第22話 蒼き血
ミレーユの剣が靄を裂くたび、蒼い光が夜気を染めた。
その輝きはただの魔力ではない――どこか、アレクシスの気配に似ている。
「……まさか」
胸の奥に浮かんだ予感を、わたしは否定できなかった。
外の戦闘音に混じって、ミレーユの声が響く。
「アレクシス! あんた、まだそんな身体で戦うつもり!?」
「口を閉じていろ、ミレーユ」
返す声は鋭く、しかし刃物のような冷たさの裏に、わずかな感情が滲んでいた。
◆◇◆
廃屋の北側で、ルシアンが靄を切り払う。
「持たせろよ! ミレーユ!」
「言われなくても!」
ふたりの動きは息が合っている。
その連携の中で、アレクシスは扉の前に立ち、外から侵入しようとする靄を阻んでいた。
彼の剣先からも、微かに蒼い光が揺れる。
それがミレーユの光と混ざり合うと、靄は一瞬たじろいだ。
◆◇◆
わたしは、その色に惹きつけられるように前へ出てしまった。
「エリシア!」
アレクシスの声が鋭く飛ぶ。
だが、もう遅かった。
靄の一部が、蛇のようにうねりながらわたしの足元を絡め取る。
冷たさが肌を這い、息が詰まった。
「――離せっ!」
必死にもがくが、靄は体温を吸い取るように締め付ける。
視界が暗くなりかけたその瞬間、胸の奥が熱く脈打った。
◆◇◆
――蒼い光。
それはわたしの両手から溢れ出し、靄を焼くように弾き飛ばした。
あまりの衝撃に、自分でも息を呑む。
外にいたミレーユが、一瞬動きを止めてこちらを振り返った。
「……やっぱり」
その声は、確信に満ちていた。
アレクシスがわたしの前に立ち、靄の残滓を斬り払う。
「その光……どうして、お前が――」
言葉が途中で途切れる。
彼の瞳がわずかに揺れた。
◆◇◆
ミレーユが靄を押し返しながら叫ぶ。
「アレクシス! この子は、私たちと同じ血を持ってる!」
その一言が、戦場の空気を変えた。
ルシアンが一瞬だけ動きを止め、アレクシスも剣を握る手を強くした。
「……説明は後だ。今は生き延びる」
アレクシスの短い言葉に、全員が再び動き出す。
しかしわたしの心臓は、戦いの音よりも大きく脈打っていた。
――同じ血。
それが意味するものは、想像以上に重かった。