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【連載】五歳児貴族は大王様に愛される〜悪魔と罵られ家から追い出されても、大王様が溺愛してくださるので大丈夫です〜  作者: Altemith/あるてみす


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第10話 皇帝陛下と謁見です

 帝都の中心、小高い丘の上に立てられたひときわ大きな建物。

赤い屋根瓦と石壁が特徴的な、帝国の中心たるエーデンブルク城であった。

300年ほど前に竣工して以来、この城はずっと帝国の繁栄を見届けてきていた。


 皇帝の居城であるこの城に、僕は今向かっている。

城の中に入れるのは僕だけ――つまり誰の力も頼ることが出来ない。

少し不安な気持ちは拭いきれないが、ここが踏ん張りどころだ。


 僕はフリードリヒ大王の隣に立ち、周りをトマトなどによる妨害を受けないよう兵が囲んでいた。

その兵たちの足の隙間から見える光景を見ながら歩いていると、所々で露店を開いている人が見えた。

彼らはきっと、ツンフトと呼ばれる同職ギルド、もしくは商業ギルドで活動出来ない者たちなのだろう。


 この同職ギルドと商業ギルドもまた、小規模領地の領主にとってみれば厄介な存在だ。

領内の経済を掌握し、商売に参加できる者に制限をかけることで自分たちの利益を保護する。

それ故、能力があるものもギルドに参加できねば何も出来ない、不合理なシステムであった。


「……ん? あれは――」


 僕はふと足を止め、脇にある露店に兵をかき分けて向かった。

そこの露店で売っていたのは――思った通り、楽器であった。

楽器売りの露店商は前に立った僕を見て、嬉しそうに笑った。


「いらっしゃい、そこのお坊ちゃん。貴族様が気にいるものがあるかは知らないが、まあ見ていってくれ」


 彼はそう言うと、手元にあったリコーダーのような楽器を取って渡してくれた。

リコーダーなんて、触るのは小学校以来ではないだろうか?

あの頃はまだ元気だったし、音楽の授業は楽しかった思い出があるな。


「店主。フルートは置いていないかい?」


「フルート? ああ、これで良ければあるよ」


 店主はそう言い、後ろにおいてあったかごの中から一本のフルートを取り出した。

それはフルート、というよりかは一昔前のフラウト・トラヴェルソのような見た目であった。

……だがこれでいい、この形式のフルートをフリードリヒ大王はよく吹いていたはずだ。


「このフルートをもらってもいいかな?」


「まいど! 50グルテンだよ」


 グルテン、それはこの世界の貨幣単位だ。

グルテン銀貨とよばれる貨幣が発行されており、それが50枚で50グルテンだ。

決して安い買い物ではないが、僕のへそくりからは捻出できるぐらいの価格だ。


「義父様。これを」


 僕は買ったフルートを。フリードリヒ大王に差し出した。

先程からフルートをしげしげと眺めていた大王は、そんな僕の行動に歓喜したようだ。

大王は大切そうにフルートを受け取ると、じっくりと眺めながら言った。


「フランツ、お前というやつは……」


「前に命を助けてもらったお礼だよ。義父様、フルートを吹くのは好きでしょう?」


「ああ、大好きだ。大切にさせてもらうよ」


 フリードリヒ大王は恭しく白い絹のハンカチでフルートを包み、懐にそっとしまった。

何か盗賊から守ってもらった恩返しができないかと思っていっところなので、ちょうど良かったな。

僕は露店商に別れを告げ、いよいよエーデンブルク城に乗り込んだ。





「こちらにどうぞ」


 エーデンブルク城に乗り込んだ僕は、城のメイドに案内されて中を練り歩く。

回廊は古さを感じさせる石壁だが、いたるところに豪華絢爛な調度品が置かれているので、かえってその歴史的な威厳を際立たせていた。

その中を通り抜けると、ひときわ重厚な扉が目の前に現れた。


「この先に陛下がおられます。なお、陛下はその健康状態を鑑みて個別での面会となりますので、その点はご留意ください」


「分かったよ。案内ありがとうね」


 メイドからの忠告を受けた後、僕は扉を小さく叩いた。

扉の奥から返事があったので、僕はゆっくりと扉を押して中に入ろう――とする。

だが重たいので自分の力では開けれず、代わりにメイドが開いてくれた。


「――フランツ・ヨーゼフ・カール・フォン・ホーエンツォレルン、招集に応じて只今参上いたしました」


 僕は床に膝をついて頭を垂れ、皇帝の返事を待った。

するとクスリと小さく笑う声が聞こえ、床に杖を付く音が響き渡った。

おもわず頭を上げると、僕の目には柔和な笑顔を浮かべた皇帝――フェルディナント1世が映った。


「5歳の神童だと聞いていたが、なるほど、その噂は間違っていないようだな。見るからに知性に溢れた、利発そうな少年だ」


「お褒めに預かり、至極恐悦に存じます」


 フェルディナント1世――今年で55歳になる彼は、選帝侯らによって当初は「お飾り」として戴冠させられた。

それは彼が「てんかん」持ちであり、生来の病弱であったため、選帝侯らの思いのままに操れると信じていたからであった。


 だが、フェルディナント1世は、彼らの思惑に従うことはなかった。

自らの意思で決定を下し、病弱な様子を見せず、臣下らには平等に接する――。

「善良帝」、民からのその評価はまさしく、彼のたゆまぬ努力を象徴する異名であった。


「教会の連中が君を『悪魔の子』だと騒いでいるようだな。でもどうせ、ヘンドリック辺りが言いふらしていることなんだろう? あそこは教会権威との癒着が激しいからな」


「……ご明察でございます、陛下。なので僕は決して――」


「分かっている。……余は、病弱であるこの体を操れると本気で信じていた選帝侯らに抗い続け、その過程で彼らのやり口は把握しているつもりだ。大丈夫だ、”ほとんどの選帝侯”以外は、君の噂を疑問視している」


 フェルディナント1世は杖に体重を任せ、ゆっくりと椅子に座った。

そして彼は目の前の椅子を指さし、そこに座るように促した。

僕は促されるままに椅子に座り、彼の目を見据える。


「――強い目だ。君の今までのどんな経験が、君にそれほどの目をさせるのだろう。――まあそんな話はおいておいて、だ。まずは異民族の侵入の撃退と領土奪還、この功績は帝国にとって間違いなく重要なものだ。その指揮を取った君に対し、勲章を授与しよう」


 フェルディナント1世は懐から小さな箱を取り出し、僕に差し出した。

箱を受け取った僕はそれをゆっくりと開け、中に入っている勲章を取り出した。

そしてピンで指を刺さないように気をつけながら、勲章を服につけた。


「ふむ、似合っているぞ。で、君が占領した領土だが……名をプロイセンと改名して君が治める、で合っているか?」


「……なぜそのことを?」


 プロイセンへの改名、このことはまだあまり外部に知られいていないはずだ。

にも関わらず、フェルディナント1世はさも当たり前かのように告げてきた。

……帝国の諜報能力、恐るべしだ。


「風の噂で聞いたまでだ。――だが、君の領土にはひとつ大きな問題がある、分かるか?」


「……異民族と国境を接しているにも関わらず、まともな軍を持っていないことでしょうか?」


「そうだ、正しい。異民族と戦火を交えた君にとって、戦がどれほど苛烈で、そして重要なものであるかは分かるだろう? 親子喧嘩で帝国の防衛力を緩められては困るのだよ」


「それに関しましては、返す言葉もございません」


 まさか、軍備が足りないためにプロイセンを認めない、と言われるのであろうか。

皇帝の指摘は的確だ、そして彼が認めないと言えば、プロイセンは存続できない。

緊張して僕は彼の言葉を待っていると、しばらく間をおいた後に彼はこう発した。


「プロイセンに経済的な支援を行おう。その資金で、軍を早急に育成したまえ。そして帝国の辺境の防衛に就くように」


「……よ、よろしいのですか? 正直、帝国の国庫は状況が芳しくないと聞いておりますが……」


「帝国の国庫は、な。だが余の所領のアウストリカ公国は潤っている。そこから財源は引っ張ってこよう。そのうえでフランツ、君をプロイセンにおける男爵に任命しよう」


 その言葉を聞いて、僕はフェルディナント1世の考えを理解した。

男爵という、身分こそ違えど貴族という、父と同じ立場に立たせること。

そして軍事力を整えることで、父の力への対抗馬を作ろうとしているのだ。


 だが、この申し出は僕にとって有り難い以外の何物でもない。

この条件を出せば僕が首を縦に振る、いや振らざるを得ないも計算に入れて、この条件を提示したのだ。

流石はフェルディナント1世、長年父ら選帝侯たちと争ってきただけのことはある。


「……その申し出、有り難くお受けいたします」


「そうか、では資金は追って届けさせる。それと、今日は帝都に泊まっていくか?」


「? ええ、そのつもりですが」


「ならば今日の晩、余の身辺のものを集めた立食パーティーがある。ぜひ出席していきなさい」


 立食パーティー、そこに出席して僕が皇帝派であることを内外に示そうというのか。

それに加えて、僕と他の貴族とのコネクションを構築させるという意図もあるだろう。

今日に立食パーティーがあるのは偶然か必然か――それは彼のみが知ることだ。


 僕はフェルディナント1世に一礼し、部屋を辞そうとした。

そうして外で待機しているメイドに、扉を開けるようお願いしようと思った時だった。

フェルディナント1世は、ギリギリ僕に聞こえるか聞こえないか、それぐらいの声でぼそっと呟いた。


「ベヘミア国王にして余の従兄弟であるマクシミリアン、その一人娘のエリーザベトとは仲良くしなさい」


 僕はフェルディナント1世の顔を見るが、彼はもう出ていきなさいとばかりにニッコリと笑った。

彼の言葉の真意が読めないまま、僕は部屋を辞するのであった。

◇辞書

◯フラウト・トラヴェルソ……16世紀から18世紀にかけてヨーロッパで広く使用された横笛であり、現代のフルートの直接の祖先にあたる。日本では一般にバロック・フルートとも呼ばれる。現代の金属製フルートと異なり、主に木製で作られ、キー(音孔を塞ぐためのレバー)は通常一つのみというシンプルな構造を持つ。これにより、音程や音色が現代のフルートほど均一ではないが、柔らかく、温かい音色と豊かな表現力を持っていた。作中のフリードリヒ大王が愛用したフルートは、このトラヴェルソである。


◯てんかん……脳の神経細胞が過剰に興奮することにより、**発作(けいれん、意識の消失、体の動きの変化など)**を繰り返す疾患である。症状の現れ方は様々で、軽い意識の混濁で済む場合もあれば、全身のけいれんを伴う場合もある。

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