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第7話 パパ、物陰から騎士団長する

「団長、どうされました!?」

「山に嫌な気配を感じる。第三部隊は北、第四部隊は南、第五部隊は東、第六部隊は西、展開させて守備を固めろ。第一部隊、第二部隊は山に入って魔獣探査だ」

「魔獣探査? この山には訓練に適した魔獣しか生息していないはずです。それに訓練の監視役として山に入っている騎士からも報告はあがってきておりませんが」


 補佐官が動揺した。

 この訓練用の山には特別警戒を必要とする危険な魔獣は生息していない。俺自身も訓練が始まった時は普段と同じ景色に見えていた。

 だが今、山全体が得体のしれないものに変貌した。


「ああ、そうかもな。だが俺には山全体から感じる。まるで山そのものが変わったようにな」

「承知いたしました。団長がそこまでおっしゃるのでしたら騎士には充分警戒させます。訓練中の新人はどういたしますか?」

「訓練は中止する。第七部隊は新人どもを回収、その後は魔獣探査に加われ。第八部隊は本部待機。本部の司令官は副団長とする」

「団長はどうされるのですか?」

「決まってるだろ。俺も山に入る」

「ええっ、団長みずからですか!?」

「ああ、自分の目でたしかめたい」


 今までこの山で感じたことがない気配だ。

 新種か? それにしては突然出現した。ならば考えられることは召喚。


「後は頼んだぞ」


 俺はそう言うと、数人の側近とともに山に入った。



 山に入った途端、強烈に感じる違和感。

 目には見えない。でも確かになにかが潜んでいると感じる。しかも一カ所じゃない。木枝の隙間、草花の影、あらゆる場所から極小の……。


「いてっ、蜘蛛くもだ。噛まれた」


 後ろを歩いていた騎士が腕を噛んだ蜘蛛くもを払った。

 俺はハッとして声をあげる。


「それは普通の蜘蛛じゃない! アラクネだ!! そこら中にいるぞ、総員厳重警戒!! 全部隊に駆除を命じる!!」


 俺の命令に側近たちが動きだした。


 アラクネ。それは蜘蛛くもの魔獣。サイズは小指ほどだが凶暴な肉食蜘蛛だ。


 だがおかしい。この山にアラクネは生息していなかったはずだ。

 しかも突然出現したのだ。山全体に突然発生する自然現象など考えがたい。やはり誰かが召喚したと考えるのが妥当だとうだろう。


 でもなんのために……?


 ――――ザザザザッ!!


 突然、無数のアラクネが同じ方角に向かって動きだした。

 まるで何かに操られているかのような動きに俺はついていく。

 鬱蒼うっそうしげる木々をかきわけて進むと、そこでは新人騎士たちが戦っていた。


 どうやら第七部隊が演習訓練中の新人騎士を集め、そのままアラクネの殲滅作戦へ移行したようだ。この戦闘で山に生息していたガーゴイルやゴーレムまでおびききよせてしまっているが……。


 加勢は……いらないな。


 アラクネは数が多くて集団で襲ってくることもあるが、一匹一匹はそれほど強い魔獣というわけじゃない。ガーゴイルやゴーレムも連携して戦えば問題ないはずだ。


 俺は気配を消して木陰に身をひそめる。緊急事態だが今年の新人がどんなレベルか自分で確かめる機会だ。俺は自分の騎士団で誰も死なせたくない。そのためには部下たちのレベルを知っておく必要があった。


「トラップ魔法発動! 四班、アラクネを一掃後、ゴーレム討伐に移行!」

「ゴブリン確認! 二班、討伐向かいます!」

「ガーゴイル撃破しました! 次、ゴブリン討伐応援に向かいます!」

「前方左手にアラクネ確認、数はおよそ二百! 七班、トラップ魔法用意!!」


 リーダータイプの新人騎士が的確な指示を飛ばし、攻撃力の強い騎士が魔獣を討伐していく。


 その中でひと際目立っている新人騎士がいた。オデットとシャロットだ。


 リーダータイプの騎士たちのなかでオデットの指示は頭一つ抜けている。


「前方右と後方に防壁魔法展開! 左手側にトラップ魔法伏せ、三、二、一、発動!!」


 オデットの作戦行動は無駄がなく、すきもない。魔獣に攻撃されてからの応戦ではなく、攻撃を予測して先手を打った作戦行動を指示するのだ。

 しかもオデットは腰の剣をすらりと抜くと、みずからも前線で戦うのである。


 そしてシャロットのほうはずば抜けた攻撃力で目立ちまくっていた。


「えいえいっ! こっちだよ〜、えいっ!」


 ドゴオオオオッ!!


 巨大なゴーレムが拳一撃で吹っ飛んだ。

 他の騎士が数人で囲んでいるような魔獣もシャロットはこぶしだけで討伐する。見た目は華奢な女の子だが、その拳の破壊力はそこらの武闘家にも勝るものだった。


 目立ちまくる二人の娘に新人騎士たちに動揺と困惑が広がる。


 二人が首席合格だということは知られているが、それ以上に俺の娘だということのほうがいらぬ関心を抱かせてしまうものなのだ。

 そして周辺の魔獣をあらかた一掃したものの、新人騎士の女が引きつった笑顔で口を開く。


「さすが団長の御令嬢様方ね。いいですね、きっと特別な訓練とか受けたんでしょうね。うらやましいです」

「ほんと、いいよね。うらやましいわ~。試験のことだって、いろいろ教えてもらってたりして」


 いいですね、なんて言いながら嫌味たっぷりな口調だ。

 他の新人騎士のあいだに同調した雰囲気が広がってしまう。


 やっぱり始まったか……。


 こうなる予想はしていたのだ。俺の娘だというだけで注目を集めるのに、二人は首席合格までたしたのだ。これでねたまれないはずはない。



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