第30話 封印の守護者
目を開けると、そこは見覚えのある場所だった。
蒼い光が天井から降り注ぐ、大聖堂。
足音ひとつ響かない静寂の中、祭壇の前に一人の影が立っている。
――もう一人の、わたし。
赤い瞳がゆっくりとこちらを向く。
『やっと目覚めたか』
「……あなたは、何者なの」
問いかけると、赤い瞳のわたしは軽く笑った。
『私はお前。だが、お前ではない』
「意味がわからない」
『お前は“器”。私は、その中に封じられた“守護者”』
◆◇◆
守護者――。
その言葉に、胸の奥で何かが反応した。
『この世界には三つの門がある。
一つは王家が守り、一つは神殿が守り、そして最後の一つ……灰の門は、私が守ってきた』
「灰の……門」
『だが力は弱まり、封印は揺らいでいる。お前が生まれたのは、私を補うためだ』
赤い瞳がわずかに細められる。
『――そして、殿下はその封印を壊そうとしている』
◆◇◆
胸の奥に冷たいものが流れ込む。
「……殿下は、何を望んでいるの?」
『灰の門の向こうには、すべてを覆す力が眠っている。
彼はそれを手に入れ、王としてではなく――神として君臨するつもりだ』
その声音には、怒りとも哀しみともつかない感情が混ざっていた。
◆◇◆
『お前が覚悟を決めた時、私は完全に力を渡す。
だがその代わり――お前は“ただの人”ではいられなくなる』
赤い瞳がわたしを射抜く。
『選べ、エリシア。
仲間と共に短く生きるか、私と一つになって永劫の守り手となるか』
「そんな……」
答えを出せないまま、視界が揺らぎ始める。
蒼い光が暗闇に呑まれ、足元が崩れ落ちるような感覚に包まれた。
◆◇◆
「……エリシア!」
アレクシスの声で目を覚ますと、わたしは焚き火のそばに横たえられていた。
彼の表情は、焦りと安堵が入り混じっている。
「大丈夫か?」
わたしは小さくうなずいた。
けれど胸の中には、守護者の言葉が深く突き刺さったままだった。