エピローグ 続戦
全てをやり遂げて、相良は体を引きずっていた。
腹部の出血を抑えながら。後戻りできない道を進む。
目指すべきはトゥリマルが眠っている、神殿だ。
もう自分の時間は短い。せめて、行動に意味があったのか知りたい。
だから……。もう一度、神のシミュレーションを行おうとした。
「あ……」
データを入力する装置が壊されている。
この世界に存在しない。弾痕が残されている。
アリスは銃を使わない。相良はメッセージを察した。
フッと笑いながら、外へ向かう。
封印されていた、トゥリマルの姿が見えない。
リセットを宣言した怪物が取り込んだと分かったが。世界はまだ動いてる。
「やっと、晴れてきたな」
雨が止み、雲が抜けた。太陽が静かに差し込む。
光を浴びながら、相良は壁にもたれかかった。
視界がぼやけて。今までの記憶が、脳裏を過る。
シソやジンと遊んでいた、子供の時。
アリスに散々しごかれた、特訓の日々。
そして、居候中に何度も見たヒーロー番組。
「悩まないヒーローなんていないか……」
相良はその意味を、ずっと考えていた。
芯があり、自分を曲げない存在の方が格好良いと思っていた。
でも画面の向こうのヒーローは、格好悪く悩み続ける。
でも悩み続ける姿に、相良は憧れていた。
ヒーローを軽蔑なんて出来なかった。
「今ならその意味……。分かる気がするよ……」
ぼやけた視界で、晴れた空を見上げる。
青い。どこまでも青い綺麗な空が広がっている。
相良は静かに笑いながら。瞳から止んだ雨が地面にこぼれる。
「蒼井相良……。凄い気にっていたよ、この名前」
名前を忘れた自分に、アリスが付けてくれた名前だ。
由来は聞いていなかったが、響きが気にっていた。
「今、この名前に意味があるとしたら。どんな意味なんだろうな……」
視界が完全に真っ暗になり。相良は力が抜けた。
足音が近づいて来る。でももう目を開くことが出来ない。
声を発する力も残されていない。
誰かが魔法を唱えた気配を感じた。
その瞬間、相良の体は温もりに包まれる。
でも意識は戻らない。彼の記憶は、そこで途切れていた。
***
ユウキ達は元の世界に、帰還していた。
自分達の責任は取った。後は、あの世界の住民に任せる。
三週間ぶり。でもこっちの世界では、二日しか経過していない。
異世界に向かったあの日と、変わらぬ青空を見上げる。
どこの世界でも変わらない。澄んだ空を。
「なあ、姉ちゃん。蒼井相良って名前。一体何を込めたんだ?」
同時に帰還したアリスに、ユウキは問いかけた。
アリスは目をつぶりながら。冷静に答える。
「特に、意味はない」
***
遠いか近いか定かでない未来。
トゥリマルの神殿の魔法陣が、砕け散った。
封印が解けて、彼は目を覚ます。
「俺は……。生きているのか?」
腹部の傷が消えている。痛みもない。
周囲を見渡すと、神殿は年月劣化を感じさせる。
状況が飲み込めない相良は、一歩前に出した。
すると何かを蹴り飛ばす。慌てて追いかけて拾う。
それは相良が使っていた、剣にそっくりな武器だ。
専用のチューニングがされてて。相良に最適化されている。
剣と一緒に手紙も添えられている。
ただ一言。『半人前昇進祝い』とだけ書かれた。
「ふっ……。直ぐに追いつきますよ」
相良は剣を腰に仕舞った。
今がどんな時代か分からない。外の様子は分からない。
自分がしたことで、世界がどうなったのか分からない。
それでも相良は恐れず、神殿から外に出る。
あの時と同じ、青い空が広がっている。
外では二人の人物が、分かっていたかのように待っていた。
「進むよ。不確定な未来をさ」




