第38話 炎翼の咆哮
白銀の炎の鳥が翼を広げ、空を覆い尽くした。
その羽ばたき一つで、灰の門周辺の岩壁が崩れ、地面がひび割れる。
熱ではない――存在そのものを削る圧力だ。
「リディア、下がれ!」
アレクシスが前に出る。
だが私は、もう後ろには下がらなかった。
「私しか、止められない!」
胸の奥で燃える蒼炎が、歴代守護者たちの声と共鳴する。
その熱は痛みと同時に、強い確信を与えてくれた。
◆◇◆
鳥の喉奥から、白銀の閃光が走る。
私は地を蹴り、蒼炎でその光線を受け止めた。
光と炎がぶつかり合い、周囲の空気が一瞬で蒸発する。
「アレクシス、右から!」
「了解!」
彼は剣に魔力を込め、光の尾を引く斬撃を放った。
その刃が鳥の翼の一部を裂き、白銀の粒が宙に散った。
鳥が耳を裂くような咆哮を上げる。
その声は、頭の奥に直接響き、意識を揺らす。
◆◇◆
足元がぐらりと揺れた瞬間、背後からミレーユの雷撃が鳥の体を貫いた。
「今よ、エリシア!」
その声に押され、私は全力で蒼炎を翼の付け根へ叩き込む。
炎が白銀を侵食し、じわじわと色を奪っていく。
歴代守護者の力が、確かにこの炎に混ざっていると感じた。
『……認めよう。お前の炎は神の火に届く』
鳥の声は低くなり、しかし怒気を含む。
『だが、これで終わりと思うな』
◆◇◆
鳥が翼を畳み、急降下してきた。
アレクシスが私を抱えて横へ飛び退く。
その瞬間、さっきまで私がいた場所が光に呑まれて消えた。
「大丈夫か」
「……ありがとう。でも、もう守られてる場合じゃない」
私は彼の腕から抜け出し、炎をさらに強くする。
「一緒に倒すんでしょ?」
アレクシスの瞳が、わずかに揺れる。
そして頷き、私の背中に自分の魔力を流し込んだ。
「行け。お前の炎なら、あいつを焼き切れる」
◆◇◆
私たちは同時に駆け出した。
アレクシスの剣が鳥の注意を引き、その隙に私は翼の下へ潜り込む。
炎が渦を巻き、鳥の胸元へと集中する。
「――これで!」
蒼炎を解き放つと、鳥の胸が白銀と蒼の入り混じる光に包まれた。
だが次の瞬間、鳥の体から眩い柱が天へ伸び、門が唸り声を上げる。
その柱の中に、別の影がうごめいていた。
『……あれは、本体じゃない』
守護者の声が低く響く。
『この鳥はただの器だ。中にいるのは……神そのもの』
全身が震えた。
今までの戦いは、ただの前座だったのだ。