第12話 封印の真実
殿下の言葉が、城の冷たい空気を震わせた。
“扉を開く鍵”――クラリッサが昼間に告げた言葉と、まったく同じ。
「殿下……それはどういう意味ですか」
わたしは喉の奥が乾くのを感じながら問い返す。
殿下はゆったりと歩み寄り、わたしの頬に手を伸ばそうとした。
その瞬間、アレクシスの剣がその手を遮る。
「触るな」
低い声に、殿下は小さく笑った。
「やっぱり、君は面白いよ、アレクシス。……でもね、これは君の領分じゃない」
「これは王国の存亡に関わることだ。領分も何もない」
火花のような視線が交錯する。
殿下は肩をすくめ、わたしに視線を向けた。
「この王国の地下深くには、“始まりの獣”が封じられている。暴走体の源となる存在だ。
それを制御できる唯一の術が、古代の封印……そして、その封印を解く鍵が君だ、エリシア」
言葉が胸に重く落ちる。
自分の存在が、ただの偶然ではなく、ずっと前から定められていたのだと突きつけられた気がした。
「なぜ……封印を解く必要があるのですか」
震える声で尋ねる。
殿下は笑みを深め、金色の瞳を細めた。
「王国は腐っている。あの獣の力を使えば、すべてを一度壊して作り直せる」
「狂っているな」
アレクシスの声が低く響く。
殿下は構わず続けた。
「君が僕のもとに来れば、血は惜しまない。苦しませるつもりもない。むしろ――愛するつもりだ」
その言葉は甘く、しかし底なしの闇を孕んでいた。
◆◇◆
突然、廊下の奥から複数の気配が迫る。
殿下が指を鳴らすと、黒い鎧を纏った兵士たちが影のように現れた。
「君たちはここまでだ」
殿下の背後で、黒曜石の扉の封印が音もなく解け始める。
青白い光が漏れ、冷たい風が廊下を吹き抜けた。
「……エリシア、行くぞ!」
アレクシスがわたしの手を強く握り、走り出す。
背後で殿下の声が響いた。
「逃げても無駄だよ、鍵は僕から離れられない!」
その瞬間、封印の向こうから低く唸るような声が響き、地面が震えた。
――何かが、目を覚ました。