第9話 ドロップ
想像の世界で。何もない空虚な空間で。
かつてと今の相良が、互いに剣でぶつかり合う。
どちらも同じ相良。でも違う価値の相良。
「なにを今更迷っている? 俺はとっくに答えを出した……!」
同じ武器を使っているのに。過去の相良の方が、力強い。
相良は剣を弾かれて怯み、背後によろける。
「どっちにしろ犠牲は出る。多いか少ないかの問題なんだ……」
連続攻撃が放たれる。相良は防戦一方だ。
――恐らくこの戦いで勝った方が、ベースとなる。
相良は剣を強く握り直した。
「種族として、長として。それが正しい判断だと俺も思うよ。でも」
相良は立て直して、即座に飛び掛かった。
剣を振ると見せかけて、相手の腹部を殴る。
剣だけでなく体も使え。師匠と思った、アリスのアドバイスだ。
「個人の感情はどうなんだ?」
体術で怯んだところを、剣で追撃を仕掛ける。
過去の相良に決して出来ない。
武器と体術を合わせて、軍人的戦い方で攻める。
「合理的な判断だけで。納得できるのか?」
「俺の個人的意見など、関係ない!」
追撃の一撃が、剣で弾かれた。
逆手に持ち替えられた剣が、相良の胴体に迫る。
「俺には立場がある。例え傷ついても。仲間が助かる道を示すしかない!」
「納得できない答えを。後悔せずに進み続けられないだろ!」
剣を握っていない腕で、相手の攻撃を防ぐ。
武器ではなく、自分の全てを使う戦い方。
色々学んだ異世界で、相良が最も学習した事だ。
「俺はヒーローを目指している! ヒーローは……。悩み続けて戦う!」
「英雄は時に選ばなければならない! 綺麗ごとで全てを救えないんだ!」
腕に剣が刺さり、敵を拘束状態にする。
武器に頼った戦い方は、武器を離す判断が出来ない。
だから散々アリスに剣を没収され、道場でボコボコにされたものだ。
「ヒーローは英雄って意味だけど。俺が目指すヒーローは、多分英雄じゃない」
相良は相手の腹部を蹴り飛ばした。
仰け反った自分に、素早く切りかかる。
相手も咄嗟にガードして、つばぜり合いに持ち込む。
「英雄は世界を救う正義だけど。ヒーロ―は弱者を守るため悪にもなる」
「だが世界を救えなければ。その弱者を守ることすら出来なくなる!」
お互いが力一杯剣を込めた結果。
二人共背後に吹き飛ばされた。
「なあ、これ。永遠に決着がつかないんじゃないか? 時間がないのにさ……」
相良は苦笑いを見せながら、自分に問いかけた。
「俺もそう思う」
相手は静かに上を見上げている。
「それは俺達がどちらも間違っていなくて。両方とも正解がないからだ」
「しょうがないよ。俺はバカだから。こんな難しい問題に、答えなんか出せない」
相良は剣を鞘に戻した。ゆっくりと相手に近づき。
そのまま拳を静かに、ぶつかり合う。
「でも結論なら出たじゃないか。たった一つの。今やりたいことが」
「ああ。この戦いこそが、俺達の結論だ」
拳をぶつけ合った相良が、互いに光り合う。
ゆっくりと体を近づけ合う。
「これならきっと。後悔はしないさ……」
体が真ん中で溶け合う。想像世界が割れていく。
過去と今の相良が消滅して、真ん中に新しい空が立つ。
彼はゆっくりと目を開けて、想像の世界から現実に戻る。
「答えは……。出たのか?」
洞窟で待ってくれたジンに、問いかけられる。
相良は何も答えない。ただ立ち上がって、剣を引き抜いた。
背中を見せたまま、洞窟の外へと歩いていく。
「ジン。彼女に伝えてくれないか? ダメだったら、後は頼むって」
「頼むって……。ダメだったらってなん……」
相良は顔だけ振り返り、表情を見せた。
それを見た途端、ジンは静かにうなずき言葉を飲み込んだ。
相良はサムズアップを見せながら、洞窟から出る。
大雨はまだ続いている。体を冷たい感触が走る。
前を見つめると、雲が途切れている。
恐らくこの大雨は、数時間後には止むのだろう。
「後悔はしない」
静かに右腕を見つめながら、相良は駆け出した。
一切振り返らずに、剣を強く握り。
前に進み続ける、"彼ら"の前に飛び出す。
「相良! どこに行っていたんだ?」
ダグマは目を丸くしながら。安堵したかのような口調だ。
相良は胸に手を置き、静かに呼吸をする。
「悩まないヒーローなんかいないか……。俺も少しは……!」
相良は駆け出して……。ダグマに向かって剣を振り下ろした。
咄嗟に防御する彼は、先ほどと違う意味で目を開いた。
「どういうつもりだ? 君は何をしているんだ!?」
相良は何も答えない。ただひたすら、和平に動く彼らの邪魔をする。
すぐ熱くなって、うるさくて、感情的な相良が。
冷たい雨の中、何も言わず、感情を感じさせない攻撃をする。
***
「それが……。君の結論って訳か……」
ずっと姿を見せず。見守っていた彼が呟いた。
フードで雨をしのぎながら、崖の上から見届ける。
和平派を攻撃した相良を見て、フッと笑みをこぼす。
「頑張れよ、友よ。僕は"答え"が決まったよ」
フードを外して、ヘッドホンを耳につける。
剣を抜刀して、静かに崖から立ち去った。
顛末は見届けない。でもやるべきことはする。
冬木ユウキは始まりの場所。トゥウリマルの神殿に向かった。
相良とシソの結界が弱まり。トゥリマルは解放されている。
ワールドイーターは静かに眠る少年から、力を奪い取った後だ。
「なぜこの場所に現れた? 直ぐに立ち去れと告げたはずだが」
ワールドイーターは既に、リセットの準備をしている。
五柱神の力を集結し、全ての争いを止めるために。
ユウキは何も答えず、表情も変えず。銃弾を放つ。
「どういうつもりだ!?」
想定外の出来事に、ワールドイーターは声を荒げた。
銃弾を光弾で全てはたき落とすが。
その隙にユウキが近づく。剣で突きさしながら、神殿の外へ吹き飛ばす。
大雨がまだ続く中。ワールドイーターーは戦闘態勢に入った。
周囲を揺れさせながら、この場所にだけ雷を落とす。
「君はなにをしているのか、分かっているのか?」
大地からマグマを噴出させて、迎撃するワールドイーター。
ユウキは無言のまま、マグマに突っ込む。
「リセットをしなければ、世界が滅ぶのだぞ!」
マグマを飛び出したユウキが、斬撃を加える。
神器と融合した完全生命体の肉体なのに。
彼の斬撃で深く傷つく。
「これは滅びに抗う、世界の選択だ!」
落雷を放つワールドイーター。
ユウキは剣を空に向けて、落雷を刃に引き寄せた。
雷を纏った剣で、即座にワールドイーターを突き刺す。
「君は一度、傍観を決めたではないか!」
雷を叩きこまれて、ワールドイーターは痺れる。
即座に銃口を体につけて、連続で弾丸を放つ。
「君はこの世界を、滅ぼしたいのか!?」
ワールドイーターは神器の腕を振った。
ひたすらユウキの頭を叩きつけるが、剣を握る手が弱まらない。
「わりぃな」
銃弾を叩きこみ終えたところで、ユウキは剣を抜いた。
即座に柄を逆手で握る。
「音楽聞いてて、何言ってんのか聞こえねえや」
体を回転させながら、ワールドイーターとすれ違う。
回転の勢いで体を切り裂く。
ワールドイーターは静かに、振り返りながらユウキを見た。
「唯一の救いを奪うとは……。バカな奴だ……」
「言うほど賢くないんでね」
ユウキは振り返らず、背後のワールドイーターに銃を向け。
躊躇いなく引き金を引いた。
「Check……。Mate」
銃弾がコアを貫通したワールドイーターは。
ユウキの背後で爆散する。
爆風でコートを揺らしながら、ユウキは静かに歩く。
吸収された五柱神の力が、解放される。
ノウシスやイスカルブーも、目を覚ましただろう。
彼は顛末を何も見届けず、 静かに頭からヘッドホンを捨てる。
「ちっ……。次は防水の奴、買わねえとな」
雨が止んだ。少し先に、青空が見え始める。
切れた雲から、太陽の光が差し込む。
「青い空か……」
ユウキは神殿に戻って、最後の仕事を行う。
室内に銃声が響いた後。彼は神殿を後にした。




