表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/43

第26話 封印の在処

 わたしが見た夢の内容を、途切れ途切れに話すと、アレクシスは深く黙り込んだ。

 ルシアンもミレーユも、途中から一言も口を挟まなくなる。

 まるで全員が同じものを思い出しているようだった。


「……その扉。蒼く光っていたと言ったな」

 アレクシスの声は低く、しかしはっきりと震えていた。

「それは《蒼焔封印門》だ」


「知ってるの……?」

 問いかけると、アレクシスは鞍袋から小さな包みを取り出した。

 布を解くと、中から銀色のペンダントが現れる。

 夢で見たものとまったく同じだった。


◆◇◆


「これが封印の鍵だ」

 彼は宝石を指先でなぞる。

「百年前、一族はこの鍵を三つ作り、封印を守った。これはその一つ。俺の家系が代々守ってきたものだ」


 ミレーユが続けるように口を開いた。

「もう一つは、王家の手に渡った。そして最後の一つは……行方不明」

 ルシアンが短く笑う。

「その行方不明の鍵が、エリシアの夢に現れたってわけか」


 ――背筋に冷たいものが走った。

 わたしは鍵を持っていないはずなのに、夢で触れた感触は確かにあった。


◆◇◆


「封印の場所は……どこにあるの?」

 わたしがそう問うと、アレクシスはしばらくためらった後、ゆっくり答えた。


「《灰の峡谷》だ」

 その名は、旅人たちの間で忌み地として知られている。

 灰色の霧が一年中晴れず、中に入った者は二度と戻らない――そう噂される場所。


 ミレーユが険しい顔をする。

「王家もそこには手を出さない。あまりに危険だから」

「だが、靄が動き出している以上、もう先延ばしはできない」

 アレクシスはきっぱりと言った。


◆◇◆


 その時、胸の奥が妙にざわついた。

 あの囁きが、また聞こえた気がする。


『……灰の門……帰れ……器……』


 言葉は冷たいのに、不思議と拒絶ではなく呼びかけのように感じた。

 でも、口に出せばきっと、また心配される。

 わたしは黙って唇を噛んだ。


◆◇◆


 やがてアレクシスが馬を進め、わたしの横に並ぶ。

「エリシア。もし次に夢を見たら、必ず俺に言え」

 その声は命令のように鋭く、同時に祈りのように優しかった。


「……わかった」

 頷くと、彼は一瞬だけ表情を緩め、前を向いた。


 南へ――灰の峡谷へ。

 運命の封印が、わたしを待っている。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ