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第28話 夢に現る鍵

 殿下たちの影が完全に見えなくなっても、胸の鼓動はしばらく収まらなかった。

 あの冷たい視線と、「器」という言葉が耳にこびりついて離れない。


 アレクシスは何も言わず、ただ黙々と馬を進める。

 ルシアンとミレーユも同じだ。

 沈黙は、まるでわたしの中の疑問をさらに膨らませるためにあるようだった。


◆◇◆


 その夜。

 焚き火の傍で横になったわたしは、すぐに眠りへと落ちた。

 そして――再び、あの夢の中にいた。


◆◇◆


 場所は、前と同じ薄暗い大聖堂。

 蒼く光る扉は、ゆっくりと脈打つように明滅している。

 その前に、黒いフードを被った人影が立っていた。


「……あなたは?」

 問いかけると、影はゆっくりとフードを上げる。

 その下から現れたのは――わたしと同じ顔。

 けれど瞳の色は、血のように赤かった。


◆◇◆


『器……お前は二つで一つ』

 赤い瞳のわたしが、手を差し出す。

 その掌には、金色の封印の鍵があった。

 宝石は透明で、扉の蒼い光を吸い込むように輝いている。


「これが……最後の鍵?」

 そう呟いた途端、赤い瞳のわたしは微笑んだ。

『これは、取り戻すべきもの。だが……渡せるのは、お前が覚悟を決めた時だけ』


「覚悟……?」

 問い返すより早く、扉の向こうから強烈な光があふれ出す。

 視界が白に染まり、足元の感覚が消えた。


◆◇◆


 目を開けると、焚き火の炎が揺れていた。

 アレクシスが心配そうに覗き込んでいる。

「また……夢を見たな」

 わたしはうなずき、夢の中で見た鍵と“もう一人のわたし”のことを話した。


 アレクシスは長く息を吐き、低く呟く。

「……やはり、お前の中には二つの魂がある」


「二つの……?」

「それが何を意味するかはまだ言えない。だが、最後の鍵が現れた以上、灰の峡谷は待ってくれないだろう」


 焚き火の火花が夜空に消える。

 まるで、時間そのものが急かしているように思えた。


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