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7.苦しいです


ユーリと出かけたあの日から何かが変わった。

朝はアレンが来るようになった。

朝食も昼食も夕食もアレンと団員と食べている。ユーリがいない。

いや、正確には側にいない。


「ユーリは?」


アレンは苛立っているオレに少し怯えた様子だった。


「えっと、新人の教育をしています」


「……あっそ」


こんなに苛立つのはきっと意識し始めているらだ。

ユーリはオレに飽きてしまったのかもしれない。

もしそうなら1年後は別の奴が死ぬだけだ。オレじゃない。

嫉妬で狂った獣に抱かれるのもオレじゃない。


「団長、魔物が!」


「……わかった、すぐ行く」


良かったじゃないか。

そう思うのに、どこか胸が苦しくなった。




今回の魔物はキラーラビットだった。可愛いくせに素早くて攻撃能力が高い。

剣では難しく魔法で倒していく。

魔法部隊が主に攻撃をしてくれるため、彼らを守らなくてはならなかった。

剣で防ぎ切れない傷が刻まれていく。どうにかして避けてはいるが後ろの魔法部隊の方に行ってしまう。


「あー!くそっ!めんどくさい!」


ちまちま倒して行くのに苛立ったオレは魔法に切り替えキラーラビットを倒していった。


「団長、もっと早く魔法で倒してくれれば良かったのに」


「お前たちの練習にならないだろーが」


疲れた、とアレンの横に腰を下ろす。ユーリは魔法部隊と話をしていた。賑やかな声が聞こえてくる。


「……なんだよ、それ」


アレンの肩に頭を置く。


「団長?大丈夫ですか」


「疲れたんだよ、肩貸して」


はぁ、とため息を付いた瞬間。急な頭痛に襲われる。あまりの痛さにアレンの腕を掴む。

アレンが呼ぶ声は聞こえるがどんどん遠くなっていった。

目の前が真っ暗になった。


「どうしてまたっ……なんでっ」


ユーリの悲痛な声が聞こえた。血溜まりに倒れているのはオレだった。しかし、前世のオレとは場所が違った。

オレの自室だった。

ユーリはオレを刺した剣を自分の首筋に当てる。


「ユーリ、やめろ!」


オレの声は届いていないようだった。


「……貴方に会いたい」


首筋から花を散らすよう吹き出した血はオレの血と混じり合う。

その瞬間、倒れているオレたちの血が光り輝いた。

とても眩しく目を開けていられなかった。

「くっ……!!」



目が覚めると自室にいた。

窓の外には綺麗な満月が憐れむようにオレを照らしていた。

体を確認すると服は寝具に変わっていた。キラーラビットから受けた細かい傷も治っていた。


「……起きられましたか?」


部屋の奥から足音が聞こえる。

月の光の下に現れたのはユーリだった。

オレはどうしようもないくらい心臓が鳴っていた。

恐怖とかではない。緊張でもない。

好意の高鳴りだった。


「ユーリ、どうして離れた」


「貴方をお慕いしているからです」


嬉しかった。

しかし、ユーリはオレを見ていない。オレを見ているのにオレじゃない何かを見ていた。

心が急速に冷えていく。


「じゃぁ、オレにキスしてみろよ」


「できません」


オレは知ってしまった。

どうしてユーリが壊れてしまったのか。


「それがいけないのか?それがお前を縛り付けているのか?」


オレはユーリのネックレスに手を伸ばし、引きちぎる。

ユーリの瞳が大きく見開かれる。


「か、返してっ」


「なぜ?」


「お願いだから、お願いします」


ユーリは壊れたように土下座をし懇願する。

悔しかった。ユーリはオレを見ているはずなのにオレを見ていない。


「お前は!」


ネックレスを投げようとしたが投げれなかった。


「……お前は、何を見ているんだ。オレを見ているはずなのに……見てない。誰を見ているんだ」


「お願いします。返して下さい、お願いします」


「ふざけるな!お前っ……くそっ」


オレはユーリの目の前にネックレスを落とす。

ユーリはネックレスを大事そうに胸に抱える。


「なんか言えよ。教えてくれよ。オレ、分からないんだよ」


全部分からない。知らないユーリに知らない記憶。

あったはずの記憶はピースを失くしたパズルのようだった。

殺されたはずなのに。憎しみは持てなかった。


オレはユーリの涙で濡れた頬に触れようとしたが触られないように腕で払われてしまった。


「……なぁ、お願いだよ。教えてくれよ」


赤い禍々しい瞳と黒いモヤがぶわ、と出てくる。


「なんだ、そっちのお前が教えてくれるのか?」


あんなに大事そうに持っていたネックレスを投げ捨てオレをベッドに押し倒す。


「ユーリ、誰を見ている?オレを見てよ」


脱がされていく寝具。背中に差し入れられた手は背骨をなぞるように下へ向かった。


「ユーリ、オレを見て」


赤い禍々しい瞳の中には、オレの姿が映っていた。
















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