第5話 ヒーロー
「いやぁ! 格好良いっすね! ヒーローって!」
アリスに拾われた直後。相良は冬木家に居候していた。
ユウキと一緒に、ヒーロー番組を見ながら。
おもちゃを片手に、よく遊んでいた。
「俺もなりたいなぁ~。ヒーローに。海の巨人に」
「へへ! まだお前には、早いな」
ユウキは悪戯笑みをしながら、おもちゃを持ってくる。
どれもヒーローが使っていたアイテムだ。
「相良は直ぐに結論出すからな。まだヒーロ―になれないさ」
「ええ!? 単細胞だとヒーローに、慣れないんすか!?」
「そこまで言ってねぇよ! 自分で単細胞って言うのかよ!」
まるで兄弟のようなやり取りをする二人。
相良にとってユウキは、色々教えてくれる優しい先輩だった。
戦い方は教えてくれなかったが。大事な事を教わり続けた。
「ほら。みんな悩んでいるだろ? 結論を出すまでにドラマがあるだろ?」
ユウキはヒーローものが大好きだった。
その影響で相良もヒーローに憧れるようになった。
ユウキはヒーローを語る時、いつも楽しそうにする。
「あれが良いんだよ。悩まないヒーローなんて居ないからな」
「でも、主人公に芯があって。悩まない方が格好良さそうですけどね」
「お前にも分かる時が来るよ。ヒーローが、なんで戦っているのかがね」
***
相良は柔らかい布の上で、目が覚めた。
医務室で意識を失って、夢を見ていたようだ。
目が覚めて起き上がる相良を、ダグマが心配そうに見つめていた。
「ダグマさん……。作戦はどうなりました?」
「失敗したよ。いや、失敗していたという方が正しいかな?」
「そう、ですか……」
和平派の作戦は、既にジンにバレていた。
裏を突かれて、誰も知らない秘密通路を利用された。
暗殺がバレて、対談中の過激派を拘束されたそうだ。
「君が居なければ、私は殺されていた。そのお礼が言いたくてね」
頭を下げたダグマ。相良は戸惑いながら、頭を抑えた。
気絶する前に、声が聞こえた。
彼を批判するような声。自分自身が放った声だ。
「作戦を立て直す必要がある。暫くはここにとどまるよ」
医務室があるのは、遺跡の近くにある拠点だ。
遺跡は過激派のものだったらしいが。
今回の件で、彼らは撤退したらしい。
「よく頑張ってくれた。今は休んでくれ」
「あ、ダグマさん……」
相良は頭を押さえながら、起き上がった。
怪我をしていない。ジンが手加減してくれたからだろう。
気絶したのは、また別の理由だ。
「過激派って、本当に悪い連中なんでしょうか?」
「どういう意味だね?」
相良の問いかけに、ダグマは首をかしげる。
相良もなぜそんなことを聞いたのか、自分でも分からない。
目を開きながらも、喉を閉めて言葉を出す。
「ジンは、そんな悪い奴には見えませんでした」
資料で見た限りだと、相当な悪人だった。
だが実際に話してみると、彼は残虐なだけの性格ではない。
相良が記憶喪失だと分かると、気遣う姿勢を見せた。
彼がなぜ自分を知っていたのか、覚えていないが。
対面した時、胸の中で何かがうごめく気がした。
「彼は事情があって。和平を邪魔している気がしました」
相良の言葉を聞いて、ダグマは眉間にしわが寄る。
明らかに良く思われていないが、相良は続ける。
「彼は本当に、冷酷な悪人なんですか? もしかしたら……」
「事情なんて、奴にはないよ」
冷静で、少し突き放すような言い方をされる。
初めて聞く声色に、相良は肩が跳ねる。
「奴はただ、暴れたいだけだ。戦争を初めて、殺しの優越に浸りたいだけだ」
「そう思うのは、早計ですよ」
「平和を拒む者を理解する必要はない。彼らは他者の不幸を喜んでいる」
その物言いに、相良は黙り込んだ。
何かが胸に引っかかり、彼との会話が空しくなる。
「争う事に意味などない。それを進める奴は、いかなる者も悪だ」
ダグマは相良に、背中を見せた。
彼の後ろ姿は、初めて見た時と印象が変わって見えた。
「民のため。平和を守ることこそ正義だ。それを破る者には、容赦しない」
ダグマはそのまま、医務室から出ていく。
相良は口を開くことが出来なかった。
本当なら、過激派の第二陣の事を、伝えるべきだったのだろうが。
その情報を伝える気分になれない。
相良も医務室から出て、外の空気を吸う。
既に夜になっている。星空が広がり、寒い風が身を貫く。
「ダグマさん。決めつけた様な言い方だったな……」
言葉に憎しみや恨みは感じなかった。
どちらかと言えば、怒りだろう。
理解できない者へぶつける感情だ。
「まあ、俺も人の事言えなんだけど……」
独り言をつぶやいて、壁にもたれかかると。
一人の衛兵が、隣にやってきた。
相良の言葉を聞いて、首を傾げている。
「あぁ……。なんでもないっす。ただのぼやきと言うか……」
「何でもない割に、悩んだ顔だよ」
「あ……。君は……」
兜越しで顔は見えない。声も聞きづらい。
それでも、聞いたことのあるものだ。
「俺にこいつを渡してくれたのは、君だったんだな」
相良は腰に下げた、剣を握る。
ダッティ―との戦いで、声と同時に剣が投げられた。
少女の様な声で、何故か自分の名前を知っていた。
少しイントネーションが違ったが。
それはジンと同じような、言い方だった。
「それは、貴方が持っているべきものだから」
「君は俺の知り合いなんだな。記憶を失う前の……」
衛兵は記憶を失ったというフレーズに、反応しない。
その意味に気づいたが、なにも問う事は出来ない。
「ダグマに何か言われたの? 随分悩んだ表情だったけど」
「いや、大したことじゃないんだ。ちょっと、考え方に違いが見えたというか……」
ダグマとの会話で、相良が抱いた感情を必死に探る。
平和を願うのは同じだし、争いは嫌だ。
共感していたはずなのに。少しだけズレを見た気がする。
「俺はさ。ヒーローに憧れているんだ。みんなを守る、強く優しい存在に」
「ヒーロー……?」
衛兵が首をかしげる。この世界には存在しない概念だ。
相良もユウキのおかげで、初めて知ることが出来た。
だから記憶を失う前に、知らなかったのだろう。
「俺の先輩が教えてくれたんだ。悩まないヒーローなんていないって」
「それが、どうしたの?」
「俺、単細胞だからさ。過激派は悪だって、思っていたんだ」
俯きながら、自嘲する相良。
「でもジンと話して。それが間違っている気がしたんだ」
会話するまで、資料の情報を鵜呑みしていた。
だから彼が悪人だと、疑う事はなかった。
でも会話をして、資料とは違う人物像だと理解した。
「ダグマさんは彼らを、悪人だと決めつけている。悩まずにね」
「ソラ……」
「だから、彼の掲げる正義って奴が。嘘っぽく見えちゃったんだよ」
彼の平和を望む心を見たから、和平派に力を貸した。
でもそれは正しいことだったのか。
相良は迷いが生じ始めている。
「まあ、先輩は正義なんて言う奴は、みんな外道だって言ってたけどね」
「ず、随分と極端な思考な人なんだね……」
「ハハ。仲良くなるのも時間がかかったよ。でもユウキ先輩には、色々教えてもらった」
ユウキもこの世界に来ていたと、思い出す。
彼は今、相良の事を見守っているのだろうか?
それともまだ怪物を追いかけて、あちこち飛び回っているのか。
「俺はダグマさんほど割り切れないよ。彼らに事情があるなら、それを考慮したい」
相良は拳を握りしめて、歯を食いしばる。
言葉にしたことで、ダグマに感じた違和感を理解する。
彼の理想と自分の目標が違う。
「そっか。それで今のソラの答えなんだね」
衛兵は、少女は壁から腰を離した。
兜を脱いで、薄ピンクの長い髪の毛を見せる。
「ここはもう直ぐ、戦場になる。ソラはここを離れた方が良い」
「やっぱり君は……。っ!」
少女の顔を見た瞬間、相良は頭痛に襲われる。
感情の波が、心をに襲い掛かって来る。
記憶でなく心が、彼女を思い出そうとしている。
「ソラ? 大丈夫?」
「ダメだ……。シソ……! こんなのは、君のやり方じゃない……!」
「っ!? 思い出してくれたの!?」
掠れるような声を、相良は捻り出す。
心が必死で訴える。彼女を止めなければならないと。
「このやり方じゃ、上手くいかない……! きっとワールドイーターが……!」
「ワールドイーター? なにそれ? なにを言ってるの?」
シソと出てて来た少女が、相良の肩を掴む。
それと同時に、遺跡から炎が上がった。
「仲間が始めたようね……。私は行かないと……」
シソは名残惜しそうにしながら、相良から離れようとする。
「なにか思い出したなら。後で聞かせて。今はダグマを……」
「それは、出来そうにない……!」
相良はシソに飛びついた。彼女を押し倒した途端。
二人の立っている場所に、光弾が飛んできた。
壁に着弾すると、一瞬で崩れ去る。
「なっ! 私のことは、バレていたの?」
「違う。これは和平派の攻撃じゃない。断片的にだけど、思い出せたよ」
相良は攻撃が飛んできた方向を、睨みつけた。
ゆっくりと、地面に着地する怪物の姿が現れる。
「お前だったのか。アリス師匠が追っていた、怪物の正体は」
「ほう。やっと思い出してくれたのか? トゥリマルの代弁者。いや、蒼井相良」
神器と融合した腕を、相良に突きつける。
「俺をこの世界に戻したのも、お前だな? ワールドイーター」
「その通りだ。君もリセットの対象だ。異世界で生き残ることは、許されない」
戸惑っているシソを、庇うように相良は立ち上がる。
剣を構えて、ワールドイーターと向き合う。
「君は一度、我らを受け入れた。その代償に、記憶を失わせてしまったがな」
「あの時は、それが最適だと思ったんだ。でももう少しだけ、待って欲しい」
「ダメだ。君のデータを入れても、結果は変わらなかった。世界は滅びる」
相良は目線を、シソに送った。
「上位者らしい。五柱神より更に上の神だってさ」
「そんな存在が、なぜ私達を攻撃したの?」
「俺と君に託された力だ。トゥリマル様のね」
相良の言葉を聞いて、ワールドイーターは『ふむ』と呟く。
「君はまだ、完全に記憶を取り戻せていないようだな」
「ああ。失う直前の記憶だけ、取り戻せた」
直前の記憶で、ワールドイーターになにかされたのは覚えている。
それが記憶喪失の原因なのかまでは分からない。
「悪いがこれは世界のルールなんだ。君達をリセットする」




