秋愁 【月夜譚No.424】
掲載日:2026/10/18
目の前を蜻蛉が横切っていった。それを追って顔を横に向けると、薄が風に揺れる河原の上を悠々と飛ぶ小さな姿が遠ざかっていくのが見えた。
夕陽を反射して煌めかせる羽に、もう夕暮れなのかと気づかされる。最近はすっかり陽が短くなって、肌を撫でていく風も冷たいと感じることが増えた。
秋の夕暮れは、どこか物淋しい。あれだけ鬱陶しいと思っていた暑さも、なくなると恋しくなるのだから、勝手なものである。
昼と夜の間の時間。それを〝黄昏時〟というのだと教えてくれたのは、誰だっただろうか。その記憶は今の時刻のように曖昧で、どうしても思い出せなかった。
はっと我に返ると、陽はもうほとんど沈んで、街灯が点き始めている。川から這い上がるような冷気に手を擦り合わせ、リュックを背負い直して歩を再開させる。
今夜は温かいものでも食べようか。メニューを考えながらスーパーに向かう気分は、少しだけ明るかった。




