第1話 新たな火種
教皇アルリズの死は、表に向きには発表されて居ない。
ノウシスが教皇代理として、教団の立て直しを行っている。
彼女の正体を知っている者は、騎士団でも幹部クラスのみだ。
当然、突然現れた少女が代理などと、反発する声もあがる。
そこは事情を知った幹部が、説得をしたそうだ。
障壁が壊れかけている。向こう側の偵察が、こちらに紛れ込んだという報告もある。
一刻も早く、騎士団の立て直しが必要だ。
その手伝いの為に、ユウキも残ったのだが。
「ったく……。こんなに長々と話すことあるのかねぇ」
ユウキはヘッドホンで音楽を聞いている。
ノウシスが騎士団を集めて、なにやら訴えているが。
護衛からも外され、ただ黙って見ていろとだけ言われた。
一応騎士団見習いと言う立場になっている。
以前の事件で敵対したが、顔を覚えている兵士が少ない。
なにより塔が爆発する一件で全員を救った事から、文句は言われていない。
「痛て……」
頭を軽く叩かれる。
隣に座る少女を見て、ユウキはヘッドホンを外す。
「なにサボってんの?」
姉であるアリスに、剣の鞘で殴られたみたいだ。
彼女は意外にも、真面目に騎士として働いている。
教皇アルリズを倒し、人界の構造を変えてしまった責任を取るため。
アルリズを倒したのはユウキなので、責任は一人で取ると言っていたが。
アリスも残ると言って、聞かなかった。
残る二人には、元の世界に帰ってもらい、後のフォローを頼む。
「帰るよ、僕。偉い人の長話なんて、聞いてられっか」
席から立ちあがり、広間から出ようとする。
二週間前の市街地攻防戦から、大分復興が進んでいる。
崩壊した騎士団のアジトも、半分近く修復済みだ。
組織の立て直しも順調である。
このままいけば、暗黒界からの侵攻も防げるそうだ。
「毎日毎日、つまらない駆け引きばかり。なんで社会ってこんなに面倒なのかね?」
「大勢が集まると、意見が分かれて面倒。いつものことでしょ?」
アリスも堅苦しいのは苦手なはずだが。
我慢して適応しているようだ。ストレスで髪の毛が乱れいてる。
そんな姉を見ると、自分ももう少し頑張ろうという気になる。
とは言え、ノウシスからの提言もあり。
彼らが手伝うのは騎士団の再建と、混乱の対処のみだ。
暗黒界との戦いは、出来れば関わらないで欲しいと言われている。
「偉そうな騎士達だな。目の前の少女が、崇めてる女神様だって知ったら、真っ青になるぜ」
渋々椅子に座ろうとするユウキだが。天井から物音が聞こえた。
この広間は最上階にあるので、屋根の上から聞こえた。
動物ではない。人間に近い何かが、屋根を歩いている。
ユウキが警戒を高めた瞬間。天井が崩れた。
丁度ノウシスの護衛に、瓦礫が降り注ぐ。
天井に空いた穴から、何者かが降りてきた。
「アルリズの実験体? 生き残りが居たのか……!」
天井を砕いたのは、人間の姿をしたものではない。
両手が剣と同化して、真っ白な体をしたトカゲの様な怪物だ。
尻尾も剣の様な形をしている。見覚えのある形状だった。
人工神器。アルリズとの戦いで、嫌なほど味わった武器だ。
目の前の怪物は、人工神器と体が同化している。
ファイナルウェポン。そんな名前を、騎士長から聞いたことがある。
「教皇様の怨念でも、宿っているってか? 帰らなくて正解だったぜ!」
ユウキは銃を取り出して、怪物に構えた。
引き金を引いて、弾丸を放とうとした瞬間。
晴れた空から雷が降り注ぐ。
銃に引き寄せられた電気で、指が痺れる。
ユウキは銃を落とした。
「自然現象じゃねえな……! これは!」
怪物は周囲の騎士やユウキ達に目もくれない。
ノウシスだけを狙って、彼女の前で口を開いた。
「なんじゃ!? わらわになにをするつもりじゃ!?」
ノウシスの体から、黄色い粒が溢れ出す。
怪物は粒を口から吸収する。
数秒後に、ノウシスはその場で倒れた。
怪物は目的を達したのか、屋根に向かった飛び上がった。
突然の襲撃に、騎士団は混乱している。
「こりゃ、ただ事じゃないね!」
ユウキは混乱する騎士をかぎ分けて、屋根に飛び上がった。
怪物と向かい合い、装備を整える。
「Hey! ママの教育が悪くて、泥棒の道にか?」
怪物はユウキの軽口に反応せず、翼を生やした。
そのまま空を飛んで、教団本部から飛び去る。
「無視かよ。富谷名誉より欲しいものが、手に入って良かったね!」
ユウキは背負っていた、サーフィンボードの様なものを取り出した。
蒼が残した、最新のガシェット『スカイボード』だ。
原理は分からないが。飛べるらしい。
ユウキはスカイボードに乗り込み、逃げる怪物を追いかける。
何度も実験に付き合っただけあって、乗り心地は最高だ。
「ユウ! 今どんな状況?」
アリスも相棒である飛竜の跨り、追跡に同行する。
「分かんねえ。アイツが何者で、なにを企んでいるのかもな」
「少なくとも、向かう先は分かりますよ」
スカイボードと並列に飛ぶ、アリスの飛竜。
敵の飛行速度も同等なので、距離が縮まらない。
「実は五柱神の内。既に三神が謎の生物に襲撃されたそうです」
「んな大事な事、僕に黙っているなよ……」
舌打ちをしながら、ユウキは速度を上げた。
無理をしなければ、追いつくことは出来ない。
「四神目のノウシスが今襲われました。最後の一体も狙うはずです」
「終点は暗黒界って訳か……」
ユウキもある程度、ノウシスから事情は聴いてる。
五柱神の中で、ノウシスの弟だけが暗黒界を管理していると。
理由は聞いていないが、過去の争いが関係しているらしい。
「結界が弱まっていたのは、アイツが神の力を取り込んだからからか」
「アイツがファイナルウェポンなら。結界が弱まった後に誕生してるはずですが……」
「とっちめれば分かるだろ? どうせあの速度なら、暗黒界まで一週間はかか……」
ユウキが言いかけたところで、怪物の前方に円が出現した。
人が三人は同時に通れる大きさの円へ。
怪物は突っ込んで、姿を消す。
「訂正。一分のもかからず、到着だぜ!」
ユウキとアリスも、消滅前に円を潜る。
初めて訪れる、人界と暗黒界の境目。
渓谷の真ん中に、半透明で紫の壁が天空より高く伸びている。
「あれが障壁か……」
怪物は壁に対して、躊躇いなく体当たりした。
その勢いで、巨大な壁がガラスの様に崩れ去った。
「歴史が壊れるのは、一瞬だね」
ユウキは速度を上げて、先行した。
アリスは飛竜を限界まで、速度を出してもらっている。
それで追いつけないなら、自分が先に相手の動きを止める。
「よお! 初めて見た時から思ったけど。その剣は悪趣味だと思うぜ!」
怪物に追いつき、ユウキが挑発する。
こちらの言葉が聞こえないのか。無視されているのか。
怪物は何のリアクションも見せない。
「神様食ったんだから、分かるだろ? 笑えよ」
ユウキは銃を突きつけながら、怪物に言葉を求める。
やはり何の反応はない。威嚇として、一発撃つ。
「止まれ。警告はした。お前は何者だ?」
ユウキの言葉に少しだけ、顔を動かす怪物。
返答代わりとして。背中から巨大な光線を放った。
光線は正確にアリスの飛竜へ、飛んでいく。
「うぇ!?」
一切振り向きもせず、突然放たれた光線。
アリスは対応できず、飛竜に指示が間に合わない。
ギリギリ致命傷は免れたが、飛竜の翼に傷がついた。
「びゃあああ!」
アリスが悲鳴を上げながら、落下する。
「相変らず、酷ぇ悲鳴だぜ」
ユウキは反転して、アリスを救出しようとした。
その直後に時差を開けず、怪物から第二射が放たれる。
「それ、連発出来んの!?」
ユウキもボードに被弾して、空中に投げ出された。
体を動かしながら、立て直し。
超能力で体を持ち上げて、地面に着地する。
「逃げられちまった……。姉ちゃんは。まあ無事だろうから、後で良い」
***
アリスは飛竜にしがみ付いてる。
「びゃあああ! トビー! ジャッキー、ジャッキー! あの布みたいなやつに落下して!」
アリスは適当な指示を出すが、飛竜に伝わらない。
飛竜はジャッキーを知らず、ここは荒野だからだ。
回転しながら落下する飛竜の上で、アリス目を回す。
何かのうめき声と共に、回転が止まった。
地面に墜落したようだが、怪我は浅い。
飛竜のトビーも、落下のダメージは少なそうだ。
「ふぅ……。助かった……」
「良かったっすね……! でも俺は全然大丈夫じゃないっすよ!」
一瞬、トビーが喋ったのかと思ったが。
直ぐに飛竜に誰かが踏みつぶされたことを、確認する。
どうやらこの人がクッションとなって、軽症で済んだようだ。
「ああ。ごめんなさい。トビー。退くよ」
アリスは飛竜から降りて、その体を持ち上げた。
下敷きになった人を、引っ張って救助する。
「いや~。びっくりしましたよ! また記憶が飛ぶかと……」
「あ……!」
アリスは下敷きになった人物に、見覚えがある。
相手も気づいたのか、目を丸くしている。
「あー! アリス師匠! やっと見つけました!」
「相良!? どうしてここに……?」
目の前にいるのは、間違いないく蒼井相良だ。
記憶喪失になった彼を、アリスが発見して。
適当な名前を付けて、暫く家に置いた。
「というか、師匠は止めなさい! お前を弟子に取った覚えはありません!」
「これは尊敬の念を込めてです! 今日こそ弟子にしてもらう事を……」
いつものテンションで話かけて、相良はハッとする。
「ここどこですか? 変なフードの奴に、行き成り連れてこられたんですけど……」
「どうやら……。お互い情報交換が必要の様ですね」




