クライマックス 青い鳥
蒼はブルーバードを飛ばして、戦艦の周辺を回る。
ブルーバードにはリアクターが搭載されている。
遺跡を一つ、丸々浮遊させるほどの力が。
「一体どうやって、止めるって言うのです?」
後部座席のアリスが、疑問を口にする。
彼女はブルーバードが飛べる原理を知らない。
「この機体のリアクターをオーバークロックして、周囲に超反重力空間を発生させます」
「なるほど。分からない様な気がします」
その冗談めいた言い回しは、やっぱりユウキの姉だなと感じた。
蒼はブルーバードを使って、リアクターの力を限界以上に引き出す。
その力で機体を飛ばしている反重力装置の出力を上げようとしているのだ。
戦艦の落下が止まり、街への被害は防げる。
更にリアクターの力で引き寄せ、戦艦を海上まで持って行く。
「でももし私が失敗したら……」
出力の調整に失敗すると、ブルーバードは大破する。
その場合戦艦は地上に落ちるだろう。
最悪リアクターが巨大な爆発を起こし、街が消し飛ぶ。
今度こそ失敗は許されない。
蒼は爆弾事件がフラッシュバックした。
過呼吸になり、操縦がおぼつかなくなる。
傍にユウキは居ない。もし失敗しても、今度は助けてもらえない。
恐怖心から、蒼は行動を躊躇っていた。
「リアクターオーバークロック……!」
蒼は緊張を誤魔化す様に、出力を上げた。
リアクターはどんどんエネルギーが溜まる。
だが恐怖心が足かせとなり、限界を超えた出力を出せない。
恐怖心を抑えて、出力を上げようとする。
無意識がブレーキをかけて、腕を動かせない。
「ユウ……。私は……」
彼女が諦めかけた時。ブルーバードの前方を、一羽の鳥が飛ぶ。
こんな高度に鳥が居るのは、珍しい。
その鳥の色は青色で、種族名が分からない。
幸せの青い鳥。ブルーバードの由来となった存在。
その背中がユウキと重なる。
プレッシャーをものともせず、常に前を走り続けるユウキの背中に。
彼女は似た境遇で、それでも強さがあるユウキに憧れていた。
気が付いたら彼の背中を追いかけていた。
「私もいつか……。いや、今! 隣を飛びたい!」
そう思うと、不思議と恐怖心が消えてきた。
ユウキはどんな困難も乗り越えてきた。
その中で失敗だってあったはずだ。
それでも彼はめげず、まだ前を向いて走っている。
その強さに憧れていた。でもただ憧れているだけではダメだ。
「オーバークロック!」
足かせがなくなり、蒼はリアクターの出力を限界以上に引き上げた。
リアクターが大きな音を上げる。ブルーバードが大きく揺れる。
その振動と同時に、巨大戦艦の落下が止まった。
「こっち!」
蒼はブルーバードの最高時速を出した。
限界を超えたリアクターは、そのうち出力が下がり始める。
その前に海上に戦艦を移動させなければならない。
ブルーバードの引力に引かれて、戦艦は追従する。
海が見えたのを確認すると、蒼はゆっくり高度を下げた。
急激な落下で、近海に影響を与えぬよう、慎重に着地させる。
「よし……!」
蒼の作戦は成功した。戦艦は海に墜落。
大きな被害を出すこともないまま、動きを止める。
蒼はブルーバードを動かして、岸に戻った。
思えばこの海から、蒼の冒険は始まったのだ。
深呼吸をして緊張をほぐす。
「ふぅ……」
コックピットを開いて、新鮮な空気を入れる。
戦艦の上と違って、濃い酸素が入る。
「蒼さん。よく頑張りましたね」
アリスが労いの言葉をくれた。
蒼は額が汗だくになりながらも、サムズアップを見せる。
ユウキの癖が、いつの間にか移ったようだ。
気が付くと夜が明けかけている。
空を見上げると、あの青い鳥は居なくなっていた。
「もしかして貴方は、私を元気づけるために来てくれたの?」
鳥にそんな意志があるわけないと思いつつも。
蒼は自然と笑みがこぼれた。
子供の時の様に、おとぎ話気分に浸るもの悪くない。
あの鳥は本当に幸せを引き寄せてくれたのだから……。
感傷に浸っていると、直ぐ近くの道を走る少年が見えた。
「無事だとは思ていたけど」
蒼は少年の顔を見るなり、ホッとした。
どうやら全てが無事に解決したようだ。
「いってらっしゃい。隣を飛びたいんでしょ?」
いつの間にかコックピットから、アリスが下りていた。
蒼は彼女に頭を下げてから、ハッチを閉じる。
再びブルーバードを走らせて、走っていく少年の後を追う。
いつもは背中を追いかけるばかりだったが。
今回は隣を並走する。
少年は蒼に気が付くと、サムズアップを笑みを向けた。
「私も少しは強くなれたかな?」