第2話 蒼井相良
「ウェ! そんなことになっていたんですか!?」
アリスに状況を説明された相良は、オーバー両手を上げる。
アリスがこちらに着て、一カ月以上は経過してる。
その情報を要約して、全て伝えた。
「でも、アリス師匠と俺が最後に会ったの、二週間前っすよ?」
「世界によって、時間の流れが違います。ここで一年経っても、向こうでは一時間とかありますよ」
「ふぇ~。勉強になります!」
相良は両腕でガッツポーズをした。
律儀にメモ帳を取り出して、書きこんでいる。
彼は決してバカではない。寧ろ覚えては良い方だ。
「それで。お前はフードの人物に連れて来られた以外、何の情報もないのですか?」
「ないです! すんません!」
「何の役にも立たないですが。そこまで堂々と言われると、何も言えませんね」
弟子と認めていないが、素直さと才能は認める。
余りにも素直だからか、つい色々教えてしまう。
「それにしても困りましたね。傷は癒えましたが、トビーは体力が消耗しています」
ダメージを受けた消耗は激しい。
治癒魔法は傷は癒せても、体力は回復できない。
結構な距離を飛んでので、歩いて人里まで戻るのは難しい。
野宿する道具も持っていない。
地形も分からない土地で、無暗に動き回るのは危険だ。
「ああ。それなら。ここから歩いて、一時間ほどの場所に、街があったはずですよ」
相良は方角を指した。何の迷いもない動きだ。
彼は嘘を吐けない性格だ。適当なことは言えない。
「お前、街からわざわざ、荒野まで歩いたのですか?」
「いやいや! 流石の俺も、街で情報を集めますって!」
「ふむ……」
少し会話に違和感を抱きながらも、アリスは飛竜を背負う。
街があるなら、怪物の情報も交換できそうだ。
「でも俺達みたいなのが珍しいから。ローブか何かで、顔を隠した方が良いかもですよ」
「フードで顔を隠すのは、怪しくないのですか?」
「ええ! 結構一杯いますから! あ! 俺が背負いますよ!」
アリスは飛竜は気難しいから、断ろうとした。
相良は慣れた手つきで、アリスより丁寧に飛竜を背負う。
アリスよりも手慣れている。まるで体が覚えているかのように。
「それにしても、師匠も空から降って来るんですね!」
「まあ、お前の様に、記憶を失うポカはしませんでしたが」
「それ、俺がクッションになったからじゃないっすか?」
冗談で誤魔化しているが。相良の記憶喪失は、衝撃が原因ではない。
医者の話によれば、精神的な事が理由だ。
無意識に記憶が、特定の情報に蓋をしているらしい。
「いや~、師匠にはこんないい名前つけてもらっちゃって! 世話までされちゃいましたね!」
「青い空から振ってきたから、蒼井相良です。適当ですよ?」
「それでも気にってますよ! この名前!」
純粋な回答が続く相良は、迷いなく歩いている。
まるでこの道を、知っているかのような足取りだ。
方角だけでなく、歩きやすい道も知っている。
「ローブはどこで調達しましょうか……」
その問題も相良が解決してくれた。
彼は謎の人物から、ローブを受け取っていたらしい。
その人物はどこかえへ消えたそうだが。アリスが来た方角だったらしい。
一時間ほど頑張って歩き。アリス達は街に到着した。
街と言っても、王都ほど栄えてるわけではない。
いくつかの露店と、小さな建物が揃っているだけだ。
「人界と比べると、随分と……」
街の発展が小規模だと思った。
人界は村タイプの集落でも、もっと大きさがある。
今いる街は、既には反対側の出口が見えている程度の広さだ。
「人界に比べると、資源が少ないんすよ。だから集落は、洞窟とか天然物が多いです」
道の端っこを歩く相良。
恐らく衛兵と思われ士ものが、真ん中を歩いているからだろう。
これがこの世界の、ルールなのかもしれない。
「そのせいで、奪い合いが絶えない。土地は多筋ですけどね」
相良は違和感なく、この世界の知識を話す。
無意識に知識が飛び出しているのだろう。
医者からもう一つ、重要な事を言われている。
無理に刺激すれば、脳に負担をかけるかもしれない。
聞きたい事はあるが、アリスはグッと堪えた。
「で、師匠。まずはどうするんですか?」
「そうですね。まずは半人前にも満たない、ひよっこの師匠発言を訂正しようかと」
「ひよっこ!? 俺達結構、長い付き合いっすよね?」
確かに相良とは半年近く、交流している。
でもアリスは一度も、彼を実戦に連れて行かなった。
即死するだろうと考えていたからだ。
「聞き込みですか? 足を使う事なら、任せてください!」
「いきなり現れた、謎の人物に。答えてくれる人がいますか?」
「……。いませんね」
こういう場に来た時、アリスはまず通貨の様な交換物を調べる。
文化を調べていけば、その場所での自然な振る舞いが分かる。
場所に溶け込めば、警戒心だって消えるものだ。
「余計な接触はしないように。お前はあくまで部外者ですから」
「えぇ……。それ言ったら師匠だって部外者ですよぉ……」
相良が文句を口にしていると。
街のどこからか、崩れる様な音が聞こえた。
振り向くと、建物が崩れている。
衛兵と思わしき者が数名、倒れている。
事故ではない。戦闘が起きた時のダメージを負っている。
一瞬、負っていた怪物が暴れているのかとアリスは身構える。
「ちんけな奴らめ! 和平など、腑抜けたことを言っているからだ!」
崩れた建物から出てきたのは、三メートルほどの人型の生物だ。
騎士だった頃、本で読んだことがある。
暗黒界の住民だ。会話から察するに、身内同士での争いと言うことになる。
アリスは柄に添えた剣を、下した。
相良の肩を叩き、耳に顔を近づける。
「離れますよ。目立つのは避けたい」
「え? で、でも……」
「異世界の争いに加担しない方が良い。異なる価値観を、自分達の価値観で歪めないために」
それは異世界に関わる、マナーの様なものだが。
相良は納得がいっていない表情をしていた。
暴れまわる大型の住民。種族名は『ダッティ』だ。
会話から察するに、ダッティ側は好戦的思想なのだろう。
街の人々は逃げ回り、衛兵が対処している。
「本部に応援を要請だ!」
「間に合うのか!?」
「何とか持たせる! 出来るだけ早めに頼む!」
街の衛兵は不利を感じたのか、一人が報告へ向かった。
たった一人に、街中の衛兵が歯が立たない。
そこまで大きな戦力差がない、人間とは違う。
種族によって、戦力差がある世界なのだろう。
それが当たり前だから、兵士の判断が早い。
「アリス師匠……。俺……」
「耐えなさい。これはこの世界の住民が、解決すべき問題です」
相良は暴れるダッティを見つめて、動かない。
彼の性格を熟知しているアリスは、溜息を吐く。
今度はそっと、彼の肩に手を置いた。
「っと言って、聞くお前ではありませんね。十分に注意しなさい」
「押忍!」
「推すじゃなくて、サムズアップでラジャー!」
ハッとしながら相良はサムズアップをした。
「ラジャー! これ、何の意味があんすかね?」
相良はローブで身を包んだまま、戦闘地域に走る。
剣を抜刀して、戦っている衛兵とダッティを見比べる。
衛兵は街の被害を抑えながら戦い。ダッティは被害を広げるように暴れる。
「どう見ても……。こっちが敵だよな!」
相良はダッティへ走り、ドロップキックを食らわせた。
乱入者に呆気にとられたのか、ダッティは蹴り飛ばされる。
衛兵達が味方かどうか、判断に迷った素振りを見せる。
アリスは近くに身を隠して、戦いを観察した。
相良は誰もが持っている異能力を、何故か使う事が出来ない。
これも精神的問題かと思ったが。アリスは別の可能性を既に考えていた。
「うおおりやぁ!」
相良は猪突猛進が似合う走り方で、ダッティに突っ込む。
アリスは思わず、舌打ちをする。
「ああ……。もう!」
既に立て直していたダッティが、相良の攻撃を容易く跳ね返す。
パワーが違い過ぎて、相良は壁に叩きつけられた。
「ブホォ!」
背中を強打して、相良は壁にねじれ込む。
衛兵の一人が相良に近づき、手を伸ばして引き抜いた。
「君が誰か後で聞く。味方なんだよな?」
「お、押忍!」
「その言葉の意味は分からないが……。頷いたのは分かった」
衛兵と隣に立ち、相良はダッティと向かい合った。
五人掛かりで挑んでも、ダッティに歯が立たない。
衛兵の動きは悪くない。戦い自体には慣れている。
だがダッティ側は、熟練者の動きだ。
その上、基本的なスペックも上だ。
「倒せなくて良い。本隊が到着するまで、被害を最小限に抑えてくれ!」
「あの巨体を相手に、時間稼ぎか! 了解っス!」
相良は気合を入れ直して、再び走り出した。
今度は無策ではない。わざと目立つ動きをしている。
「なるほど……」
アリスは相良の柔軟さに、感心した。
相良の反対側から、衛兵が走っている。
言葉を交わした様子はないが、お互い察し合ったらしい。
確かにコンビネーションで攻撃するのは、有効だろう。
だが、ダッティは知能が低い種族と言う訳ではない。
残念ながら、二人の行動は既に読まれているだろう。
「徒党を組んでもその程度か? オラぁ!」
ダッティは巨体を活かして、足踏みをした。
僅かに振動した地面により、二人は体勢を崩す。
飛べば回避できた技だが、相良はまだ経験が浅い。
怯んだ相良へ、ダッティが容赦ない一撃を加えた。
致命傷は避けられたが、体に直撃だ。
彼は再び、壁に叩きつけられた。
「グハァ! 強ぇ!」
アリスは諦めて、相良を回収しようとした。
相良が使っている武器は、軍の支給品であるロングソード系。
元々相良は、ロングソード系の武器に不慣れだ。
記憶を失う前に、武器を使っていたか。
明らかに体が上手く扱えないようになっている。
「ソラ!」
アリスが動き出そうとした時。その呼び声が聞こえた。
その直後、相良の目の前に何かが突き刺さる。
三日月状のカッタータイプの剣だ。
「これは……」
相良は咄嗟に、その剣を拾い上げた。
その直後、彼は苦悩の表情と共に頭を抑える。
「なんだろう? 妙に馴染む……。これなら、戦えそうな気がする!」




