第1話 初対面
四人主人公が居ますが、意外にもユウキは最後じゃないんです。
勿体ぶるのが面倒だから。
「ふわぁ~。平和って良いよなぁ」
市役所での戦闘の後。ユウキは大人しくしていた。
ニュースでは顔を隠されていたが、知り合いにはバレている。
親や姉から説教されたり、友人に茶化されたり。
それもひと段落して、ユウキは暇を持て余していた。
授業を終えて、これから何をしようかと迷っている。
友達とゲームでも良いが、今は体を動かしたい気分だ。
「日向ぼっこでもして帰ろうかな?」
もう授業が午前中で終わる時期だ。
しかも卒業式の練習が半分を占めている。
昼間の太陽を浴びながら、ユウキは残り時間の潰し方を考えた。
「せめてもあの化け物の詳細でも分かれば、動くのになぁ」
ユウキはただの学生だ。捜査情報が下りて来る訳がない。
恐らく軍の案件なので、機密事項だろう。
分からないまま動けない。なによりこれ以上深追いすると、今度は説教で済まない。
吹雪でも誘って、どこかで遊ぼうと思ったが。
最近の彼は妙に付き合いが悪い。
こないだゲームの誘いを断ったせいと思ったが、どうにも違うみたいだ。
のんびり歩いていたら、背後から少女が走ってきた。
彼女は二階堂楓。吹雪の幼馴染で親友だったはずだ。
引退前は風紀委員長を務めていたが、ある意味一番素行不良な人物だ。
「冬木! 良かった! 今日はのろのろ帰っていて!」
「good afternoon、そんなに慌ててどうした?」
「実は後輩から相談があって……」
後輩と言うと、多分風紀委員の関係だろう。
楓は部活動をしていないし、他に交友関係も見当たらない。
「最近二年と一年で、素行不良の学生が増えてきたらしいよ」
「へえ。僕が卒業したら締める奴がいなくなるからね」
「半分それもあるだろうけど、奇妙な話を聞いてね」
冗談を真に受けたうえ、軽く流された。
事実ユウキは風紀委員に協力したことがある。
縛られるのが嫌いなので、基本的に何にも所属しなかったのだが。
「学生向けのパーティが開かれているんだって。参加費無料どころか、バイト代を貰えるらしいよ」
「怪しさ満点だな」
「普通は怪しむんだけど……。どういう訳かみんな気が付いたら参加しているんだって」
楓の話によれば、警戒心が強い子も被害にあっているらしい。
しかもパーティの内容を、覚えていないのだ。
そのことに恐怖心を抱いた生徒が、風紀委員に依頼したらしい。
「普通なら先生に相談するところだけど……」
「証拠がなきゃ信じてもらえないわな」
教師が動かなければ、警察にも通報出来ない。
そもそも素行不良と言えど、犯罪をしているわけではない。
「ごめん。こういうの相談できるの、アンタと吹雪しかいなくて……」
「No problem! その信頼を裏切らないようにしないとな!」
ユウキはあっさりと引き受けた。
丁度良い暇つぶしが出来た。悪い事があれば、とっちめれば良い。
何でもできるほど器用じゃないが、自信がある。
「今、相談してきた子がパーティに参加した場所を送るわ」
携帯に画像データが送られてきた。
地図に示された位置で、パーティが行われたらしい。
「でも場所は変わるらしいから。今もそこで行われるか」
「行われてなくても、何か見つかるかもな。行ってみるよ」
「うん。ありがとう。いつもごめんね」
「任せとけって!」
ユウキはサムズアップをして、ニヤリと笑った。
これが彼なりの任せろというメッセージなのだ。
ユウキは楓と別れた後、地図の位置に向かった。
場所は街の中だ。高層ビルが立ち並ぶオフィス街。
若者よりスーツを着た人が多い場所だ。
「怪しさ万点の地下室って訳か」
地図に示されていた場所には、地下に降りる階段があった。
階段を下りた先に扉が見える。
普通の人間ならここで警戒して、立ち去るだろう。
現在ここでパーティが行われているという保証はない。
だが他に情報もない。ユウキはビルの周辺を観察した。
「真正面行っても、門前払いだろうな。騒ぎを起こしたくないし」
ユウキは地下に空気を送る、通気口を見つけた。
腹ばいになれば、人が通れそうな大きさだ。
ニヤリと笑いながら、超能力で換気ファンを止める。
通気口までよじ登り、ファンを潜って地下に向かう。
音を立てないように慎重に動きながら、様子を観察。
「見張りが居るってことは、営業中かもな」
ユウキは通気口の出口を探した。
こういう時ゲームなら、都合よく外れる場所があるのにと愚痴を吐く。
出口は倉庫に繋がっていた。まだ会場は見つけられていないが、一旦出る。
「中に入っちまえば、こっちのもんだぜ」
見張りも一々参加者の顔を覚えていないだろう。
ここまで来たら、騒がれる前に潰せば大丈夫だ。
ユウキは堂々と渡り廊下を歩いて、音を探った。
パーティと言うだけあって、大きな話し声が聞こえる。
ユウキは両手を広げなら、声の方向へ。
「防音性悪すぎ。近所迷惑で訴えられるよ」
ユウキは扉を開いて、会場の中へ入る。
そこは学生服を着た集団が、ジュースを飲んで談笑している。
下の学年はまだ授業中だが、サボってきたのかと呆れる。
まあ私服を学校に持って行く、自分が言えた義理じゃないが。
ユウキは自虐しながら、会場の中を進む。
「さあて、怪しさ百点満点の主催者はどこかな?」
ユウキが周囲を見渡していると。
ステージに上がる人物が見えた。
ドクロのヘルメットで顔を隠している怪しい人物だ。
「おっと。向こうから姿を出してくれたぜ」
怪しい人物はマイクに向かって口を開く。
「うぉっほん! 本日は我がパーティに集まってくれてお礼を言うぞ!」
「やっぱり、アイツが主催者なんだな」
ユウキは目立たない様、人込みに紛れた。
こういうのは真ん中より少し外れた位置が、目立ちにくい。
「ワシはDr.ネガリアン様! もう直ぐ歴史に名を刻む男じゃ!」
ユウキはその名前に聞き覚えがある気がした。
確かテレビでと思い出してから、ハッとする。
「本日のメインイベントじゃ! ワシの実験コーナーに付き合ってもらうぞ!」
パーティ会場の四隅に、ドローンが飛び始めた。
ドローンの下部には、なにやら怪しい装置が付いている。
「楽しい思い出と共に! そしてワシの世界征服の第一歩に乾杯じゃ!」
ユウキは超能力を使って、四隅のドローンを掴んだ。
そのまま圧力をかけて、ドローンを握りつぶす。
「な、なんじゃ!? なにが起きたんじゃ!?」
ユウキはローラスケートで滑りながら、舞台の上に上がった。
背中の鞘から剣を取り出して、ネガリアンに向ける。
「こんな地味な出し物つまらないね! もっとスリリングじゃなきゃ!」
「貴様、何者じゃ! 軍の人間か?」
「no no! 僕は冬木ユウキ。世間的に見れば、只の中学生さ」
ユウキは会場の方をチラリと見た。
こんな騒ぎがあっても、みんな普通に談笑を続けている。
やはり普通じゃない。ここに来る前に既に何かされているのだ。
「みんなになにした? 素直に吐いて解放すれば、時間を無駄にしなくて済むぜ」
「洗脳実験じゃよ! 脳を刺激して、思考力を奪う装置の開発中でな!」
「本当に素直に吐くとは思わなかったぜ……」
ユウキは目を細めて、両手を広げた。
「どうせ貴様は生きてここから帰れん! レンツ! プロトタイプβを出せ!」
『あ~、ただいま』
ネガリアンの無線から、声が聞こえてきた。
数秒後、天井から人型のロボットが振って来る。ネガリアンの上に。
「んぎゃあ! 踏んどる! 貴様、誰がワシの上に出せと言った!」
『主様がど真ん中に用意するものですから。マヌケとは思いましたが』
「良いからは退けんか! 結構重いのじゃぞ!」
βと呼ばれたロボットは、歩行しながらネガリアンから退いた。
「痛ぁ! 貴様、飛ばして退けんか!」
『バーニアを使えば、主様が燃えますが、宜しいでしょうか?』
「良くない……。良いからやってしまえ!」
βは右手がキャノン砲、左手がハサミの様になっている。
塗装はされていない銀色だ。
「へへ! 三秒でスクラップに変えてやるぜ!」