おまけエピローグ 蒼炎の二人暮らし
あれから、半年――
戦場だった場所は緑に覆われ、風は花の香りを運んでくるようになった。
「おい、エリシア。また火を強くしすぎだ」
「だって、パンがふっくら焼けるかなって……」
暖炉の前で、こんがり焼けたパンを持ち上げると、アレクシスが呆れたように笑った。
その手は、私の髪を軽く撫でてくる。
「前は戦場で火を放ってたのに、今はパンを焼くための炎か」
「不満?」
「……いや。こっちのほうが、ずっといい」
そう言って、彼は私の手からパンを奪い、一口かじった。
少しだけバターをつけて差し出すと、素直にもう一口食べる。
――やっぱり、戦場の彼より、こうしてパンを食べる彼のほうが好きだ。
◆◇◆
夜、外に出ると星が降るように輝いている。
アレクシスは背後から私を抱き寄せ、顎を肩に乗せた。
「……まだ夢みたいだな」
「何が?」
「こうして、君と暮らしてること」
彼の声は低くて、胸の奥をくすぐる。
私は振り返り、少し背伸びをして唇を重ねた。
温もりが、炎みたいに広がる。
「……あの戦いのあと、私、あなたを離すつもりなかったから」
「じゃあ、俺も同じだ」
そう言うと、彼は私をひょいと抱き上げ、そのまま家の中へ連れ帰った。
「ちょっ、アレクシス!」
「寒いから中で続きをする」
「続きを……って、何を――」
「決まってるだろ」
耳元で囁かれ、顔が一瞬で熱くなる。
◆◇◆
暖炉の前、膝の上に座らされる。
アレクシスの腕が私を逃がさないように回され、その瞳は真っ直ぐだった。
「エリシア。俺は、もう二度と君を戦わせたくない」
「……私も、あなたを危険に行かせたくない」
「じゃあ、ずっと一緒にいよう」
その約束は、誓いでも呪文でもない。
でも、私たちにとっては何より強い力だった。
唇が重なり、指が髪をすくう。
暖炉の火がぱちぱちと音を立て、蒼炎のような温もりが部屋を満たす。
――この炎は、もう戦うためじゃない。
あなたと愛し合うための、永遠の火だ。
<おまけ終>