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第8話 パパ、ぜんぜん怒ってないよ?

「やっぱり団長から事前にいろいろ教えてもらってたんですか?」

「いいな~。私も団長の子どもだったら、もっといろいろ有利にできたのかなあ」

「おい、そんなこと言うのやめろって……」

「あなただってそう思ってるんじゃないの? みんな噂してるよ」


 口々に新人騎士がオデットとシャロットのことについて語しだす。

 ここにいる新人騎士は難関試験を突破したエリートばかりだ。それなのに圧倒的な実力差を見せつけられて悔しさとねたましさが我慢できないのだろう。

 フォローしようとしてくれる者もいるが、大多数の妬みの前ではかき消される。


 ……さあ、どうしたものか。


 俺が姿を見せればこの場は収まるだろうが、わだかまりは残るだろう。

 騎士団長として関与すべきでないのは分かっている。だが、娘たちを見ると張り詰めた顔をしていた。

 いつもは無邪気なシャロットでさえ唇を引き結んで新人騎士たちを見ている。


 …………ダメだ。がまんできん。でも、ここで俺がでるのはちょっとなあ……。


 俺は新人騎士たちにおおいに困惑したが。


「言いたいことはそれだけですか?」


 オデットが淡々《たんたん》とした口調で言い放った。

 オデットは嫌味を言った新人騎士を見据えて言葉を続ける。


「あなた、先ほどの指示の出し方は視野が狭すぎます。もう少し全体の視野を大きくしてください」

「次にあなた、途中で集中力を切らしましたね。一秒の遅れで前線の騎士が一人死ぬ、そう自覚していれば戦闘中に集中力を切らすことなどないはずです」

「右にいるあなた、あなたの指示は他より劣っています。あなたはそういうタイプではないようですよ」


 ダ、ダメだし!?

 ここでダメだしするの!?

 言ってることは正しいけど、今それ言う!?

 しかもシャロットまで続いてしまう。


「そっちの人、剣で攻撃するときにもっとわきを締めたほうがいいよ。基本の型を見直したほうがいいと思う」

「あとね、そっちの人は剣に向いてないよ。だって狙いすぎだもん。軌道が読みやすくて、敵がもっと強かったら負けちゃうよ?」


 ど、どうしてここでそんなダメだし始まっちゃうかなあ!?

 負けてなさすぎて、パパ困惑するんだけど!!


 これ以上はダメだ。二人のダメだしは俺の感想と同じなので、さすが俺の娘たちと褒めてやりたいが、今はその時じゃない。

 今度こそ俺は木陰から出ようとしたが。


「な、なにあれ! アラクネがアラクネを食べてる!!」


 ふいに新人騎士の一人が悲鳴をあげた。

 俺もハッとして振り向く。


共食ともぐい? どういうことだ……」


 一匹のアラクネが集まってきていたアラクネを猛烈な勢いで捕食していた。

 アラクネは肉食だが共食いの習性があるなんて聞いたことはない。

 衝撃的な光景に騒然となる中、捕食していたアラクネがみるみる巨大化していく。


「キエエエエエエエエエエエ!!!!」


 巨大化したアラクネが金切り声の鳴き声をあげた。

 突如、鋼のような糸を勢いよく噴射する。


「防衛陣形! っ、勝手なことしないで!!」


 オデットが指示を飛ばすも、それを聞かずに何人かの新人騎士が突っ込んでいく。

 だがアラクネは鋼鉄の表皮に覆われて剣が弾かれる。

 しかも異常事態に場は混乱していた。


 もうダメだな。これ以上は見過みすごせない。



「――――新人は全員下がれ」



「だ、団長……」

「団長だっ……」

「どうしてここに団長が」


 新人騎士に動揺が走る。

 視界に入ったオデットとシャロットも驚いたように目を丸めていた。

 言いたいことはたくさんあるが、今は目の前のアラクネ討伐だ。


「第二部隊、右に展開。第一部隊、防衛魔法発動。第七部隊、負傷した騎士の保護を急げ」


 俺の命令に精鋭の騎士たちが即座に動く。

 俺は背中の大剣を抜くと巨大アラクネに対峙した。


「キエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!!」


 巨大アラクネの鋭い足が俺に襲いかかる。


 だが、すべては一瞬。――――ザンッ!!


 俺は巨大アラクネの懐に入り、大剣を一閃して両断した。

 一瞬のできごとに新人騎士はシンッと静まり返る。

 だが新人以外の騎士は慣れたもので、すぐに討伐された巨大アラクネの屍の処理を始めた。


「屍の回収後、魔獣研究所へ持っていけ。他に共食いの事例がないか調査しろ」

「はっ、ただちに」


 俺は補佐官にそう指示すると、新人騎士たちを振り返る。

 新人騎士たちに緊張が走った。

 どの顔も強張こわばり、なかには悲壮な顔をしている新人騎士もいる。分かっているのだ。自分たちの失態を。


「お前ら、不測の事態への対応力、ゼロだな」


 俺はそれだけを言うときびすを返し、司令部へと戻る。


 べつに怒ってない。ほんとにぜんぜん怒ってない。新人ならよくあることだ。


 だが俺はあえてなにも言わないことにした。これは新人騎士が自分で考えて乗り越えなければならない問題だからだ。




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