第13話 いつものお店で見つめあう二人とそれを邪魔するもの
「誠君、今日も君の隣に座ることが出来て僕は最高に幸せだよ。こんな幸せな時間を君と共有できる。日々そんな当たり前のようでいて奇跡に近い現象を体験することが出来る。君もまた僕と同じ考えなんだよね?」
『特殊な部隊』の行きつけの焼鳥屋『月島屋』。そこは『特殊な部隊』にとってオアシスと言える場所だった。飲み代は一部の例外を除いてすべて副隊長のランが払ってくれるのでただ酒が飲める。そして美人女将の家村春子と焼鳥を焼く職人の源さんの出す焼鳥の品々はどれも工夫が効いていてこんな地方都市には考えられない素敵なお店だった。
そのカウンターのかえでが決めたらしいいつもの席に誠は無理やり座らされ、その右隣にはかえでが、左隣にはリンが座って飲み会が始まった。
かえでのテーブルにはすでに今日かえでが飲むと決めていたかえでがこの店に自費で設置した簡易ワインセラーから取り出したビンテージワインが置かれ、ワイングラスには赤い色の液体が満たされていた。
そんなワイングラスを手に満足げに誠に視線を送るかえでの後ろのテーブル席にはかえでに向けて殺意を込めた視線を送るかなめとアメリアの姿がある。カウラは黙って一人烏龍茶を飲んでいた。
「日野のお姫様。もっと正直に生きた方が楽だよ。プラトニックラブという言葉はアタシは女将さんから説明を受けたが、お姫様には無理な話だね。もっと強引に攻めないと。その方があなたらしいとアタシは思うよ。アンタは顔も、身体も、経験もそれこそ花街一の花魁だったアタシでも手が出ないくらいの上玉なんだ。そこを使って攻めれば神前君だってあっという間だって言うのに」
最近では『甲武の元花魁の接待してくれる店』として密かに話題を集めている店員である嵯峨の内縁の妻で元は甲武の花街の遊郭で一番と知られた太夫をしていたお蔦がそう言ってカウンター席に焼鳥盛り合わせを並べていった。
「何を言うのかな?お蔦さん。僕には不可能なことなど無いよ。あなたの言う方法はあまりに当たり前すぎて僕のように狙った恋をすべて手に入れてきた女には満足できる話では無いんだ。この縛られた愛の手段こそが僕を燃えさせるんだ。そしてその言葉がきっと誠君にも届くだろう……ねえ?」
かえではそう言って誠にささやきかけてくる。誠はかえでの本性が露出狂の変質者で、その欲望としては誠に思う存分蹂躙されたいとしか考えていないという性格を知っていたので苦笑いを浮かべていた。




