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【連載】五歳児貴族は大王様に愛される〜悪魔と罵られ家から追い出されても、大王様が溺愛してくださるので大丈夫です〜  作者: Altemith/あるてみす


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第6話 皇帝の使者です!?

 忠誠宣誓によって、プロイセンの兵力は拡大された。

特に神への宣誓を行ったことで、父が金を払いながらプロイセンのために働く存在となっている。

資金の少ないプロイセンにとってみれば、この状況は美味い話であった。


 だが父も馬鹿ではないから、状況に気づけば契約を解除するかもしれない。

……だが、きっとそれはできないだろう、少なくともプロイセンの軍事力が上昇しきるまでは。

なぜなら父は辺境伯、異民族との戦争の最前線であるこの地の守りを手薄にし、奪い返されるわけにはいかないのだ。


 だから父は僕をここに追放したとは言え、プロイセン事態の価値を過小評価しているわけではない。

故に、父への忠誠義務を外された傭兵たちは、プロイセンに父の金を受け取って働く兵士となる。

……もっと別の場所に飛ばせば、こんな事態にもならなかったというのにな。


 僕のもとにある現在の戦力は300名、決して多いとは言えない数だ。

こんな兵力では、プロイセンを守り抜くことはおろかケーニヒスベルクですら怪しいだろう。

だが異民族は先の戦闘で大きな痛手を負った、再度攻勢に移るにはしばらく時間がかかるだろうから、その間は安全というわけだ。


 この安全期間の間に、フリードリヒ大王は軍の訓練を始めることにした。

大王はこの300名に対して、士官級の教育と訓練を施すと意気込んでいる。

だがもちろん、大王の時代の軍を再現することはまだ不可能だ。


「義父様、マスケットも大砲も装備していないこの軍を、どう育成するつもりなんですか?」


 僕は興味本位で、訓練の指揮を取っているフリードリヒ大王に尋ねた。

兵士たちはプロイセン式の、グースステップと呼ばれる行進を行っていた。

訓練を始めてからずっと、規律維持のためにこの訓練をさせられているらしい。


「そうだな。この部隊を在りし日の我が軍のように訓練することはできない。だから、昔の時代の戦術に変えて訓練を施すつもりだ。彼らに持たせたものを見てみなさい」


「……長い木の棒、ですね。マスケットの代わりかと思っていたけど、違うのかな?」


「ああ、あれは槍の代わりだ、もっと細かく言えばパイクだな。パイクを用いた有名な戦術を知っているか?」


「パイクを用いた戦術……テルシオかな?」


 テルシオ、それはスペインで採用されていた編成のことだ。

長槍のパイクを中心とし、周囲に遠距離武器を配置することで、強力な防御陣形を築き上げる。

特にその陣形は、騎兵の突撃に対して有効であった。


「お前が、異民族の主兵力は騎兵だと教えてくれただろう?」


「だから騎兵に強い陣形を作っているんだね」


「そうだ。今は小規模だが、いずれは数千、数万の単位で編成することになるだろう。そうすれば、騎兵など大した敵ではない」


 僕にも、時間をかければ次にテルシオという答えにたどり着けたかもしれない。

だが答えを導き出せたのと、それを実行に移して軍を編成できるかは別問題だ。

僕が色々と吸収するまでの間は、フリードリヒ大王に軍の教練はお願いしないとな。


「そういえばフランツ。頼んでいたものはできたか?」


 フリードリヒ大王は僕にそう聞いてきた。

僕はその言葉に頷き、持ってきていたものを大王に渡した。

その中身は――プロイセンの国旗であった。


「黒白黒の三本線。まさにプロイセンらしいデザインだな。余は気に入ったぞ」


「ならば良かった。色々と考えたんだけど、やっぱりこれが一番かなって」


「そうだな。ひと目で見て分かるデザインのこれは、国旗として最良のデザインだ。……ヴェンツェル! こっちに来たまえ!」


 国旗を受け取ったフリードリヒ大王は、ヴェンツェルという男を呼んだ。

彼は大王が直々に任命した大男であり、この傭兵たちの隊長であった。

大王の前にやってきた彼は、行進と同じく仕込まれた敬礼を行った。


「この初めての国旗を、貴君らの部隊に授ける。今後はこれを掲揚するように」


「はっ、フリードリヒ教官! 有り難く拝命いたします!」


 ヴェンツェルは国旗を受け取った後、自身の持っている棒にそれを装着した。

風に揺られ国旗ははためき、それを彼は高く掲げた。

まるでプロイセンの興りを象徴するかのように、太陽が明るく国旗を照らす。


「よし、ではその国旗を掲げ、再度行進を行い給え」


「……お言葉ですが教官、そろそろ武器を交えた訓練を……」


「まだだ。もっと規律正しく行進できるようになった暁には、武器を交えた訓練を行おう。それまでは行進に励み給え」


「り、了解いたしました……」


 少しショボンとしながら、ヴェンツェルは隊列へと戻っていった。

そして再び彼は隊列の先頭に立ち、国旗を掲げながら行進に戻る。

僕はフリードリヒ大王の隣りに座り、その様子を眺めていたのだが……。


「り、領主様!」


 突然聞こえてきた、僕を呼ぶ声。

後ろを振り返ってみると、声をかけてきたであろう領民がいた。

――そしてその横には、馬に乗った立派な出で立ちの男がいた。


 僕はこの男を見た時、どういう類の人間なのかすぐに想像がついた。

そしてその想像は、馬の鞍に付けられた紋章を見て確信に変わった。

彼は――帝国の中央、それも皇帝からの使者であった。


「貴殿がフランツ・ヨーゼフ・カール・フォン・”エーレンヴァルト”殿だな」


「……ええ。僕がフランツ・ヨーゼフ・カール・フォン・”ホーエンツォレルン”です。僕に何か用でしょうか?」


「ホーエンツォレルン? 父親といざこざがあったとは聞いていたが貴殿、まさか家を出たのか。5歳にしてなんとまぁ……」


「同情は結構です。ここに来た目的を教えてください」


 妙に同情してくるが、きっと厄介事を持ち込んできたのだろう。

父と仲が決裂した理由?それとも初陣の勝利についての追求だろうか。

僕は、何を聞かれても良いように身構えた。


「『帝都に急ぎ参上せよ』。それが陛下からお預かりした言葉である。至急、帝都へと足を運ぶように」


「それだけですか? 呼び寄せる理由などは聞いていないのですか?」


「聞いていない。ただ急ぎ帝都に来るように」


「……分かりました。準備が整い次第参上させていただきます」


 これ以上聞いても、この使者が何かを答えることはないだろう。

知っているのに言わないのか、本当に知らないのかは分からない。

使者は来た道を戻るべく馬を返すが、その時、こちらを振り返っていった。


「良い軍だ、統率が取れている。あながち貴殿の『初陣の噂』も嘘では無いのかもしれないな」


 使者はそう言い、馬を走らせた。

……彼が言っていた『初陣の噂』、帝都ではどういう広がり方をしているのだろうか?

ともかく、僕は急ぎ帝都に赴かなければならなくなってしまった。





「辺境伯閣下、皇帝の使者がフランツ殿と接触したようです」


 オストファーレンの屋敷では、プロイセンに侵入していたスパイが報告を行っていた。

それを聞く父――ヘンドリックは、表情を変えないままスパイを見下ろした。

月明かりが彼の顔を青白く照らし、部屋は冷たい緊張感に包まれていた。


「引き続き辺境の監視を続けるように。ただ間違っても手は出すな。皇帝の意図がわからぬ今、下手に動くとこちらが怪しまれる。……病弱のお飾り皇帝のくせに、頭はキレるからな」


「了解いたしました。して、傭兵たちはどうしますか?」


「辺境をフランツにくれてやったとは言え、対外的には我がオストファーレン領だ。万が一が起こらないように雇用を続け給え。……あいつの助けになるのは癪に障るが、異民族への敗北という汚名よりはましだ」


「……では私は、王都での『悪魔の子』としての工作を進めてまいります」


 そう言い、スパイはヘンドリックの執務室から姿を消した。

彼は立ち上がり、窓に浮かぶ月を見上げ、今度は机の上のランプの火が、彼を赤く映し出した。

冷静そうな顔の裏には、フランツの始末に向けた炎が灯っているのであった。

◇辞書

◯マスケット……16世紀から18世紀にかけてヨーロッパの軍隊で広く使用された歩兵用の火縄銃、またはフリントロック式銃である。現代のライフルに比べて精度は低いが、訓練を積んだ兵士の斉射は当時の密集歩兵隊形に対して絶大な威力を発揮した。装填に時間がかかるため、初期はパイク兵の援護が必要であった。


◯グースステップ……ドイツやプロイセンの軍隊で採用されていた行進スタイルである。膝を曲げず、足を一直線に高く上げ、そのまま地面に叩きつけるように踏み出すのが特徴である。兵士の規律と忠誠心を誇示するために考案された。実用的な移動方法ではなく、式典や閲兵式などで部隊の威容を示すための象徴的な行動であった。


◯パイク……中世から近世初期にかけてヨーロッパの歩兵が用いた、非常に長い(約4~6メートル)の槍である。密集隊形(方陣)を組むことで、騎兵の突撃に対する鉄壁の防御として機能した。特にマスケット銃の装填時間稼ぎや、隊形全体の防御を担う歩兵戦術の要であった。


◯テルシオ……16世紀のスペインで開発され、ヨーロッパ中に広まった、パイク兵と遠距離兵を組み合わせた歩兵の複合戦闘隊形である。中央にパイク兵が防御陣を組み、その四隅に遠距離兵を配置して火力を提供する。防御力と攻撃力を兼ね備えた当時の最強の戦術単位であった。

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