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ユウキサーガ ~ 悪を撃ち抜くCheckmate!~  作者: クレキュリオ
Episode3 人界編

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第29話 運命の弾丸

「魔人……?」


 思わず手を止めそうになり、アリスは呟いた。

 ユウキの背後に出現した、謎の存在。

 騎士の様な、悪魔のような存在を、そう表現する。


 魔人が召喚されたと同時に、部屋の空気が一変する。

 神器が持つ独特な空気とは、また違うものだ。


「なんだそれは……? そんなもの、私は知らないぞぉ!?」

「姿が変わる訳でも。強力な技を放つわけでもない。背後に魔人を召喚する……」


 アリスも潜入しているとき、この世界の知識を叩きこまれた。

 神器の力に、魔人を召喚するなど存在しない。

 力の媒介は神器なのは間違いないが、リアクターの力と言う訳でもない。


「なんだお前は……? 何をしたんだぁ!?」

「知らねえよ。アンタの何でも知った気の顔が、気に入らねえんだよ!」


 ユウキは右手の神器を、一振りした。

 斬撃波が飛び、アルリズの剣に衝突する。

 先ほどまでびくともしなかった剣が、容易く砕かれる。


 アルリズから余裕がある気配が消え、後ずさりをしながら震えている。

 そんな彼女に、ユウキはゆっくり近づいた。


「これで……」


 ユウキは元々持っていた剣を左手に握りしめる。

 背後の魔人が彼の動きと同期して、同じように剣を召喚する。

 ユウキが駆け出すと、魔人も追従する。


「全部……!」


 ユウキが剣を振ると同時に、魔人も腕を振る。

 ユウキと魔人、双方の剣が時間でアルリズにヒットした。

 すかさずもう片方の腕を動かし、二本目の剣で攻撃。


 右と左、一切の時間差を開けずに、連続攻撃を繰り返す。

 剣を砕かれたアルリズに、防ぐ手段はない。


「終わりだ!」


 ユウキは二本の剣を、アルリズの胴体に突き刺す。

 刃が彼女の胴体を貫通した後。彼は少しだけ距離を取った。


「Finish!」


 トドメにドロップキックを食らわせて、アルリズを蹴り飛ばした。

 直撃瞬間に剣を握り、アルリズから引き抜く。

 アルリズは吹き飛びながら、背後に体を倒す。


「なぜ……。私が負ける……?」


 敗北を受け入れられないのか、アルリズは大きく目を開いたまま倒れた。

 足掻くこともせず、呆然と寝転がっている。


「知るか。敗因がなんであれ、アンタの負けだよ」

「こっちもやっと終わりました」


 エネルギー制御が終わったアリスが、伸びをした。

 キャノンへのエネルギー充填が止まった。

 念を入れたのか、漆黒の剣を真っ二つに折っている。


「負け? この私が……? 負けた……?」


 状況が飲み込め始めたのか、アルリズは同様を始めた。

 傷ついた体を必死に起こして、傷口を確かめる。

 治癒魔法を使えば癒せるが、時間がかかる深さだ。


「まだだ……。まだ終わりじゃなぁい!」


 アルリズは右腕を前に突き出した。

 折れた人工神器の、刃の部分を魔法で引き寄せる。

 そして。自分の腹部に突き刺した。


「イカレたのか!? いや、待て……。これって前にも……」

「そうよ。最初からこうすれば良かったんだわ! アハハ……!」


 剣に吸収されたリアクターの力を、アルリズは飲み込んでいる。

 リアクターだけではない。あの剣にはプロフェッサーの狂気も封印されている。

 アルリズ自身の狂気と融合し、巨大な黒い靄を発生させた。


「私自身がレーザーになれば良かったのよ!」


 黒い靄に包まれたアルリズは、姿を消した。

 それと同時に、コロニーが振動する。


「狂った奴に言う言葉じゃないけど、正気じゃないな」


 自分の身を犠牲にしてでも、敵対勢力を滅ぼしたい。

 それも殲滅する方法で。


「……。ねえ、吹雪! そっちは大丈夫そう?」


 アリスが少し考え込んだ後、無線で連絡を取った。


『ああ。何とか全員一命は取り留めている』

「今、このコロニーのキャノンの方向と。その先の着弾地点を計測できる」

『あぁ……。俺こういうの、苦手で……。母さん?』


 無線越しに、キーボードを叩く音が聞こえる。

 アリスは何故着弾地点を調べているのだろうかと、ユウキは冷汗をかく。


『出た……!着弾予測地点は……。人界の王都のど真ん中……』

「やっぱり。さっきの揺れで、角度がズレたんだわ」

「なんで計算に入れてねえんだよ。あ、出来ないのか……」


 そもそもコロニーは持ち込まれた技術だ。

 人界にはパソコンすらないのだから、計算など素人には不可能だろう。

 少しでも角度がズレたら、座標が大きくずれるのを知っているかも謎だ。


「つまり……。このままじゃ、滅びるのは暗黒界側じゃなく……」


 アリスが言葉を続けなくて、言いたいことは分かる。

 ユウキは懐から、リアクターを取り出した。


「奴がどっちを狙おうと、やることは変わらないよ」

「流石ね。命の価値は平等とでも言いたいの?」


 アリスもリアクタ―を取り出した。

 共鳴現象を使って、残りのリアクターを操る。


「命に価値なんてないよ。あるのは権利だけだ」

「生きる権利ですね。分かります」


 二人は三つずつリアクターを取り込んだ。

 エックスと。ブラッドローズと戦った時の様に。

 宇宙空間でも戦える形態。スーパー状態へと変身する。


 ユウキは体が青く光り、アリスは金色に光った。

 アリスの光を見て、ユウキが両手を広げる。


「似合ってるぜ。目立ちすぎて」

「お前、後でお仕置き」


 ユウキの瞬間移動を使って、二人はコロニーの外に出た。

 今まさに発射寸前の、キャノンの前へ。


「発射前に壊せばコロニーがボン。発射されたものが落ちれば人界がボン。後は分かるわね?」

「OK! Partyは御開きだ。クライマックスイベントと行こうか!」


 この状況で最善の手。それは放たれたキャノンを受け止める事だ。

 自分達がレーザーを相殺出来れば、被害は最小限に抑えられる。

 だが失敗すれば。人界の全ての生命が死滅する。


「来る! ユウは左から支えて!」

「派手な花火を上げてやるぜ!」


 キャノンから巨大な光線が発射れた。

 黒くて禍々しく、嫌な気配がする光。

 ユウキとアリスは両手を前に突き出して、光線を抑え込んだ。


「姉ちゃん……。これちょっと……」

「同じリアクターの量なのに……。キツイ……」


 ユウキ達は徐々に押され始めた。

 大気圏に突入し、周囲が赤い熱に包まれ始める。


「これ以上行かせるかよ……!」


 二人は力を込めたが、その場で止まるのが精いっぱいだ。

 押し返すどころか、威力が高まる光線を抑えることしかできない。


「お前達はなんだ? 何故邪魔をした?」


 光線からアルリズの声が聞こえる。

 自らを燃料にした光線に、その意志が宿ったようだ。


「この世界と無関係で、大義もなく……。この世界の住民と深いかかわりがあるわけでもない」


 アルリズは問いかける。ユウキ達がここまで戦う理由があるのかと。

 彼女の言う通り、ユウキには守るものがこの世界にはない。

 敵ばかりで、親しい人が居る訳でもない。思い入れがある訳でもない。


「別に大した理由はないね」


 ユウキは光線の中で、アルリズの姿を見た。

 これは彼女の狂気と意志を、具現化しているかのようだ。


「売られた喧嘩を買って、見捨てるのが気分が悪い。ただそれだけだ」

「元々は、貴方が私を攫ってくれたのが始まりだからね」


 ユウキはホルダーから、サイコガンを取り出した。

 銃口をアルリズの具現化に向ける。


「台詞のセンスはねえんだ。だから決め台詞だけ言うぜ」


 ユウキは分身の弾丸を込めて。リアクターのエネルギーを加算した。

 本来不殺用の分身弾丸だが、今だけは通常の弾丸以上の威力が出る。

 引き金に指をかけて、ニヤッと笑った。


「CheckMate!」


 放たれた一筋の青い光が、弾丸となって。

 アルリズの体を撃ち抜いた。

 弾丸が貫通した後、彼女の姿は消滅する。


 光線の出力が下がる。ユウキ達は徐々に押し返していった。

 キャノンの光が弱まっていく。もう直ぐ全ての出力を出し切る。

 光線の最後尾を、ユウキは剣で切り裂いた。


「残念だったな……。クライマックスの花火はしょぼかったぜ……」

「ユウ!」


 ユウキは体力が尽きて、スーパー状態が解除されかかった。

 大気圏で通常の体に戻れば、命はない。

 彼の前方に光の扉が現れて、彼を吸い込んだ。


 もうお馴染みの扉を潜って。ユウキはノウシスのアジトに降りる。

 部屋には吹雪と蒼も到着していた。

 積もる話は色々あるが、ユウキは取り合えず微笑んだ。


「へへ……。勝ってやったぜ……」

「愚か者目が! わらわが居なければ、今頃どうなっていたか!」

「うるせぇぞ、女神様。騎士様も一緒だというのに、イメージ台無しだ」


 この場所にいるのは、この戦いで出会った顔なじみだ。

 サブも和解出来たのか、蒼と一緒に居る。


「うるさいとはなんじゃ! お主は体力が限界だと、分かっておったじゃろ!」

「頼むからオカンみたいな態度止めてくれ。女神様の態度じゃないから」

「知恵の女神は全ての生命の母じゃ!」

「そんなことは聞いてねえ」


 フッと笑いながら、ユウキは全員を見渡した。

 この場所にはプロフェッサーや玲子もいる。

 聖騎士団もいる。みんな敵同士のはずだ。


 だけどもう、戦う理由はない。だから一緒に居る。

 この場所には、会ったことのない人物が一人だけいた。


「冬木ユウキさん……。で、良いのですか?」


 フードを取った少女。ノウシス教団の教皇……。

 ではなく、玲子とプロフェッサーの娘、リサが声をかける。


「私を、父を救っていただきありがとうございます」

「Hey。何年かぶりに目覚めた気分はどうだ?」

「色々変わって、何がなんだかが正直な感想です」


 素直に答えられて、ユウキは思わず笑った。

 アルリズは倒れた。狂った支配者が消えたのだ。

 プロフェッサー達も娘が返ってきた。


「良くなったように見えるけど……。責任なちゃんと取らないとな……」


 体力が切れたユウキは、その場で意識を失った。

 そんな彼を、アリスが支える。優しく耳元で囁いた。


「ん。お疲れ様」

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