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第三十一章 隠された刃(四話)

(蒼耀様の姉君だけの力なら? ということは……)


「蒼耀様。姉君に、お力をお貸しになるのですか?」


二柱の神が力を合わせれば、この結界は破られるかもしれない。


(罰とは? どこまでの村人を殺すつもりだ? 秘密を知らぬ者まで、全員などというのではないだろうな?)


清志郎の心配をよそに、蒼耀はあっさりと否定する。


「そうしたいところだけど、今の私は、ただの人間だ。この結界を破ることはできないだろう」


「え?」


蒼耀の告白に、清志郎は面食らう。


(蒼耀様が人間? 神として生まれ変わったのではないのか? なら、何故あのような力を?)


蒼耀の言葉が信じられなくて、清志郎はすかさず彼に問う。


「で、でも、とても普通の人間にはできないことを、私の前で何度も……」


「あんなのは、この世の理を理解しているかどうかの話だよ。どういうわけか幸い、私は前世の記憶を持って生まれ変わることができた」


蒼耀のあっけらかんとした態度に、逆に清志郎は驚かされた。


(神とは、どこまで人と違うんだ! 本来の神の力を失ってもなお、常人とは雲泥の差だ。この世の理なんて、人間に理解できるわけねぇ!)


夜が深まっていくとともに、時折吹き抜ける風の冷たさも増してきた。

竹林がざわめく。

普段なら気にも留めない音が、清志郎を更に不安にさせる。


「あの、よくわからないんですけど。蒼耀様でも結界を破ることができないのに、姉君は何故、私を使おうなどとお考えになるのですか? 私はただの人間ですよ」


「ふふっ。当然の疑問だよね。ふぅ、寒くなってきたな。早く部屋に戻してやらないと清守が風邪をひいてしまうな」


蒼耀は清志郎の問いには答えず、庫裏へと歩みだした。


「蒼耀様! もったいぶらないで教えてください!」


「やれやれ、清守はせっかちだな。……私の神であった頃の力を、そのまま宿している神器があるんだよ。姉上はそれを私の形見としてずっと持っておられたようだ。いや、私も愛されたものだね。有難いことだ。その力を辿って旅をしてきたら、お前も見つけることができた。姉上には感謝しかないよ」


「じ、神器?」


「ああ。姉上はそれをお前に使わせようとしている」


「な、何故? 神器は、持ち主の神しか使えないはずでは?」


「へぇ、そんなことは覚えているんだね、清守。本当はもっと思い出してるんじゃないの? 私のことも」


蒼耀は振り返り、ニタリと怪しく微笑んだ。

その妖艶な笑みは、誰しもが虜になりそうなほど、美しい。

だが、早く全てを思い出せと、言われているようでもあり、恐怖を感じた。


「あ、い、いえ。自分でも何故、そのようなことを言ったのか……」


「ふっ、お前の言うとおり、本来ならそれは、私にしか使えない。だが、さっき言ったろう? お前は私の特別だったと」


「……え? ま、まさか……使えるんですか? 私は?」


「姉上は私が転生していることを知らなかった。もう、そろそろバレてるかもしれないけど。しかし、お前の転生は数年前に感づいたようだ。お前の大事な人の死をきっかけに」


「大事な人の……死?」


「元々は私の神器だ。私が直に、この村に鉄槌を下してやってもいいんだがね」


蒼耀の目が、真っ直ぐに清志郎を見据える。

清志郎も蒼耀の怪しく輝く瞳から、視線を外すことができなかった。


「真実を全て知れば、お前は自ら私の神器を手に取るよ、清守」


「……」


蒼耀の言葉は確信に満ちていた。

清志郎は、彼の言葉を否定できなかった。

それは、自分が主に刃を向けるような愚者だと知ってしまったからだろうか。

誰を信じていいのかわからないどころか、自分さえも信じられなくなっていた。



気づけば、布団の中にいた。

いつの間にか日は昇り、近所の鶏の声が微かに聞こえた。


(え? 夢? 夢だったのか?)


蒼耀に部屋まで背負われて戻った記憶はない。

ならば、昨晩のことは、もしかしてただの夢――。

夢であって欲しい。

心底そう願ったが、その願いは無情にも打ち砕かれた。

枕元に、笹舟が置いてある。

胸の奥が、ひやりと冷えた。


(夢、ではなかったか……)


笹舟を手に取り、昨夜のことを思い出していると、部屋の外から声を掛けられた。


「おはよう、清志郎。朝餉の支度ができたそうだ。一緒にいこう」


(宗真……お前はどこまで、知ってて黙ってたんだ)


「ああ、わかった」


清志郎は、笹舟をそっと卓上の梅の花の横に置き、立ち上がった。



清志郎は、わかりやすい。

根が正直な分、顔や態度に出やすい。

彼は今、非常に機嫌が悪い。

喜兵衛のことが気になるのか、それとも何かあったのか。

宗真は、考えを巡らす。


(剣を振るってるときの冷静さは微塵もないな。まぁ、持って生まれた性分だから仕方ないか)


ずっと黙ったままの清志郎に、宗真は探りを入れる。


「昨晩は眠れなかったのか? あまり、箸が進まないようだが」


「さあな。眠れなかったけど、いつの間にか眠ってたよ。……なぁ、宗真」


「なんだ?」


「この後、二人きりで話がしたい。いいか?」


「……わかった。お前の部屋で話そう」


清志郎は、明らかに怒っている。


(私を問い詰める気か。やれ、どうしたものか)


宗真は内心、途方に暮れた。

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