第5話 『駄目人間』流の尋問術
「まあこれでかえでの方は解決してるといいねえ……もう一度言う。お前は今お前の手にある女以外には手を一切出すな!これは隊長命令と同時に甲武四大公家末席前当主としての命令だ。これに逆らった場合はその地位を返上してもらうから覚悟しておけ!」
嵯峨はいつもには無い厳しい口調でかえでに向けてそう言った。そんな厳しい表情の嵯峨を見たことが無かった誠は驚くより先に嵯峨にもそんな顔が出来るのかと感心していた。
そして今度はうって変わって同情するような視線を嵯峨は誠に向けてきた。
「それで今度は神前、お前さんだ……身に覚えがないような顔をしてるけどね、物的証拠がこちらにある。それでもしらを切りとおすような度胸がお前さんには無い事はおれも十分承知してる。だから全部吐いちゃってね」
そう言って嵯峨軽い笑顔では一枚の写真を取り出した。そう言う顔をするときの嵯峨はろくなことを言い出さない。この半年で誠はそのことを経験から悟っていた。
そこには制服姿の誠と上品そうな姿の美女が喫茶店で談笑する姿が写っていた。どう見てもそのアングルは望遠レンズを使っての隠し撮りと分かる。誠は背筋が寒くなるのを感じた。
「お前さんさあ、この前の宿直の途中で抜け出したじゃん。それはいい、うちじゃあよくある話だから。でも普通はフリーのスキャンダル専門で追っかけてるカメラマンの写真にこうして収まるようなことは無いよね?いいよ、別にこの写真に写ってるお前さんが私服だったら。でもこの写真に写ってる写真にはどう見てもうちの制服を着たお前さんが写ってる……これどういうこと?うちは何時からそんな仕事中に仕事を抜け出して喫茶店でサボっていい規則がある公的機関ですって全東和市民に知らしめることを任務とする組織になったの?俺が隊長になってからそんな規則を作った記憶はないんだけどなあ……」
嵯峨は不機嫌そうにそう言うとその他にも腕を組んでその女と街を歩く誠やその他数多くの写真を取り出した。
「しかも相手は氷上君子。お前さんの子供をかえでが孕ませた相手だ。これが写真週刊誌の記者の手に渡ってみ?どうなると思う?うちは仕事もせずに制服で喫茶店に出かけてよくて、国民的大女優をシングルマザーに仕立て上げることをその主任務にしていますとでも世間様にお伝えすることになるわけだよね?うちってそんなことの為にある組織なの?俺は違うと思うな……」
明らかに呆れ果てたというような調子で嵯峨は誠とかえでを見回した。




