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ユウキサーガ ~ 悪を撃ち抜くCheckmate!~  作者: クレキュリオ
Episode4 風の騎士編

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第7話 滅びのシミュレーション

「やはり……。ダメだったよ」


 一人の青年がベッドから起き上がり、そうつぶやいた。

 フードを被り、仮面で素顔を隠した青年。

 腰に三日月状の剣を掲げて、神殿のベッドの上で起き上がる


「今回のデータでも。結果は変わらない……」

「ソラ……。少しは休んで。一日中シミュレーションしているわ」


 心配そうな表情で、幼馴染の少女が汗を拭ってくれる。

 ソラは水を飲んで、一服する。


「障壁が弱まっている。その時が近いのかもしれない」

「でもトゥリマル様は、後二年は持つって」

「その二年で、答えが見つかる保証はない。悠長にしていてはな」


 ソラは神の力である、未来のシミュレーションを行っていた。

 本能の神、トゥリマルから授かった使命を果たすために。

 神は答えを見つけられなった。だからその世界の生命に、託して眠りについた。


「過激派も勢力を増し過ぎている。下手に拡大すると、平和そのものが遠ざかる」

「元々和平を結ばせない、時間稼ぎの組織だったのにね……」

「情けないながら、俺の管理が届かなくなってきている」


 過激派のリーダーだったソラは、和平の妨害を行っていた。

 攻め込むつもりはないのだが、和平を結ぶことも出来ない。

 反対勢力を引き受けるうちに、組織が巨大化し過ぎてしまった。


 それでも日に日に、和平派の勢力は増してきている。

 みんな争いにうんざりしている。

 それでもソラ達は争いを、やめられない。


『他種族との共存は不可能だ。それが私の出した結論だよ』


 かつて恩師と言えるべき存在が居た。

 彼は暗黒界の管理者であり。邪神の汚名を着た存在。

 来るべき時に備えて、ソラ達に何度も警告を促した。


『和平が結ばれれば、一時的な平和は訪れる。でもそれは直ぐに崩れるだろう』


 情報を入力して、未来を見ることが出来る。

 それは世界の管理者である、神の特権だった。

 彼は何度も情報を入れ直して、平和な未来を導こうとした。


『皆、いずれ優劣をつけたがる。種族が違う者を見下すようになる』

『実際、暗黒界だけでも。ダッティに暗黒騎士が。騎士にゴブリンが。悪魔に全てが見下されていますものね』


 ソラは自分の種族を良く知っている。

 彼は人間に近い体をした、悪魔の種族だった。

 知能も能力も強さも、悪魔は他の生物より高度だ。


 それ故驕りしやすく、自分達が支配者を気取っている。

 数は少ないが、傲慢さで絶滅しない理由の一つだ。


『いずれ不満を持つ者が増え。集まり。泥沼の争いが起きるだろう……』


 この時ソラは、初めてシミュレーションを体験した。

 現実と錯覚するほどのリアルさ。空気が汚く。

 廃墟だらけで、屍が倒れている。


 そんな状況でも、戦いは続いている。

 やがて一つの種族が勝ち残るが。

 繁栄する力を失い、自然に滅び去る。


『別の価値観や文化を認めるの難しい。和平を結んだ瞬間、その未来は確定する』

『ですが暗黒界ではここまでの、種族間対立は……』

『それは暗黒界は土地が平等だからだ。どこに住もうが、不平等はない』


 実際暗黒界はどこも同じ環境だ。

 種族間もあまり交流せず、小さな集落でみんなが平和を守っている。

 王都や騎士団もあるが、それは大規模な争いに備えた組織のためのものだ。


『人界は違う。寒い所もあれば、暑い所もある。自然豊かであれば、雪が積もり続ける土地もある』


 トゥリマルは環境の違いをめぐって、争いが過激化すると予測していた。

 実際今のデータでは、和平を結べば確実に世界が滅びる。


『ソラ、シソ、ジン。私はもう疲れたんだ。考える事にね……』


 トゥリマルは障壁を作る前から、思考を続けていた。

 他の神々はあくまで、見守ることを選んでいる。

 彼だけは、その世界に住む生命を愛し過ぎてしまったのだ。


『だから私も、見守ることに専念する……。どうか君達が、未来を作ってくれ……!』


 トゥリマルは神殿で、深い眠りについた。

 世界を救うため、余りにも長い時間、神の力を使い過ぎた。

 シミュレーションの力をソラ達に託して……。


「やはり不可能だ……。生き残るには、争いを起こして勝たなければ……!」

「ソラ! それじゃあ、トゥリマル様が私達に……」

「分かってる!」


 ソラは机を叩いた。大きな音に気づいて、目を開ける。

 既に何百を超えるシミュレーションを行っている。

 細部を変えたり、大胆に変えても結果だけが変わらない。


「分かっているんだ……! でもこのままじゃ、全てが滅びる……」


 拳を握り、言葉にならない音を喉から出す。

 シソがそっと、ハンカチで額の汗を拭く。


「種族間の共存は不可能かもしれない。だったいっそ。この力を俺達が生き残るために使えば……!」

「それはダメ! トゥリマル様を裏切ることになるわ! 私達を育ててくれたあの方を!」

「なら方法を教えてくれよ! 直ぐにでもさ!」


 ソラはシソに掴みかかった。直ぐにハッとなり。

 彼女から手を離す。そのまま背を向ける。


「ごめん……。ちょっと疲れちゃったかな。一旦部屋に戻るよ……」

「うん。おやすみ」


 ソラは自室に戻り、扉を閉めた。

 ベッドに座りながら、深呼吸をする。


「無理なんだよ……。俺は見ちまったんだ」


 相良は密かに、一つの情報を入力していた。

 人界側と争い、自分達が勝利した場合のシミュレーション。

 人間が滅んだ代わりに、豊かに繁栄した未来が作られていた。


 その光景を見てしまったソラは、思ってしまった。

 なぜ会ったの事もない人間と共存するために。

 自分達だけが、苦悩を続けなければならないのかと。


「道は一つしかない……! 人界を侵略するしか……!」

「やはり。君達では不可能だったようだな」


 不意に声がして、ソラはベッドから落ちる。

 目の前に見たことのない、白い怪物が立っていた。


 この部屋には窓がない。鍵も閉まっていた。

 ソラに気づかれず、侵入することなど不可能なはずだ。


「誰だ?」

「私は上位者。世界の情報を食らう者。ワールドイーターなどと呼ばれている」

「世界の情報を食らう者……?」


 ソラは目の前の存在から、敵意を感じなかった。

 ゆっくり立ち上がり、腰を低くしたまま向き合う。


「宇宙を駆けて、星々の神が作り出した世界を審査する。五柱神は私の管轄だ」

「神様より、偉いってことか?」

「適切ではないが近い。世界が繁栄するか監視。滅びに向かえばリセットを行う」


 上位者はソラ達に、言葉を合わせているのだろう。

 敢えてこの世界で通じる言葉で、話してくれているようだ。


「この世界をリセットする。それが私の出した結論であり。救済だ」

「リセットって……。今いる生命はどうなるのですか?」

「知的生命は全て、一つの生命に統一される。最も高度な発達をした悪魔に」


 じれったく感じてソラは思わず前に出た。

 一歩踏み込んだところで、ワールドイーターが手で制止する。


「君達は全て、悪魔に再構成される。それ以外の種族として生きた記憶は消えるが。原則人格はそのままだ」

「それじゃあ、滅びを回避できるんですか?」


 ソラは瞳を大きく見せて、ハイライトを強めた。

 伸ばしそうになった手を、咄嗟に引っ込める。


「出来る。これは救いだと言ったはずだ。種族間の対立そのものがなくなる」

「今まで、なぜ干渉してくれなかったのですか?」

「トゥリマルは君達に後を託した。ならば諦めるまで待つのが、道理だ」


 その言葉を聞いて、ソラは息を飲み込んだ。

 人界に勝利して、繁栄した未来もその先に不安が残る。

 怖くて見られなかったが、きっと滅びそのものは回避できないだろう。


「リセットには、神の力が必要だ。私はこれから、五柱神の力を取り込む」

「で、でもトゥリマル様は……!」

「君達がその代わりとなる。トゥリマルに託された、君達が」


 ワールドイーターは、ソラの頭に手を乗せた。

 ソラが黒く発光し、光が腕に吸い込まれていく。


「力を吸い取っているだけだ。君には過ぎた力だ」

「本当に……。これで救われるのですか?」

「異なる文化があるから争いが起きる。他の星でも起きた事だ」


 ソラは過呼吸になっていた。痛みは感じない。

 あくまでシミュレーションの力を奪われているだけだ。

 なのに鼓動が激しくなり、体が震えている。


「む? なんだ?」


 ワールドイーターが、別の方向を振り向いた。

 その先には赤い渦が出現している。


「憑依対象に異界の怪物を選んだミスか? いや、これは……」

「あ、あああ! うわあああ!」


 ソラはその場で剣を落として、渦に吸い込まれていく。

 近い場所に居たワールドイーターは、その場から動かない。


「くっ……。掴まれ!」


 ワールドイーターはソラに手を伸ばす。

 間に合わず、ソラは渦に吸い込まれた。

 ワールドイーターも追って、渦の中に飲み込まれる。


「君の中の悩みが。この肉体の能力を発動させてしまったのか……」


 ワールドイーターの体が、徐々に遠ざかっていく。

 渦の向こう側。真っ赤な通路をソラは通り抜ける。

 光が見えて、その先に飲み込まれた後。


 ソラは青空の上に、飛び出していた。

 周囲を見渡しながら、両手が広がる。


「なんだここは……? 俺は一体……?」


 ソラは落下する衝撃で、気を失った。

 正直高さを見た時、助からないと思った。

 彼は少しホッとしたような、表情を浮かべていた。


「アリス! 空から男の子が!」

「なんだってぇ!? それは本当ですか!?」

「なにそのテンション……? アリスはそんなキャラじゃないでしょ……」


 心から硬い石が外れた気分になる。

 重荷が外れたかの様な、解放された気持ちになる。

 少年はゆっくりと、空から落下する。


「ウェエイ!」


 強い衝撃を受けて、少年は横方向へ移動した。

 そのままビルの屋上へ吹っ飛び、フェンスに叩きつけられる。


「な、なんですか!? いきなり!?」

「助けてやりました。文句言うな」

「いや、文句は言ってませんけど……」


 目の前の少女は、手を差し伸べてくれた。

 少年は手を握りしめて、ゆっくり立ち上がる。


「私は冬木アリス。軍の者よ。お前の名前は?」

「俺ですか? 俺は……」


 名乗ろうとしたものの、言葉が頭に浮かんでこない。

 自分の名前が思い出せない。

 なぜ空から落ちてきたのかも、思い出せない。


「ええっと……。分かりません……」

「まあ、空から落ちる奴に。常識など求めてませんが」

「えぇ……。それは酷くないっすか?」


 アリスは時間を開けずに、次の言葉を放つ。


「名前がないと不便ですね。では蒼井相良で」

「青い空から落ちたからですか? ちょっと安直過ぎません?」

「名前など、分かれば良いのです」

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