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【連載】五歳児貴族は大王様に愛される〜悪魔と罵られ家から追い出されても、大王様が溺愛してくださるので大丈夫です〜  作者: Altemith/あるてみす


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第2話 辺境の地での出会い

最後に単語の辞書があります。ぜひご活用ください

 辺境の地に、僕を乗せた馬車はたどり着いた。

ようやく馬車から出ることが出来た僕は、辺境の土を踏みしめる。

そこにあったのは、ほとんど崩れかけた、でも妙に立派な建物だけだった。


「ではお坊ちゃま。私はここで失礼いたします」


 僕を乗せてきた馬車の御者は、オストファーレンへと引き返そうとした。

他にも、僕の家財道具を持ってきた馬車の御者たちも、荷物を地面において引き返そうとする。

そう、この場所に僕と一緒にとどまるものは誰もいなかったのだ。


「……最後の願いだが、この荷物をあの建物の中に運び込んでもらえないかい?」


 僕はそう願ってみるが、皆して首を横に振った。

彼らは父から、僕が悪魔の子であると吹き込まれていたのだ。

そして御者たちは馬に鞭を振るい、僕の元から遠ざかってしまった。


 ……さて、僕はこうして辺境の地でひとり取り残されてしまった。

作戦行動中に魔獣は見なかったが、このあたりにも十分存在する可能性はある。

それ以外にも、盗賊団に襲われることも十分にあるだろうし、そもそも5歳児の体ひとつで何ができるというのだ。


 考えていても仕方がないので、僕はとりあえず荷物は諦め、目の前の建物に入ってみることにした。

御者から聞いた簡易的な説明によると、ここはこの地を昔オストファーレンが占有していた時代に、領主の館として使われていた物らしい。

ただ、長年異民族の支配下にあったことで、随分と寂れているが。


 不快な音を奏でる、錆びついた正面の門を開け、僕は中庭へと足を進める。

雑草が荒れ放題の中庭を、僕はなんとかかき分けながら建物の入口を目指す。

なんとか入口まで辿り着くと、僕は預かっていた鍵を使って背伸びをしながら扉を開いた。


「うっ、ホコリ臭いな……」


 館の中は薄暗く、ホコリまみれであった。

天井にはクモの巣が張り巡らされ、床には……見たくもない何かの死骸が散乱している。

僕は持ってきていたカンテラの芯に火をともし、口元を布で覆いながら先へと進んだ。


 ただ、どれだけ進んでも、見えるものはクモの巣と死骸だ。

時折家財道具も目に付くが、どれもネズミに食い荒らされていたり、腐りおちて使い物になりそうにない。

一通り館の中は見て回ったが、まともに生活できそうな余地は残されていなかった。


「はあ。こんな場所でどう生きていけと父は思っているのだ。……悪魔なのだとしたら、殺すのが恐ろしいからこんなとこに送り込んだのだろうが、これでは姥捨山と何も変わらないじゃないか」


 僕はそう思い、空気の悪い館の中から出ようと思った。

だがその時、僕はなにかに足を引っ掛けて転んでしまった。

辺りにホコリが舞い、僕の顔もホコリに覆われる。


 僕は立ち上がり、ホコリを払った。

そして、自分が何に足を引っ掛けたのかを確かめるべく、床にカンテラを近づける。

するとそこに、何やら隠し扉のようなものがあることに気がついた。


 どうせ大したものがないだろう、と思いつつ、僕は興味本位から開けてみることにした。

もちろん自力では開けられないので、そこら辺に落ちていた棒を差し込み、てこの原理で開けようと試みる。

自分の全体重を棒に載せると、やがて隠し扉はゆっくりと開き始めた。


 隠し扉が開いた先からは、ひんやりとした空気が流れてきた。

この奥に何があるのかはわからない、でも人を引き付ける魅力がある。

僕はカンテラで足元を照らしながら、地下の部屋への道を進んでいく。


 地下の空間は、複数の小さな部屋に分かれていた。

ある部屋は食料庫、ある部屋は武器などを収納する空間であった。

食料庫には食料が残っていたが……食べるのは流石に辞めておこう。


 地下の空間を奥まで進むと、そこには錠前のついた扉があった。

その錠前を見て、僕は渡された館の鍵に、もう一つ小さな鍵がついていたことを思い出した。

試しに挿してみると、それはするりと中に入り、カチリと音を立てて開いた。


「……これは。随分と立派な書斎だな」


 僕はカンテラで照らしながら、壁面の本棚に置かれた本の表紙を眺める。

随分と古い装丁のものばかりで、中には文字が消えかかっているものもあった。

そんな書斎を歩いていると、端っこに置かれた小さな机と、その上に置かれている本とメモが目に入った。


 僕はメモ紙を手に取り、カンテラの光のもとで書かれている文字を読む。

そこには、古いはずなのに色褪せていないインクで、こう書かれていた。

『この部屋にやってくる運命の者にこの本を託す。上手く使ってくれたまえ』


「運命の者……確かに、ここにやってくるのは運命だったのかもな」


 僕は、父の怒鳴る姿を思い出しながらそう呟く。

そして【国王ノ伝記】と書かれた、託されたこの本を手に取ろうと手を伸ばす。

伝記――たとえ役に立たないものであっても、その名前だけで僕の興味はそそられていた。


「!」


 本の表紙に触れると、ピリッと電流のようなものが手の先に流れたような痛みを感じた。

この痛みは、魔法の罠であろうか、いや、それにしては威力が低すぎる。

魔道士の使う魔法というのは、もっと強力なはずだ。


 ボムッ!


 本がいきなり爆発したかのように煙を発し、辺りの視界が奪われた。

僕は何かあってはいけないと思い、目を咄嗟に布で覆い隠す。

そしてしばらくそうしていると――何だか蠢くものが前にあることに気がついた。


 僕はそっと布をずらし、目の前にいるものが何であるかを確認しようとする。

少しずつ、少しずつ布をずらしていくと、段々とその姿があらわになってくる。

そして、僕は目の前にいるもの、いや人が何であるか知っていた。


「ふ、フリードリヒ大王陛下!?」


 煙の中、いや本の中から表れたのは、伝記でよく目にしていたフリードリヒ大王であった。

黒い軍服、灰青色の眼、鷲のような鼻、鋭い視線……まさに絵で見るフリードリヒ大王である。

本人であればと思い興奮する僕を、彼は一瞥し、そして部屋を見渡した。


「……ここは? サン・スーシ、ではないようだな。そしてお前は?」


「お初お目にかかります、フリードリヒ大王陛下。僕はフランツと申します」


 僕はフリードリヒ大王の前に跪き、頭を垂れて言う。

サン・スーシ、彼がその言葉を言っただけで、本人であると確信した。

まさに僕は、世紀の大王の前にいるのであった。


「フランツ……お前にはここがどこか分かるのか?」


「はっ。ここはオストファーレンの東端にある館の中でございます」


「オストファーレン? ザクセンにヴェストファーレンがあるのは知っているが……どうも、余の知っている世界ではないようだな」


「ご明察でございます。陛下は僕と同じく、地球から何らかの理由で飛ばされたものであると考えます」


 フリードリヒ大王はゆっくりと室内を歩き回り、本を手に取ったりしていた。

本を出しては中を確認し、また戻すを繰り返す。

そして大王はしばらくその動作を続けたあと、僕の方を見て言った。


「……この部屋は煙いな。一旦外に出ないか?」


「はっ。陛下の仰せのとおりに」


 本を開けるたびに舞うホコリに、フリードリヒ大王は目を細めていた。

僕は大王にハンカチを渡し、口に当てながら元の道を辿って上の階に出る。

そして上の階もホコリまみれなので、そのまま僕たちは館の外に出た。


「フランツ、この館は随分と汚らしいようだが、どうしてお前はこんなところにいるんだ? それに見たところ幼児のようであるし……」


 フリードリヒ大王は、理由は知らないから率直にそう聞いてくる。

僕は、大王に全てを打ち明けようと思い、口を開こうとした。

だがその前に、僕たちの目に恐ろしい光景が入ってきた。


 門の外に、複数の男たちがたむろしていたのである。

きっと、置きっぱなしにしていた僕の家財道具を見つけ、盗みに来たのだろう。

家財道具だけであればいいが、中には資金もあるので奪われたくはない。


「……フランツよ、あれは盗賊か?」


「はい。門の前に置きっぱなしにしていた僕の荷物を奪いに来たのかと」


「門の前に荷物をおいておくのは些か不用心なのではないか? まあ良い、取り返すぞ。余は何かを手に入れるのは好きだが、失うのは好きではないからな。シュレージエンも……」


「は、はい?」


 まさか「取り返すぞ」という言葉をフリードリヒ大王が言うとは思わなかった。

彼は腰に下げていたサーベルを抜き、盗賊たちのもとに迫っていく。

芸術を愛したことで知られる大王のこんな一面を見ることができるとは、夢にも思わなかった。


「お前の素性を聞くのは後だ。さあ小さき者よ、ともに戦うぞ!」





 館の上には、キラキラと輝く何かが浮かんでいた。

それは霧のように広がったり集まったりしながら、フランツたちの上を浮かんで回る。

そして一箇所に集まったかと思うと、おぼろげながら人の形を形作った。


(……しっかりと受け取ってくれたようだね。あとは、君の好きなようにすると良いさ。 なにせ、もう君は自由なんだから)


 そう聞こえたかと思うと、光ははらはらと霧散してしまった。

◇おまけ:辞書

 これからは毎話、最後にこうして辞書を付けます。

 わからない単語はこちらで意味を確認してくださると嬉しいです。


◯フリードリヒ大王:史実の第3代プロイセン国王(フリードリヒ2世)。「国家第一のしもべ」を自称した啓蒙専制君主。音楽や哲学を愛したが、自ら軍を率いて戦場を駆け巡った稀代の天才軍事指導者でもある。


◯サン・スーシ:フランス語で「憂いなし」「気まま」を意味する言葉。フリードリヒ大王がベルリン近郊に建てた夏の離宮(宮殿)の名前。大王が最も愛し、政治を離れ、趣味や学問に没頭した場所。


◯シュレージエン: 史実でフリードリヒ大王が即位直後に、当時ヨーロッパの大国であったオーストリアから奪取した、豊穣な鉱山資源を持つ富裕な地域の名前。大王の治世とプロイセンの発展の礎となったが、後に奪い返すための熾烈な戦争(シュレージエン戦争)が何度も起こった。

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