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9.死にかけました



村を出て道を走り抜ける。月が道を照らし、森の中はとても走りやすかった。

オレの頭の中はユーリが支払った対価だ。小さい願い事をしたこともあるかもしれないがユーリのことだ。

普通の状態だったら、対価を支払ってまで使わないはずだ。

寧ろ大事に取っておきそうなくらい。

そんなユーリが使ったっていうことはのっぴきならない理由があったのだろう。

あの時見た自室で絶命していたオレの姿が頭に浮かぶ。



それはきっとオレの死、だ。


そうなると、あいつはオレを殺しては自害をして戻って来ていることになる。

散りばめられた記憶に入ろんなユーリがいた。

壊れた、とユーリは自分のことをそう言っていた。

対価を支払ったのは1回や2回ではないのだろう。もっとたくさん。


「あいつは馬鹿だ」


馬がいきなり止まった。先へ行くのを嫌がった。


「魔物、か?」


目を凝らして見るともっとたちが悪いものだった。


「最悪だ!」


剣を構えるとそれは俺目掛けて攻撃を仕掛けてきた。

ぶつかり合い剣が火花を散らす。


「ユーリ!!」


赤い禍々しい瞳で黒いモヤが尋常じゃないほど出したユーリが立っていた。

馬を降りて体制を整えると凄まじい速さで襲いかかってくる。

剣で受け止め、魔法を繰り出すが避けられてしまう。逆にその隙を付いて攻撃を仕掛けられ至る所に傷を作ってしまう。

ユーリからの剣を避けたが、蹴りが飛んできた。それを受け止め草の中に吹き飛ばされ、地面に転げ倒れる。


「……まだキラーラビットの方が可愛げあるぞっ!」


休む間もなく振り下ろされた剣を自分の剣で受け止める。

息が上がり、上手く息を吸えず肺が痛い。元々強いのもあるが、呪いの力も相まって気を抜けば一瞬で殺されそうだった。

力で押し負けそうになり、ユーリの剣先がオレの首筋に傷を作る。

オレは一か八かの賭けにでた。

迷っている暇はなかった。


「…………好きだ、ユーリ」


ぴたり、とユーリが動きを止めた。

オレはその隙に下から蹴り上げユーリの下から抜け出す。

ユーリから逃げ近くにあった岩の影に身を寄せる。今のユーリにはどうしたって勝てない。

息を殺し、近付いて来る足音に耳を済ませる。鼓膜に心臓があるかと思うくらい音がうるさかった。


足音が遠ざかる音がした。


顔を上げ、岩から顔を出すとユーリが目の前にいた。最初から分かっていたのだろう。まるで獲物を遊びながら狩っているようだった。

体制を整える間もなく首を掴まれる。

片手で持ち上げられ、ぎちぎちと締め上げられていく。


「くそっ、なんでだよっ」


オレが今死んだらきっとユーリも死ぬ。今度はもう戻れなくなってしまう。本当の死が訪れる。

それはオレが嫌だった。

ユーリの死を見たくない。生きて欲しい、と思った。オレも生きて、ユーリの横で笑い合いたい。


「ユーリ、お前、呪いに負けんなよっ!」


オレはユーリと夜を共にする度に思っていたことがある。意思はあるんじゃないかって。じゃなければあんなに優しく抱ける訳がない。だからこそ、オレは傷つけたくなくてユーリが目が覚める前に部屋に必ず帰していた。

守りたかったのだ。

だが、今のユーリからは「愛」など感じられぬ程、殺意と恐怖しか感じ取れない。



オレは地面に叩き付けられた。


「……ぐはっ」


頭に背中に重たい痛みが襲う。上手く息が出来なかった。

目の前が霞んで行く。


「……ユー、リ」


あ、落ちる。

オレの視界暗くなった。


ああ、まただ。怒涛に流れてくる記憶は無数で目が回りそうになる。


「お慕いしています。アルト様」

笑顔のユーリが微笑んでいる。


「近寄らないで、アルト様」

怖がるユーリ。


「アルト様、愛しています」

首筋に剣を当てて泣き笑うユーリ。


「ああああ!!どうしてっ!もういやだっ」

ユーリが徐々に壊れて行く。


「だれか、たすけて」


「アルト様、好き、好きなんです。ごめんなさい。好きになって」

オレの亡骸を震える体で抱きしめるユーリがいた。


オレと誰かが見ていた記憶が一気に流れていく。

ポケットの中が光っていた。光を失ったはずの魔法石だった。


「お前がオレに記憶を見させていたのか」


一番、ユーリを助けたいと思っていたのは この魔法石かもしれない。


「ユーリを助けよう」


真っ暗だった景色が光り輝く白に変わった。


目を開けるとオレを泣きながら抱きしめるユーリがいた。


「もう、戻れないのにっ。好きになってごめんなさい。愛してしまって……ごめんなさいっ」


呪いが消えた?


だが、首筋にはまだモヤが残っていた。

一時的に解除されたのかもしれない。


「ユー、リ」


掠れた声でユーリを呼んでみた。

ばっ、とオレの顔をユーリが見た。初めて目が合った気がした。

背中に腕を回すとユーリはオレの心臓音を聞くかのように頭を胸に付ける。


「アルト様っ!……良かった、良かっ、た。ごめん、なさいっ」


オレはユーリの背中を優しく叩いた。

ユーリは声を殺して泣いていた。




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