第2話 『駄目人間』から普通の部隊長になった隊長
隊長室は何時にもまして静まり返っていた。その静けさに誠は嫌な予感がした。
「隊長は最近あまり『駄目人間』じゃなくなってきてるからな。風俗通いもやめたみたいだし、身なりもちゃんと無精ひげは剃って、制服の皺とか伸びててきっちりするようになったもんな。これもお蔦さんが来たせい?でも性的にはさらに駄目になってるけど……でも、それ以来、気軽には入れる部屋じゃなくなってきてるんだよな。以前までは隊長が誰が見ても分かる『駄目人間』だと分かってたから遠慮もせずに入れたけど、今は中身はどうあれ見た目だけはきっちり『特殊部隊の隊長』をしているもんな。きっちり制服を着て階級章を見せつけられるとどうしても委縮しちゃうし……まあ、他の部隊ではそれが当たり前の事なのかもしれないけど」
誠はまるっきり尊敬するところのかけらも感じなかった嵯峨が最近変わってきていることを思って苦笑いを浮かべた。
嵯峨の青春時代のヤンチャの末に嵯峨の虜となってはるばる星を超え甲武星の甲武国からやって来たお蔦という元売れっ子女郎が嵯峨の内縁の妻のような立場になってから嵯峨の生活は明らかに変わっていた。
誰が見てもだらしない格好で勤務中だろうが風俗情報誌を読み漁り、格安風俗店でその時にはやっている伝染病を貰ってきて、伝染病の感染源扱いされていた嵯峨はまさに『駄目人間』の典型だった。
その嵯峨を性的に満足させて風俗通いをやめさせ、身なりのみすぼらしさもお蔦が注意してそれなりにちゃんとした姿にして出勤してくる。お蔦との同棲を始めた当初は嵯峨はお蔦が気に入ったということで香水までつけてきていたが、さすがにヘビースモーカーの嵯峨は香水のにおいまでさせたら隊員に迷惑だということでそれは最近ではやめていた。
それまでは月5万円の生活費で築50年のボロアパートで時々電気やガスが止められることも間々ある生活から、義娘であるかえでに買い与えられた豪勢な屋敷に暮らすようになり、生活の足として自転車しか使っていなかった嵯峨が最近は島田がカスタムしたレーシング仕様の青い『ファミリア』で通勤するようになった。
「良い変化なのか……悪い変化なのか……良く分からないな……ただ、見た目だけは隊長だといって他の部隊の前に出しても恥ずかしくないようになったのはうれしいかもしれない。これまではあまりに酷かった……うちで一番不潔な格好してたからな。あれが隊長をしていますなんて他の部隊には言えないほどに……まあ、こんな辺鄙なところに誰が来るわけでもないんだけど」
そう思いながら誠は隊長室をノックした。




