エピローグ 終焉と発端
祝勝会がノウシスのアジトで行われていた。
と言ってもこれからの英気を養えが主な目的だ。
アルリズは死んだ。結果的に戦いは終わったのだが。
下級騎士や市民への説明。教団の今後の話し合い。
今後の統治方針。失われつつ障壁の効果。
対策しなければならないことは、山ほどある。
「なんじゃ。こんなところでしけた面をしおって」
アジトから離れ、一人外に出ていたユウキ。
そんな彼に、ノウシスが声をかける。
「騒ぐのは苦手なんでね。僕は一人が好きなんだ」
「騒がしいのは好きみたいじゃがな」
ユウキは木にもたれかかって、ヘッドホンをしていた。
流れているのはクラシック音楽。
この世界に存在しないが、穏やかなのはノウシスに伝わっている。
「わららの望んだ結果とは違うが。お主らはよくやってくれた」
「どうも。とても褒められたことじゃないけどな」
アルリズが転生の儀に手を染めたのは、元々自分達の世界が原因だ。
それが発端となり、リサの騒動へと繋がった。
他の世界に迷惑をかけたうえ、指導者を独断で排除した。
個人の感情で、混乱を招いたことは事実だ。
それを自覚しながらも、ユウキの瞳に迷いはない。
「発端はともかく。きっかけはアルリズが手を出したからじゃろ」
「だとしても、起こしたことの責任は取らないとな」
どんな理由はあれど、自分はこの世界の統治者に歯向かった。
許す許せれないではない。起きた事実を受け入れるしかない。
「僕、もうしばらくこの世界に残るよ」
「どういうつもりじゃ?」
「混乱を招いた責任を取るだけ。みんなが望むなら、投獄でも処刑でもすれば良いさ」
アルリズは転生の儀を悪用していた。
他の世界の技術を使って、殲滅計画を立てていた。
それが事実だとしても、止めた自分が正しいとはユウキには思えない。
「随分と謙虚なのじゃな。アルリズが暴走していたのは事実じゃ。もっと誇っていぞ」
「正しいって言葉が嫌いなんだ。自分は正しいなんて思ったら、正当化しそうでね」
ユウキは地面に座って、星空を眺めた。
夜空に浮かぶ星に向かって、そっと手を伸ばす。
「お主、何かあったのか?」
「別に。ずっと昔。好きだった女の子を、正義は救ってくれなかっただけさ。僕も救えなかった」
ユウキは正義と言う言葉に、嫌悪感すら抱いている。
だから自分の行いが、正しいかどうかなんて知ろうと思えない。
「画面の向こうのヒーローは、悩んでいるのに。現実の正義は悩んでくれないから」
「画面……? 確かに、アルリズも自分を正しいと信じて、悩まなかったな」
それは人として生きる上で、当たり前の事なのだろう。
誰だって、間違っていると思って行動するのは気分が悪い。
だから人は正当性を求める。それが悪い事だと、ユウキには言えない。
「ならわらわもそうする。ノウシス教団を再建するぞよ」
「五柱神は下界に干渉しないんじゃなかったのか?」
「元をただせば、わらわがアルリズに重責を負わせ過ぎたのが原因じゃ」
じゃあ戦闘でも助けてくれればいいのに。っという言葉をユウキは飲み込んだ。
人を導くのと、人を裁くのは違う事だからだ。
「それに、彼女にだけは真実を伝えるべきじゃった……」
ユウキの隣に座り、一緒に星を眺めるノウシス。
その表情はどこか、寂し気に見えた。
昔のアルリズは立派な指導者だった。
ノウシスにとっても、盟友だったのだろう。
狂った友が倒されたのは、複雑だと察する。
「人界と暗黒界を隔てる障壁はな。決して悪いものではないのじゃ」
「侵略を防ぐものじゃなかったのか?」
「本当は違う。来たるべき時まで、お互いを分断する目的があったのじゃ」
双方を分断する障壁は、転移魔法でも突破できない。
だからアルリズは、キャノンによる殲滅が必要だった。
宇宙から世界ごと破壊すれば、障壁は関係ない。
「彼らも邪悪な存在ではない。ただ、価値観と文化が人間と違うだけじゃ」
「そんな奴らが、近場で国を持っていたと?」
「ああ。じゃから、いずれ大きな争いが起きるのは分かっておった」
ユウキは顔を下げて、ノウシスの表情を見つめる。
天から見下げるはずの神が、星空に救いを求めているかのようだ。
「まあ当然じゃな。理解出来ぬ存在が、隣にいるのは恐ろしい」
「じゃあ過去に起きた、争いって……」
「出来レースじゃよ。急速な進化をする人間と、それ以外の種族を分断するためのな」
だから神が指導者となったのか。ユウキは納得した。
この介入が、歴史で正しく伝わらず騒動が起きたのだろう。
「自分の価値感を絶対正義と信じるものたちは、分かり合うのに時間がかかる」
「時間稼ぎの為に、争いを演出って……。結構酷いな」
「分かっておる。じゃがあのままでは、世界が滅びた」
世界を救う策だったのだが、ノウシスは後悔してそうな表情だ。
彼女も自分の判断が、正しいか分からないようだ。
「みんながみんな。お主の様に正義に疑問を抱ければ。争いは起きないのかのう?」
「やだな、それ。みんなが好き勝手したら、秩序が崩壊するよ」
「それもそうか」
あっさり納得されて、ユウキは少しだけカチンっと来た。
握った拳を抑えながら、もう一度星空を眺める。
「綺麗だな……」
「わらわがか?」
「星空はどこから見ても、感想が変わらない。見える星が違うのにさ」
仕返しとして、ノウシスの言葉をスルーした。
『うぬぬ……』とうねり声を出すノウシスだが、やがて静かになる。
「障壁はもう直ぐ壊れるか……」
アルリズが語っていた言葉だ。それが事実なら、二つの世界が繋がる。
それは新しい戦いの始まりなのか。それとも終焉なのか。
それはこの時点では、誰にも分からない。
***
「よお。アンタはパーティに参加しないのか?」
騎士長、リダが協力者に声をかけた。
彼だけはノウシスに頼んで、別の場所に転移してもらった。
「まだ俺にはやることがある。他の世界でな」
「息子と娘に挨拶しなくて良いのか?」
「いつ終わるか分からない。帰れるか分からない。余計な希望を持たせたくない」
ファイナルウェポンを倒した二人は、戦いを見守っていた。
彼曰く、これはユウキ達の戦いだからだそうだ。
彼は次元移動装置を使って、次の世界へ向かう。
「世話になったな。無事に終わったら、なにか奢るよ」
「出世払いかよ。まあ、期待せずに待ってるぜ」
世界を移動するゲートに入り、光夜は使命を思い出す。
転生の儀。そのきっかけとなったのは、"フェクター"と言う人工生命の襲来だ。
あの男が異世界に転生するため。フェクターをあちこちの世界に解き放った。
それがきっかけとなって、討伐の為に何人かの戦士が異世界へ向かった。
この世界も、その一つに過ぎない。
記録にあった、フェクター襲来の世界を旅する。
「オリジナルが死んだら起動って。しつこい親父だ。今度こそ、蹴りをつけてやる」
彼の戦いはダークマター事件が終わるまで続く。
悪魔を完全に倒すその時まで。
***
ユウキ達が元々居た世界。戦いの最中で、こちらでは二日が経過していた。
一人の少年が、冬木家を訪れていた。
青髪でやや長髪。水色の瞳をした、爽やかそうな表情。
青いパーカーの前を開けて、薄い水色のインナーを見せている。
クリーム色のズボンと白い帽子で探偵を気取ったポーズをしていた。
「今日こそ、アリス師匠に弟子にしてもらう事を、前向きに検討してもらう事を善処するよう考えてもらうぞ!」
少し怪しい日本語を使いながら、少年はインターホンへ顔を向けた。
頭突きでボタンを押して、音を鳴らす。
「師匠! 俺です! 蒼井相良が参りましたでございましゅる!」
インターホンを鳴らしたのに、誰も返事をしない。
以前は家にいたユウキが、姉ならいないと出てくれたのだが。
今日はそのユウキすら、出てくれない。
「師匠……。二週間以上も連絡くれないで、怒っているんですか~?」
怒らせた記憶はないが、自分は失言が多いと自覚がある相良。
無意識に怒らせたのではと、不安になる。
悪いと思いつつも、勝手に敷地内に入る。
「アリス師匠~。ユウキ先輩~。お母さま~。誰かいないんですか~?」
作業していて、気づいていないのかと思い、大声で呼びかける。
その時物置の方から、音が聞こえた。
「なん~だ。居るんじゃないっすか! 返事くらいしてくださいよ!」
ユウキが居ると思い込んだ相良は。
嬉々とした表情で、物置へ走った。
だが曲がり角を進んだ先にいたのは、ユウキではない。
まるで影の様な姿の人物だ。
目が赤く光っており、人の形をしているが人間には見えない。
「な、なんだお前は!? ここがどこか分かっているのか! 何をしているんでございますか?」
人の事言えないが、勝手に他人の家に上がっている。
とても善良な存在とは思えない。
「お前こそ何をしている? "トゥリマル"。自らの使命を忘れたのか?」
「なに言ってんだ? 俺には蒼井相良って名前があってだな……」
「さっさと戻るぞ。お前が抜けたせいで、障壁が壊れかけている」
影の人物は、相良に飛び掛かってきた。
首を掴んで、漆黒の光を周囲に放つ。
「な、何をするんだ? 首が痛いよぉ」
「あ、ごめん。強く掴み過ぎた」
光で目を瞑り、耳鳴りがで聴覚が塞がれる。
まるでエレベーターが急降下した時の感覚がした後。
相良は目を開いた。目の前には、冬木家が広がっていない。
「なんすか? ここ?」
「暗黒界だ。お前が本来管理すべき場所だったのだぞ」
~EP4 風の騎士編につづく~
EP4に続きますが、実は行き当たりばったりで人界編書いていたので。
正直全く構成が整っていません。なので少し時間をください。




