第5話 エインズワース家の家族会議
「はい、みんなそこに座りなさい」
そう言って俺は居間にある立派なソファセットの隣に座った。もちろん正座だ。
オデットとシャロットも俺の前に正座する。
アイリーンは俺の隣に正座だ。
大事な話をするとき、俺の家族は正座だ。膝を突きあわせて話すって大事なことだろ。
「パパ、話ってなあに?」
シャロットが首を傾げて俺を見あげる。
オデットも俺を不思議そうに見ている。
俺は真面目な顔で二人に切りだす。
「お前たち、パパに隠していることがあるだろ」
「隠してること? うーん、なにかなあ。オデットわかる?」
「なにかしら……。昨日シャロットが体術の訓練中にパパの籠手を壊したことじゃない?」
「ちがう〜。あれはオデットが装着してたから、シャロットが壊したんじゃないもん。オデットが防御なんてしたから」
「体術の訓練中に防御の動作をするのは当然のことよ。打撃だけでガントレットを壊すなんて、シャロットは馬鹿力なんだから。次からは受け止めずに避けてしまうことにするわ」
「そうだね、それならもう壊れないね!」
かいけつかいけつ~、とシャロットとオデットが勝手に盛り上がって勝手に解決した。
だがそれも俺は初耳だ。
「なんだそれ、初めて聞いたぞ」
「うぅ~、ごめんなさい。パパの訓練用のガントレット借りちゃった」
「私のが修理中だったから……。今日パパが帰ってきたら謝るつもりだったの。パパ、ごめんなさい」
二人がしゅんっとして俺に謝った。
「……わかった。それについてはもういい。訓練用の防具が壊れることはよくあることだ」
「パパ、ありがとう! 今度から気を付けるね!」
「パパ、ありがとうございます」
二人はほっと安堵の顔になった。
防具が打撃で壊れることはそうそうないが、まあいい、今回はそれが議題じゃない。
「パパが聞きたいのはそのことじゃないんだ。お前たち、騎士団試験を受けただろ」
「「あっ」」
二人して固まった。
性格は正反対だがこの反応はそっくりだ。
「やっぱり受けたんだな」
「えっと、あの、それはその……、えっと、えっと」いつも冷静なオデットが焦りだす。
「うう〜っ。だって、だって、だってぇ~……」いつも元気なシャロットがぎゅっと目を閉じて縮こまる。
この反応に俺がため息をつくと、二人が手を取り合って泣きそうな顔になった。
「……パパ、怒った?」
「私たちはパパを怒らせてしまったんですね……」
二人がきゅっと唇を噛みしめてプルプルした。
俺に怒られるのを覚悟したその反応は子どもの時のままで……。
「……怒ってるわけじゃない。どうしてパパに言わなかったんだと聞きたいんだ」
この質問に二人は顔を見合わせ、観念したように話しだす。
「…………パパが反対すると思ったからです」
「……パパ、シャロットたちのこと大好きだから反対しちゃうんでしょ?」
「分かってるならどうして受けたんだ。騎士団だぞ? 危険な目にも遭うし、最前線で戦うことだってある。それがどういうことか分かってるのか? パパは反対だ」
きっぱり言い放った。
そう、俺は断固反対。かわいい娘たちに万が一のことがあったらと思うと……。ダメだ、そんなの想像することすら断固拒否だ。
可哀想なことを言っていると思う。でも俺はみすみす危険な場所へ二人を送り出したくない。ましてやそれが俺の命令で実行されるなんて、そんなのは冗談じゃない。
二人は正座でうつむき、唇を引き結んで沈黙していた。
でも少しして…………ぎゅっ。二人が手を繋ぐ。
まずオデットが覚悟を決めたように口を開く。
「……わかっています。でもパパ、私は騎士団に入りたいです! 騎士団に入って、パパみたいな騎士になるのが夢なんです! お願いします、認めてください!」
「シャロットも! シャロットもパパみたいな騎士になるのが夢なの! 立派な騎士になれるようにがんばるから、お願いします!」
二人が固い決意で言った。
本気なのだと訴えてくる姿に、俺の眉間にムムッと力が入る。
追い詰めたはずなのに、俺のほうが追い詰められている気がする……。
実際、二人は幼い頃から剣術も体術も座学もがんばっていた。他にも馬術や槍術など騎士に必要な分野も真剣に習得していたのだ。がんばり屋さんな娘たちだと思っていたが、その努力が騎士になるためだったとしたら……。
「…………お前たちは、それを自分で決めたのか」
「はい、騎士になると自分で決めました」
「シャロットもだよ。シャロットも自分で考えて決めたの。騎士は大変なお仕事だってわかってるけど、パパみたいな騎士になるって決めてるの!」
「…………」
二人は自分で考え、自分で決めていた。
それを叶えるための努力を惜しまず、必要な力を手に入れていた。
なにより、それは首席合格という試験結果で証明されたのだ。
俺はアイリーンを見た。
するとアイリーンは微笑んで小さく頷く。
「決断はあなたにゆだねます。これから先なにがあっても私はあなたの決断を責めたりしないわ」
「アイリーン……」
俺はひとつ頷くと、またオデットとシャロットを見る。
正直、俺は反対したい。自分の娘たちをわざわざ危険にさらしたい親がどこにいる。
だが、それは俺のわがままなのかもしれない。まだまだ子どもだと思っていたが、二人は自分の夢に向かって一生懸命手を伸ばしていたのだ。
「……わかった。認める」
「ほんと!? うれしいです! パパ、ありがとうございます!」
「わああっ、やった~! パパありがとう~!」
「うわっ、おい急に抱きつくなって!」
正座していた二人が俺に向かって勢いよく抱きついてきた。
もう子どもじゃないと思ったばかりだが、子どものようにはしゃぐ二人に苦笑する。
俺は二人の背中を撫でて落ち着かせつつも、大事なことは言い忘れない。
「いいか、ただしパパは公私混同はしない。お前たちは大事な娘だが騎士だ。それだけは肝に銘じておけ」
「「はいっ!」」
二人は背筋を伸ばして返事をした。
それは騎士らしいものだが。
「ん? パパが私たちが騎士団試験を受験したのを知っているってことは、私たち合格したってことじゃないかしら?」
「やった~! 絶対そうだよ! パパ、そうなんだよね!?」
「守秘義務だ。言うわけないだろ」
俺は今更ながらきっぱり言った。
もうバレているのは分かっているが公私混同をしない。正式な合格者発表は明日だ。
こうしてひと区切りついたところでアイリーンがオデットとシャロットに声をかける。
「はい、話はそこまで。オデット、シャロット、夕食の手伝いをしてくれる? 今日はパパが早く帰ってきたから御馳走を作りたいの」
「わかりました。すぐに準備します」
「シャロット、ミートパイ作りたい! お肉たっぷりのやつ~」
「ほんとにお肉好きですね」
「だってお肉おいしいんだもん。オデットももっと食べたら?」
「適度に食べてます。あなたが食べすぎって話よ」
二人は話しながら居間を出て行った。
俺はそれを見送ってアイリーンを振り返った。
「……というわけだ。明日からオデットとシャロットが騎士になるぞ」
「ふふふ、あなたの部下ですね」
「…………それを言うな、頭が痛い」
複雑な顔になった俺にアイリーンはまた小さく笑う。
「あの子たち、喜んでましたね。子どもの頃から私たちのパパは最強なんだって、あなたのことを自慢していましたから騎士になれて嬉しいんです」
「まあ、それは悪い気しないけど」
ちょっと照れくさい。
明日から娘が部下だと思うと複雑な心境になるが、それでも俺を慕ってくれる娘たちに悪い気はしていないのだ。