を引き取り、ここに連れてきておいてそのまま知らん振りというのはさすがに気が引ける。

僕が好きなのは「悪役」であって「悪人」になりたいわけではない。


その時は死ぬまでこの幼女の介護生活が――そ、そんなのごめんこうむるぞ!!

なんとしても治さなくてはならない。


とにかくたっぷりのメープルシロップを作ってからの話だ。


☆ ☆ ☆


「よし、これを飲んで・・・また口をこじ開けるしかないのか。」


やはり口をあけるどころか何の反応も示さないので、どろりとしたメープルシロップを手に塗りつけて、他の触腕で少女の体を固定、口をこじ開ける。

うつろな目の少女の口をこじ開けると、唾液を引きながら真っ赤な舌がそこに現れる。

そこにつつーと垂らすと、舌がピクリと動き一気に僕の指にかぶりつく。


「うひぉぃっ!?」


いきなりの過敏な反応にビビッて手を引いたが、口を離さずそのままニュルルと舐め取ってくる。

え、何。この反応。


「・・・。」

「・・・えと・・・」


舐め取った後、また反応がなくなる少女。

なんだったんだろうか?

が、とりあえず進展したと思えば良いのか?


しばらく待つ。

リアクションなし。


眠くなったようでそのまま眠ってしまった。


「どうみる?」

『分かるわけないじゃない。言ったでしょう?

本来治せる手段のあるはずのない薬剤だって。反応があっただけでも驚き――な、なんて無いけどね!

いい加減驚かされる私じゃないわっ!!』

「・・・?」


なんか胸を張るグリューネ。

いまいち言ってることが分からんので、とりあえずスルーしよう。


「ご飯狩ってくるから、この子の様子を見てて欲しいんだけど・・・もとい、万が一にでも動物がこの家に寄ってこないとは言い切れないし・・・」

『何度も言っているじゃない。それは却下。ただでさえ、色々と融通を利かせているのに・・・そもそも貴方が引き取った子なのよ。

責任を持って貴方が見なさい。あまった触腕で抱えながら狩りに出かければいいんじゃないかしら。』

「んな、無茶な・・・樹液のストックも今回ので使い切っちゃし、メープルシロップも作れないんだよ?」

『・・・か、甘味でつれるほど意地汚くないの。私は。』

「ちっ。」


だんだんと食べ物で釣りづらくなってきた。

そうそう上手くはいかないか。

というか、いまさらながらに気づいたのだがもしもこの少女がこのままだと危険すぎて家において置けない。

すると当然狩りにはこの子を抱っこしながらいかなくてはいけないわけで、難易度が跳ね上がるだろう。


くっ、今更ながら奴隷を引き取るなんてことしなければ良かったと後悔しても遅い。

思いつきはやっぱり良くない。

というか今まで、思いつきがすんなり成功したためしが無い気がする。

今度からもう少し良く考えることにしよう。

反省をしつつ、とりあえず今日は家に帰ってきたばかりだしもう寝ることにした。

明日のことは明日に。寝てから考えることにした。


「もう寝る。」

『・・・そう?晩御飯は作らないの?』

「気分じゃない。寝る。」

『せ、せっかく来たのに・・・まぁいいわ。おやすみ。』

「おやすみ。」


寝る前の挨拶をして、グリューネはパッと消えてしまった。

一体どうなってるのやら。


そして少女を――いい加減名前をつけることにして、名前は何が良いだろうか?

白い髪の毛だからシロ?

いや、さすがに安直過ぎる。

本人に名前を聞こうにも聞ける状態じゃないし。

治ってから聞くか?

いや、でもいつ治るかも分からない。

治るかどうかで言えばあまり心配してなかったりする。

反応を示したと言うことはなんらかの効果があるということで、これから続けていけば治る可能性も無きにしも非ず。

いや、治ってくれないと僕が困る。

病(やまい)を患っているって事で、やまいとでもなずけようか。

よし、そうしよう。

なんとなく日本人っぽい雰囲気の名前だし、幸いこの世界にYAMAIと発音する病気を意味する言葉は存在しない。

聞かない響きに戸惑っても、極端に変だとは思うまい。

そもそもこれは仮称。

便宜上の名前として使うことにするから、後で本名が分かればそれで呼べばいいだけである。


「やまい。ぐっすり寝て、早く治して、僕の手と足となって役立ってくれ。

当然報酬も支払うからね~。」


奴隷ゆえにいやな仕事だからとやめられないが、きっちり報酬を支払う分、僕は良心的だろう。

そもそも心を壊すとかいう病気を治してあげるんだからその分の働きはしてほしい。


なでりこなでりこ。

この時の僕は本当、浅慮が過ぎた。

心を壊し、体の一部を壊死させるほどの薬剤。否、劇薬を飲まされた少女に対しあまりにも甘い見通しだったのである。


☆ ☆ ☆


あれから一週間が過ぎた。

いまだにメープルシロップを飲ませ続け、ただ垂らす糞尿を片付けるというヘヴィな介護生活を続ける僕。

赤ん坊が母親のお乳を飲んで固形のウンチを出すように、メープルシロップという液体しか摂取しなくても固形のウンチを出すことをちょっと不思議だなぁとか考えることが出来るほどに慣れつつあっても、まだかかるのかなぁと憂鬱になりかけていたところだ。

少女が起き上がった。


「・・・?」

「やったぁあああああああああああああああああっ!!」

「・・・?」


思わずガッツポーズ!!

最早、半ば諦めていたのでそのギャップもあって、一週間が経った後の目覚め後、自分から動き出したことに僕はかなり喜んだ。

おっと、人間の姿になっておかないと。

タコの姿を見せるのは折を見てということに。

少女はゆっくりと顔をめぐらせ、僕に焦点を合わせると少し驚いた後、あたふたしながらハンモック式ベッドの奥に逃げ、部屋の隅で縮こまった。


「・・・誰?

いじめっこ?」

「・・・いじめっこじゃないよ。」


この子が本当に同属殺しをやったというのだろうか?

端正な顔立ちも相まって、おびえてる姿は弱弱しくか弱く、守ってあげたいと思わせるほど。

とてもじゃないが強そうに見えない。

気配探知(タコレーダー)で探っても一般人・・・どころかそれよりも極端に弱く感じるほどだ。

少なくとも魔力量はかなり低い。


「ほんとう?」

「本当。」

「そう。安心した。」


そのまま近寄ってきた少女は僕にぎゅっと抱きつく。

何があったかは分からないが不安だったんだろう。

同属を、それも村単位での殺しをするような子供には見えないが、何か深い事情でもあったのか?


「っどうして・・・?」

「どうかした?」

「・・・う、ううん、なんでもないよ。」


少女はすぐ、僕から離れ、自分を抱くようにして震えていた。


その夜。


「はい、ご飯。」


ご飯は買って来た穀物を湯で溶いたもの。

いわばおかゆだ。

今まで液体以外口にしてこなかった体にちゃんとしたものは負担が大きいだろうと思って。


「あ、ありがとう。」


戸惑ったような表情で、やまいは言う。


「やまいはいくつ?」

「えと・・・5歳。」

「そう。」


会話が終わってしまった。


いや、子供に話を振るのってどうすればいいの?

家族のことを振るのが良いんだろうが・・・わけありだし、あんな場所にいたということは親とは何らかの形で別離した。

気遣いが疲れる。


「お姉ちゃん。」

「何?」

「・・・お姉ちゃんって亜人?」

「いや。違うけど。」

「その尻尾は?」

「・・・ううむ・・・まぁ見せても・・・いや、けど早いかなぁ。」


もともと長い付き合いになるつもりだったので触腕は見せてしまえと思って、やまいの目の前で隠さなかったのが失敗か。

触腕でタコの足の姿に慣らして、しばらく経ってからタコの姿を見せようと思ったのだがもう面倒だ。

考えるのも面倒だし、気遣うのも面倒。

どうせバラすつもりだし、見せてしまおう。


「僕はちょと特別な動物・・・いや、一般的には魔獣と呼ばれてる生物だよ。そして多分オスの。お姉ちゃんとは言わないね。正確には。」

「・・・え?」

「ほら。」


とりあえず今日のところは腕の擬態だけに留めておこう。

人間の腕が解けるように崩れ、盛り上がったのはタコの腕。


「・・・っ!?」


やまいはおかゆを引っ掛けて服を汚しながら、後ずさる。


「た、食べるの?」

「何を?」

「わ、私。」

「食べないよ。」

「・・・。」

「それで、亜人の方が良かった?」

「・・・別に。魔獣ならいい。」


少し恐怖の色が見えるが、歳の割には落ち着いている。

さらには魔獣ならいい?

それはどういう意味での「いい」なのだろう?


なんにせよ価値観的な面では愛称がよさそうだ。

純粋な子供ゆえだろうか。


「それとやまいってなぁに?」

「君の名前。

君は・・・病気でね。意識がなかったんだよ。」

「ふぅん。」

「本当の名前を教えてくれる?」

「やまいでいい。

ほんとうのなまえ、忘れたもん。」

「そう。」


そういう彼女の目はどこか遠くを見てるようだった。

その後、やまいが寝静まったころにグリューネが来た。


『気づいてないから言っておくけど。貴方、殺されそうになってたわよ。』

「は?」


誰に?


『この子に。』

「なんで?ていうか、いつ?」

『最初に抱きつかれたとき。』

「・・・こわ。さすが同属殺し?」

『感心してる場合じゃないでしょう?

薬の影響で弱体化してたからよかったものの。

竜人に・・・それも同属を、大人の竜人を殺すほどの力を持つ子供に抱きつかれるなんて自殺行為もいいところ。

いくら貴方でも多少の怪我は負っていたでしょうね。』

「・・・でもただ抱きつかれただけだった気が・・・まさかっ!!僕がそれだけ強くなりすぎた・・・ん?

薬の影響?」

『心を壊し、一部とは言えど体の組織を壊死させる。

そんな劇薬が体のほかの部分になんら影響を与えないとでも?

彼女の体はぼろぼろ。

ろくに戦えないでしょうね。でも、そのことに気づいた彼女がどんな行動に出るか・・・初対面の人間をいきなり殺そうとした少女よ。

見た目に騙されないように注意しなさい。』

「・・・そうか。」

『私からの話はこれだけ。

それじゃあね。』

「このためだけに?やまいが寝静まるのを待ってまで?」

『・・・な、なによ?』

「ふふふ、ありがとう。なんだかんだで優しいね。」

『め、メープルシロップが欲しいからよっ!?

貴方のことは多少でしかないしっ!!』

「多少でも心配してくれるとはうれしいよ。」

『・・・そう。なら感謝の印を――』

「ああ、明日はちゃんと甘めのご飯を作るよ。」

『・・・ならいいわ。・・・じゃあ、帰るから。』

「おやすみ。」

『・・・おやすみ。』



殺そうとした、ね。

つくづく面倒な少女を拾ってしまったものである。

なによりも、当初の目的が・・・目的が果たせなくなった。

留守番役はもう一人買いに行ったほうがいいな、うん。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。