表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/43

第29話 灰霧の魔

 翌朝、まだ太陽が森の端から顔を出したばかりの頃だった。

 遠くの地平線に、灰色のもやが立ち上っているのが見えた。

 それは風に流れるでもなく、じわりじわりとこちらへ迫ってくる。


「……灰の霧だ」

 ルシアンが剣の柄を握りしめる。

「峡谷まで行かずに、もうこっちまで来てるなんて……」


 ミレーユが短く息を呑んだ。

「普通はあの霧の中に入った者しか襲われないのに……」


◆◇◆


 わたしたちは馬を降り、武器を構えた。

 霧はやがて道を覆い、足元が見えなくなるほど濃くなる。

 鼻を刺すような金属臭が漂い、耳鳴りのような低い音が響き始めた。


 その時――霧の中から、影が動いた。


◆◇◆


 四つ足で這うような巨体。

 皮膚はひび割れた灰色の石のようで、目は燃えるように赤い。

 口を開くと、牙の間から灰色の煙が漏れ出す。


「《灰霧の魔》……!」

 ミレーユが呟くや否や、魔物が咆哮し、一直線にこちらへ飛びかかってきた。


 アレクシスが剣を振るい、ルシアンが横から切り込む。

 金属と石のぶつかる鈍い音が響くが、魔物は怯むどころかさらに動きを早めた。


◆◇◆


 その瞬間、胸の奥から熱が溢れ出した。

 視界が赤く染まり、耳元で囁きが響く。


『……貸せ。お前では間に合わぬ』


 気づけば、わたしの身体は勝手に前へと踏み出していた。

 両手が見知らぬ形で動き、地面に複雑な紋章を描く。

 紋章から蒼い炎が噴き上がり、魔物の動きを封じた。


◆◇◆


 アレクシスが驚きに目を見開く。

「エリシア……それは……!」


 けれど、わたしは何も答えられない。

 今、わたしの口から漏れたのは、自分のものではない低く冷たい声だった。


『鎮まれ』


 その一言と共に、蒼い炎は魔物を包み込み、灰となって霧に溶けていった。


◆◇◆


 次の瞬間、視界が揺れ、膝が崩れた。

 アレクシスが慌てて抱きとめる。


「……エリシア! 今のは――」

 彼の声を聞く前に、意識は闇に沈んでいった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ