第3話 かえでの誠一筋宣言
『おう、どうせ神前だろ?入んな!』
嵯峨の口調は何時もののんびりした調子では無くどことなく緊張感を帯びていた。誠はそこに不安を感じながら隊長室に入った。
いつもとは違う緊張した空気がそこに流れているのは誠にも十分わかった。
隊長室では神妙な面持ちで嵯峨を見つめるかえでと、いつもには無い難しい表情を浮かべて机の上に何枚も写真を並べている嵯峨が座っていた。
嵯峨は年齢47歳である。しかし、どこからどう見ても誠と同い年くらいの若造にしか見えない。それにも法術が関係していた。
法術師の能力には老化を止め、すべての傷や病気、飢えや窒息からも身体を再生させてしまう能力があった。
『不老不死』の法術師。それが嵯峨だった。この隊でも機動部隊の隊長を務めるクバルカ・ランはどう見ても8歳だが戸籍上は34歳ということになっており、整備班長を務める島田もまた同じ能力を持っていた。
そんな永遠の若造の前でかえでは明らかに不服そうな表情を浮かべつつ血縁上は叔父、そして甲武四大公家嵯峨家の家格をかえでに与えたことで義父となった緩んだ表情の嵯峨を見つめていた。
「あのさあ、かえで。はっきりしようや。お前が愛するのはこの世でたった一人の人間なんだろ?いつもお前さんはそう言ってるよな。そいつの名前は誰だ?ここに本人が居るんだ。ちゃんと言ってみな」
嵯峨は先ほどまでの厳しい表情を崩して面白がるようにそう言うといつもに無い厳しい表情のかえでに目を向けた。
「僕が愛するのは誠君だけです!それ以外の男には一切興味がありません!それ以外の男はみすぼらしいものをぶら下げただけの見るに堪えない糞袋にしか僕には見えません!」
はっきりとそう断言するかえでだが、ズバリとそう言われてしまうと隣に立つ誠にはただ照れて頭を掻く事しか出来なかった。そして自分以外のそんなひどい目で見られている隊の先輩の男性隊員に申し訳の無い気持ちでいっぱいになった。
「そうだろ?でもね、男限定じゃだめなんだよ、お前さんの場合。お前さんの場合そこに女も入れてくれないと俺としても困るんだよ。かえでさあ、パーティーとか好きじゃん。その度に出かけて行って美女をお持ち帰りしてくる。羨ましいねえ……そんな思いをしているのは男にだって滅多にいないよ。でもお前さんはそれが当たり前だと思ってる。それちょっと問題なんだよね」
嵯峨はそう言うとあきれ果てたようにため息をつきタバコに火をつけた。




