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【連載】五歳児貴族は大王様に愛される〜悪魔と罵られ家から追い出されても、大王様が溺愛してくださるので大丈夫です〜  作者: Altemith/あるてみす


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第3話 受け継がれた家名

 サーベルを抜いたフリードリヒ大王は、雑草の茂みに体を隠しながら盗賊の様子を伺う。

数は5人、そのうち2人が帯剣しており、残りは運搬役なのか何も持っていなかった。

よって、倒すべきは帯剣した2人であった。


「フランツよ、お前ならこういう場合にはどうするべきだと思う?」


 フリードリヒ大王は、僕にそう問う。

大王に意見を求められる――これほど栄誉で、かつ緊張することはそうそうないだろう。

もしも僕が魔法を使えたら――いや、今は仮定の話をしている暇はない。


 フリードリヒ大王も僕と同じ存在であれば、きっと魔法は使えないだろう。

あれは幼少の頃から練習を重ねた、ごく一部の魔道士だけが使える技だ。

……となると、剣術などの物理的な技か、いや、ブラフという手もあり得る。


「僕は先日、この地で起こった戦闘を指揮し、そしてその戦闘での勝利はこの地にも伝わっています」


「ほう、その年で戦争を指揮したか。中々やるではないか」


 僕は、フリードリヒ大王から褒めてもらえるとは思ってもいなく、非常に嬉しかった。

父に裏切られた後だから、どれほどこの褒め言葉が僕に響いたか。

少し涙も零れそうになったが、必死にこらえて続きを説明する。


「『幼少のフランツの指揮で、異民族の部隊は殲滅された』こう伝わっているはずです。その噂を利用させてもらいます。大胆にも僕と陛下が前に出れば、その背後に兵がいるのでは、と錯覚を起こさせることができるかと」


「2人しかいない以上、それ以上に何かがいるのではないかと思わせることは効果的だ。正しい判断と言えるだろう」


「ありがとうございます。そこで陛下には、騎士団長の役を演じてほしいのです。騎士団長といえばオストファーレン最強の戦士、名を知らぬものはいません。しかし顔を見知っているものはほんの僅かです。その騎士団長が僕の隣りにいる、という設定にすれば説得力は増すでしょう」


「ふむ、余に騎士団長を演じろというのか。まあ良い、その案に乗ろうぞ」


 フリードリヒ大王は納得し、草むらから立ち上がった。

俺も大王の隣に立ち、できる限り自信に満ち溢れた態度を取る。

そして門の近くに出ると、盗賊たちも僕たちの存在に気がついたようだ。


「騎士団長。我々の荷物を漁る、勇気ある者たちがいるようだ」


「……左様のようですな、フランツ殿下。ここは一つ、痛い目を見させないといけないようです」


 そう言い、フリードリヒ大王はサーベルを盗賊たちの方に向ける。

そして想定通り、騎士団長と呼ぶのを聞いた盗賊たちは、顔を真っ青にした。

特に帯剣していない3人の盗賊は、手に持っていた荷物を放り出して逃げた。


「あ、逃げるな! 後で覚えていろよ!」


「くっそ、やけに豪華な荷物だと思ったら……まさか、あの同胞殺しのフランツとは!」


 帯剣していない盗賊はすぐに逃げ去ったが、帯剣しているものはそれぞれの得物を抜き、フリードリヒ大王に向ける。

だが大王は顔色ひとつ変えず、自信に剣を向ける2人の男を一瞥した。

しばらくその膠着状態が続いた後……遂に盗賊の一人が我慢できず、手を出してきた。


「騎士団長といえど、今は一人! 仲間が合流する前に殺せば造作はない!」


 盗賊はそう言い、片手剣をフリードリヒ大王の方へと振り下ろす。

だが大王は、『兵隊王』ともあだ名された父親のもとで、厳しい訓練を積まされていた。

故に、素人まがいの剣など、大王の敵ではなかったのだ。


「嫌いな父上の教えが、こうして役に立つとはな」


 フリードリヒ大王はそうつぶやき、サーベルの根元でを片手剣の先端を巻き取る。

盗賊の片手剣は軽い金属音を奏でて地面に転がり、拾おうとした盗賊は前かがみになった。

その首に大王はサーベルをそっと添え、動けないようにする。


「そこのお前、剣を捨てるのであれば命は救おう。捨てぬのであれば……」


 フリードリヒ大王は、ぎょろりとしたその目で。もう一人の盗賊を見据える。

首にサーベルを当てられた盗賊は命の危機に恐怖し、もう一人は仲間の命の主導権を握られたことに葛藤する。

しばらくの沈黙が流れた後、盗賊は手に持った片手剣を捨てた。


「……負けだ。流石に同胞の命を捨てるわけにはいかない。騎士団長殿、降伏させてもらう」


「それが懸命だ。……おやフランツ殿下、縄を持ってきてくださったのですか」


 僕も何かは役に立たねばと、荷物の中に入れてあった縄を持っていく。

フリードリヒ大王はサーベルをしまい、僕の差し出した縄で盗賊を縛った。

逃げ出した3人はもう捕まえることも出来ないが、抑止力としてあえて逃がしておいていいだろう。


「フランツ殿下、この者たちはどうしますか?」


「そうだな……盗賊だから町に届け出るべきだろう。どちらでも良い、町への道は知っているか?」


 僕がそう聞くと、2人の盗賊はそろって首を縦に振った。

ならばすぐに案内してもらおう……かと思ったが、先に荷物を館の中に入れることにする。

でなければ、またこうして盗賊がやってくるかもしれないからだ。


 だが残念ながら、僕は非力なのでほとんど何も運ぶことが出来なかった。

故にフリードリヒ大王にお願いするしかなかったのだが、何だか申し訳ない気分だ。

だが大王を騎士団長だと信じる盗賊たちの目には、僕が騎士団長を雑用係として使う、ヤバい奴だと映るのであった。





 館の荷物の搬入が完了した後、僕たちは街を目指して移動を始めた。

移動には、盗賊たちが荷物の運送用に持ってきていた馬車を利用した。

フリードリヒ大王は乗馬の達人であったため、馬車も難なく乗りこなしているようだ。


「……フランツ、お前の素性を聞いてもいいか?」


 馬車馬を御しながら、フリードリヒ大王はそう言った。

いずれは話さなければいけないことだと思っていたので、俺はぽつりぽつりと話し始めることにした。


「名前はフランツ・ヨーゼフ・カール・フォン……フォン……」


「フォン、なんだ?」


 改めて名を名乗ろうと思ったがその時、名乗るべき姓がないことに気がついた。

父から家を追放された際、長子としての権限と家名を剥奪されたからだ。

僕が名乗る家名がないことを、フリードリヒ大王は不思議に思った。


「家名は、父親に家を追放された際に剥奪されてしまいました。なので今はただのフランツ・ヨーゼフ・カールです。今まで通りフランツとお呼びください」


「家名を剥奪……フランツ、お前は一体何をしでかしたんだ?」


「特に何も。たださっき言いましたように、僕は軍を指揮して敵を殲滅しました。その際に作戦を書き換えたのが父には気に食わなかったようで、そのまま怒りのままに家を追い出されました。悪魔のというレッテルを貼られて」


 フリードリヒ大王は、表情を一切変えずに僕の話を聞いている。

ただ、その手綱を握る手が、少し力強くなっている気がした。

……大王も、父親と仲が良くなかったから、そのことを思い出しているのだろうか。


「……なるほど。で、あんな汚らしい館に幼子ひとり送り込んだわけか」


「そうなります」


 僕は、虚しく頷くしかなかった。

ちらりと俺の方を見たフリードリヒ大王は、左手を手綱から離した。

そして俺の頭にゆっくりと載せた。


「子供には親が必要だ、真面目な親がな。余もそういう意味では、まともな親に恵まれなかったと言えるだろう。目の前で、親友を斬首された事もあったからな。だが、安心しろ」


 僕は顔を上げ、フリードリヒ大王の顔を見つめた。

大王はその見透かすような目でこちらを覗き、そして目尻を緩めた。

その目には、少し後悔、そして贖罪の色が浮かんでいるようにも見えた。


「余には子供がおらぬ。こうして数百年越しに子供を持つというのも一興だろう。フランツ、お前を余の養子にしてやろう。お前は今日から『ホーエンツォレルン』の家名を名乗れ。……テレジアの夫やあの公子を思い出させる名だが、まあ良いだろう」


「ホーエンツォレルンを……?」


 ホーエンツォレルン、それはプロイセン王、ひいてはドイツ皇帝を排出した名門の家名だ。

まさか自分がこうして、その名を名乗ることになるとは。

父に裏切られた悲しみから、僕は一気に解放された心地がした。


「……なんだ、泣いているのか」


「……すみません。つい」


「よい。お前は今まで気を張りすぎていたんだ。子供らしく、親である余に甘えると良い」


 そう言い、フリードリヒ大王は僕の頭を撫で回した。

あの時に父親に乗せられた手よりも、確かな安心感がそこにはあった。

僕は大王の言葉に甘え、しばらく頭を撫で続けてもらうのであった。

◇辞書

◯テレジアの夫:フランツ・シュティファン。神聖ローマ皇帝(フランツ1世)、マリア・テレジアの夫。ロートリンゲン(ロレーヌ)公国出身。オーストリア・ハプスブルク家の共同統治者である。


◯あの公子:カール・アレクサンダー・フォン・ロートリンゲン、カール公子。マリア・テレジアの義弟(フランツ・シュティファンの実弟)で、オーストリア軍の総司令官としてシュレージエン戦争でフリードリヒ大王と戦った。


◯兵隊王:プロイセン第2代国王フリードリヒ・ヴィルヘルム1世。フリードリヒ大王の父。厳格な軍事制度を築き、プロイセンを軍事大国にした人物。大王とは非常に不仲だった。


◯ホーエンツォレルン家:ヨーロッパ史上、最も長く、広大な領地を統治した家系の一つ。プロイセン王国とドイツ帝国の君主を代々輩出した超名門の家名であり、その歴史は中世にまで遡る。

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