第26話 封印の在処
わたしが見た夢の内容を、途切れ途切れに話すと、アレクシスは深く黙り込んだ。
ルシアンもミレーユも、途中から一言も口を挟まなくなる。
まるで全員が同じものを思い出しているようだった。
「……その扉。蒼く光っていたと言ったな」
アレクシスの声は低く、しかしはっきりと震えていた。
「それは《蒼焔封印門》だ」
「知ってるの……?」
問いかけると、アレクシスは鞍袋から小さな包みを取り出した。
布を解くと、中から銀色のペンダントが現れる。
夢で見たものとまったく同じだった。
◆◇◆
「これが封印の鍵だ」
彼は宝石を指先でなぞる。
「百年前、一族はこの鍵を三つ作り、封印を守った。これはその一つ。俺の家系が代々守ってきたものだ」
ミレーユが続けるように口を開いた。
「もう一つは、王家の手に渡った。そして最後の一つは……行方不明」
ルシアンが短く笑う。
「その行方不明の鍵が、エリシアの夢に現れたってわけか」
――背筋に冷たいものが走った。
わたしは鍵を持っていないはずなのに、夢で触れた感触は確かにあった。
◆◇◆
「封印の場所は……どこにあるの?」
わたしがそう問うと、アレクシスはしばらくためらった後、ゆっくり答えた。
「《灰の峡谷》だ」
その名は、旅人たちの間で忌み地として知られている。
灰色の霧が一年中晴れず、中に入った者は二度と戻らない――そう噂される場所。
ミレーユが険しい顔をする。
「王家もそこには手を出さない。あまりに危険だから」
「だが、靄が動き出している以上、もう先延ばしはできない」
アレクシスはきっぱりと言った。
◆◇◆
その時、胸の奥が妙にざわついた。
あの囁きが、また聞こえた気がする。
『……灰の門……帰れ……器……』
言葉は冷たいのに、不思議と拒絶ではなく呼びかけのように感じた。
でも、口に出せばきっと、また心配される。
わたしは黙って唇を噛んだ。
◆◇◆
やがてアレクシスが馬を進め、わたしの横に並ぶ。
「エリシア。もし次に夢を見たら、必ず俺に言え」
その声は命令のように鋭く、同時に祈りのように優しかった。
「……わかった」
頷くと、彼は一瞬だけ表情を緩め、前を向いた。
南へ――灰の峡谷へ。
運命の封印が、わたしを待っている。