表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【連載】五歳児貴族は大王様に愛される〜悪魔と罵られ家から追い出されても、大王様が溺愛してくださるので大丈夫です〜  作者: Altemith/あるてみす


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/11

第1話 五歳児が悪魔の子ですって

 戦いの趨勢は、既に決しようとしていた。

敵軍の兵は自軍の兵に包囲され、無惨にも押しつぶされてゆく。

僕は戦場……ではなく、小高い丘の上から、子供用の椅子に座って指揮を出していた。


 僕ことフランツは、かつては日本人であった。

それがどういうわけか異世界の貴族の長子に転生し、こうして今は自軍の指揮を取っている。

そんな僕はちょうど5歳の誕生日を迎えたところ、これが初陣である。


 この世界での僕の父は、辺境伯という立場にいた。

父には、辺境伯として国土を防衛する使命がある。

その使命を将来受け継ぐであろう僕に、初陣で華をもたせようとしているのだ。


 小高い丘の上からも見えるほど、眼前の戦場は血で赤く染まっている。

血の大部分は敵軍の兵が流したものであり、自軍の血はあまり流れていない。

開戦時の兵力は互角であったので、作戦の優劣が戦いの趨勢を分けたことになる。


 僕のいる本陣の机の上には、無造作に作戦計画書が置かれていた。

それは誰が書いたのか知らないが、僕が勝利できるようにあらかじめ用意されていたものだ。

つまりこの戦いは作戦書のとおりに進行したから勝利した……わけではなかった。


 僕はこの作戦書を一読し、大幅に書き換えることを独断で決めた。

確かに作戦書のとおりでも勝つことはできただろう、でも被害が大きくなりすぎると判断したのだ。

5歳の僕が代わりに提案した作戦に大勢が、特に騎士が反対したが、変更の結果はこうして目に見えるように表れていた。


「騎士団長」


 僕は椅子に座ったまま、自軍の騎士団長を呼ぶ。

呼びかけに応じた騎士団長は、自慢の鎧をガシャガシャと鳴らせながら、僕の隣に立った。

僕は彼には視線を向けず、騎士団長も戦場に目を向けながら言う。


「フランツお坊ちゃま。いかが致しましたか?」


「君たち騎士は『自分たちが出ねば戦に勝てませぬ』と言ったな? だが実際はそうではなかったようだね。賭けは僕の勝ち、ということで良いかな?」


「……ええ、もちろんでございます。弱冠5歳にしてその判断力、騎士団一同感服するばかりです」


「そうか。……あの採用しなかった作戦書、それには騎士を突撃させるように書いてあった。きっと、僕が初陣を勝利で華々しく飾るための立案者なりの配慮だったのだろう。折角の初陣だ、その意図を汲み取って君たちには、初勝利を華々しく飾る役を任せたい。良いかな?」


 僕はそう言い、ちらりと視線を騎士団長に向ける。

彼は出撃できることがよほど嬉しいのか、すぐにでもこの場を離れたい、という顔をしていた。

僕は彼にこの場を辞すことを許し、再び視線を戦場に向けた。


 僕自身が指揮を取った戦術は、面白いほどに成功していた。

それもそうだ、この戦術は僕が一から練り上げたものではない。

日本にいた時代に、読み漁った偉人たちの伝記から借用した戦術だったのだ。


 ――日本では、僕は病弱な少年であった。

一生の殆どをベッドの上で過ごし、見える景色と言えば小さな窓が四角く切り取った小さな空だけ。

そんな僕の唯一の楽しみが、歴史人物たちの伝記を読むことだった。


 伝記は僕を病室から抜け出させ、無限の戦場へと誘った。

広大な草原、密集する兵士たち――そこには、広さの際限はなかった。

リネンシーツの隆起は丘を成し谷を成し、そのうえで僕は兵士たちを縦横無尽に指揮したりもした。


 まさかその経験が、こうして生きる日が来るとは思ってもいなかった。

シーツの上の軍隊は、今こうして自分の目の前で、自分の指揮で動いている。

夢が現実になり、僕は単純に嬉しかったのだ。


 ――そして、勝敗は遂に決した。

ダメ押しで突撃させた騎士団は、敵の息の根を確実に絶つ。

兵たちは勝利に歓喜し、護衛で残っていた騎士は「お見事。殿下の勝利です」と興奮気味に言った。


 こうして、僕の初陣は華々しい勝利で飾られたのだ。

勝利の報は、戦地から離れた自領の居館にいる、父の耳にも伝わることになる。

僕は父のお褒めにあずかれることを期待し、意気揚々と自領に凱旋するのであった。





 父の領地であるオストファーレンに帰還した僕は、その足で父の執務室へと向かう。

隣には騎士団長が立っており、僕と同じく父に勝利の報を伝えるのが楽しみで仕方がないようだ。

僕の代わりに騎士団長が執務室の扉をノックし、返事を確認して扉を開ける。


「父上。フランツ、只今帰還いたしました」


「おお、愛しのフランツ。よく帰った。結果は聞いているが、お前の口からもう一度聞きたい。結果は、どうであったか?」


 父は椅子から立ち上がると、僕の前に立ってそう聞いてきた。

ああ、この瞬間を僕はどれほど心待ちにしていたか。

一息吸って息を整え、僕は言った。


「此度の戦いは、我が軍の大勝利です。敵が壊滅したのに対し、我が方の損害は軽微でした。父上には、勝利によって獲得した土地を献上いたします」


「そうか、よく成し遂げた! 側室の子であるとは言えお前は余の長子、父として誇らしいわ!」


 父はそう言い、僕の頭をワシャワシャと撫で回す。

その手からは、幾度も戦場に立った武人の誇りのようなものを感じた。

僕が愉悦に浸っていると、騎士団長が気を利かせたのか知らないが、こう言う。


「フランツお坊ちゃまは素晴らしい才能をお持ちです。なにせ、用意された作戦書を無視し、自ら立案されたのですから」


 その言葉を聞いた父の手は、ピタリと止まる。

その時、僕はなにか不穏な空気が流れ始めているのを感じた。

だが、もう止められるものではなかった。


「……具体的に、何を変えたんだ?」


「作戦書には騎士での一斉攻撃を主体とする旨が書かれておりましたが、お坊ちゃまはそれを、歩兵による包囲殲滅戦に書き換えられました。騎士の投入なく歩兵だけで、あれほどの戦果を挙げられるのは見事としか言いようがございません。『何だこの杜撰な作戦計画は!』……お坊ちゃまのあの一言、私は生涯忘れることがないでしょう」


 騎士団長が自慢気に言うのを聞いた父は、僕の頭からゆっくりと手を離す。

その手は、怒りからなのか、プルプルと小刻みに震えていた。

僕はその時に察した――作戦を立案したのは父であったと。


「父上……」


 僕は、なんとか父の怒りをなだめようとする。

確実に僕のしたことは、父の今までのキャリアを否定することに他ならなかったのだ。

噴火の予兆のように小刻みに揺れる父からは、今にも何かが溢れ出しそうであった。


「……フランツ、お前は5歳にして大人を驚かせるほど流暢に話し、大人を越えるほどの才能を見せてきた。それはお前がひとえに、私の血を受け継いだ優秀な子だからだと思っていたからだ」


 父は僕に背を向け、窓の外に目をやる。

その時には既に、騎士団長も自分の言ったこと故に、大事が起ころうとしていることに気がついていた。

そして、火山は遂に噴火したのだ。


「だがその考えは違ったようだ!」


 父の一喝が、部屋中の空気を振動させる。

置かれていたグラスはカタカタと音を鳴らし、机の上の紙はハラリと落ちた。

そして父は振り返り、僕の顔を見て言う。


「幾千の兵を殺す作戦とは、長年の経験によって培われるものだ! だがお前の場合はどうだ! 初陣にして敵を殲滅したではないか! 経験も、何も無いお前が!」


 ……僕は怒る父の顔を見据えるが、その目線には軽蔑と落胆の色が混じっていた。

僕が生まれてから2年、尊敬し続けた父の真の姿が、図体に似合わない器の小さな男だったとは。

僅か5歳の子供に自分の作戦を否定されたことが、それほど腹立たしいとは。


「そうか、分かったぞ……」


 一通り騒いだ父は、急に大人しくなった。

そして僕は、この嵐の前の静けさに、嫌なものを感じ取る。

そうだ、この流れはまるで――


「お前は、悪魔に見初められたのだな。人の死を嘲笑う悪魔にだ! そうでなければ説明がつかん!」


「と、当主様。それは些か暴論が過ぎるかと……」


 騎士団長が、僕を庇ってそう言うが、もう父の耳には入っていなかった。

父の目には、僕はもう角と尻尾の生えた、悪魔のような姿にしか映っていなかったのだ。

それほどまで、父は自尊心を傷つけたことによる僕への嫉妬と憎悪に取り憑かれていた。


「うるさい! お前も兵たちも、皆この悪魔の手の内で踊らされていたのだ!」


「……」


 僕は、もう呆れて声も出なかった。

この世界の宗教で、悪魔というものが死をもたらす悪者であることは知っている。

だがまさか自分の子に、その悪魔のレッテルを貼り付けるとは。


「お前は所詮側室の子、本当の跡取りにはなれぬ! お前が占領した土地はお前にくれてやろう、だから今すぐ荷物をまとめ、この家から出ていけ! 追放だ!」


 先程まで「愛しのフランツ」等と言っていた父が、今やこの有り様であった。

そして一家の当主、辺境伯にして選帝侯でもある父の命に逆らえるものはいない。

こうして僕は、5歳にして愛していた父に追放を言い渡されたのであった。


 僕は僅かな身の回りのものだけを持ち、ひっそりとオストファーレンの居館を後にした。

小さな馬車の窓から見える、遠ざかる故郷の景色は、あの日見た病院の窓からの眺めのように窮屈であった。

それは、父のせいで歪められてしまった景色だろうか?


 僕は小さく切り取られた景色に、父をいつの日か見返すことを決意する。

今日この瞬間まで、愛してやまなかった自分の父を。

器の大きな――そう、『大王』と言われるほどの男になってみせる。

はじめまして、Altemith/あるてみす と申します。

本日は『五歳児貴族は大王様に愛される』を手にとっていただき、ありがとうございました。

本日中に複数話更新しますので、気に入っていただけたのであれば、そちらも読んでいただけると幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ