第28話 覚醒、魔人召還
ユウキは急いで、動力室へ向かった。
その道中で、無線で説明を受ける。
アルリズの目的。リアクターの力を吸収したことを。
「コロニーでレーザーって、前と全く一緒だね」
ユウキはブラッドローズ事件を、思い出した。
あの時も動力は、リアクターだった。
もっとも、本命はキャノンじゃなかったのだが。
「でも、お父さんはもういないわ」
「ああ……。そうだな」
アリスが並走をしながら、過去を思い出している。
ちなみに重い、暑いらしく鎧は脱いでいる。
思えばこの人の演技にも、随分振り回されたものだ。
「この扉を抜ければ、動力室だ」
「ユウ、覚悟は決まっている?」
「Of course。奴をぶっ倒すな」
二人は自動ドアを開けて、動力室に入った。
以前はこの場所に、向かわなかったので初めて見る部屋だ。
狭い通路に大きなエンジンでもあるのかと思っていたが。
以外にも部屋は広い。冷却用の水が澄色を作っていて。
円形の広場の真ん中に、動力炉がある形だ。
「手遅れだったわねぇ……。既に人工神器をセットした後よ!」
「六つのリアクターを吸収した、剣のね……」
ユウキは動力炉に刺さってる、漆黒の剣を見た。
思えば始まりは、あの剣に敗北したことだ。
あの時は何の情報もなかったが。今思えば、リアクターを狙っていたのだ。
「教皇様。さっきも酷ぇ姿だと思ったが。今はもっと醜いな」
リアクターの力で変異した姿は、異形その物だった。
仮にも知恵の女神に指名された、指導者とは思えない。
「ニ十分でチャージが終わり、キャノンは発射されるぅ!」
「随分キャラが変わったじゃないか。なりふり構っていられないのか……」
ユウキは剣を構えた。刃先をアルリズに向けて、ニヤリと笑う。
「リアクターの力に、嫌われたのかな? Don't worry! 前にもそんな奴が居たぜ!」
今までリアクターを悪用した人物は。
全て最後には正気を失っていた。
アルリズも神器を介して取り込んだ、力に飲み込まれているのだ。
もはや彼女は歪んだ指導者ではない。
ただ敵を滅ぼすだけの、怪物だ。
「貴方は何故邪魔をする? 部外者なはずよ」
「理由は山ほどあるよ。姉ちゃんを洗脳されたし、殺されかけたしな」
「ま、私は洗脳されてなかったんだけどね」
横で胸を張るアリスに、ユウキは冷ややかな目線を向ける。
直ぐに睨む目に戻して、アルリズに視線を動かした。
「私は人界の指導者だ。その私を、部外者が倒して良いとでも?」
「Wat? お前を倒さない理由でもあるのか?」
「今や人界はノウシス教団なしでは、統治されない。その教団を管理しているのは私だ」
正直、ゆっくり回る機会がなかったので統治の状態は分からない。
だが教団の影響力を考えると、確かに大事なのかもしれな。
何せ世界のパワーバランスが変わるのだから。
「それだけではない。私はただ、敵を倒そうとしているだけだ。人界の敵を」
「余所の家の物使ってか? 泥棒はダメだって」
「障壁はもう直ぐ壊れる。そうなれば、何千では済まない犠牲が出るのだぞ?」
アルリズの言い分を、ユウキは頭でまとめた。
人界に敵が攻めて来る。だからその前に滅ぼす。
全ては民のため。だから人々を利用する。
「知らねえよ。そんなもの」
「数千の犠牲を、知らねえで済ますのか?」
「僕は世界が良くなろうと悪くなろうと、どうでも良いんだ。どの世界でもね」
一切動揺することなく、ユウキはヘッドホンを耳から外した。
サイコガンも取り出して、戦闘準備を終わらせる。
「僕、正義って言葉が嫌いなんだよな。自分が正しいとか、主張するつもりはないよ」
銃口をアルリズに向けて、分身の弾を込める。
引き金に手を掛けて、もう一度ニヤリと笑った。
「僕が戦う理由は、相手をぶっ潰したいと思うかどうかだ。規律にはある程度従うけどね」
「そのせいで、犠牲が出ても知らない顔をするのか?」
「いや。自分の言動で起きたことの責任はとるよ。正しかったって言葉で、逃げたくないからね」
ユウキはサイコガンの弾丸を、発射した。
アルリズは片手剣を召還して、銃弾を切り裂いた。
「今更この程度の攻撃で、私に勝てるとでも?」
「自惚れ過ぎじゃないのか? リアクターについてなら、僕の方が先輩だぜ?」
アルリズは足元に魔法陣を生成した。
落下するように、魔法陣の中に消えていく。
「自惚れは貴方よ! 今の私に本気で勝てると思っているの?」
「思っているに決まっているだろ」
ユウキは背後を振り返り、剣を振り下ろした。
三日月状の斬撃波が、背後からの光弾を打ち消す。
間に衝撃波が発生して、双方を怯ませてた。
「ならば消し炭に変えてやる。神の代弁者たる、この私がなぁ!」
「おいおい。ちゃんと神様の声を聞こえてないから、そうなるんだぜ」
ユウキはアイコンタクトで、アリスに合図を送った。
優先すべきは敵を倒すことじゃない。
人工神器を破壊して、エネルギー供給を止めることだ。
「神に許しを請え! 自らの罪を悔い改めよ!」
アルリズが両手を広げると、無数の光が天井から降る。
光は地面に着弾すると、爆発を発生させた。
「無提唱でこれだけの術を使うとは……。神の代弁者を驕るだけはあるようですね」
「提唱したとこ自体、あまり見たことないけどね」
ユウキは光を潜り抜けて、アルリズに近寄る。
剣を前に突き出して、彼女の胴体を貫こうとした。
「愚か者がぁ! そんな単調な攻撃が効くものかぁ!」
アルリズは自らの剣を盾にして、攻撃を防いだ。
全く怯む気配がない。まるで壁を殴った感触だ。
術式のレベルだけでなく、身体能力も高いらしい。
「頭が高いぞ! 神の代弁者の前に……。ひれ伏すが良い!」
「何が神の代弁者だ。頭の中の神にでも、祈ってろ!」
ユウキはブレイクを発動して、右腕を振り上げた。
強力な打撃が、アルリズの剣を弾き飛ばす。
「どうした? 神に守られているんじゃないのか? アンタのクソみたいな神にな!」
即座にチャージしていたバスターを放ち、アルリズを吹き飛ばした。
光線に飛ばされたアルリズは、壁に叩きつけられる。
「神の代弁者たるこの私に、傷を……」
「神の代弁者じゃない。テメェは悪魔の手先だ!」
ユウキはその場で剣を振り回した。
転移剣。斬撃の威力だけを瞬間移動させる技を使う。
アリスとの戦いで、防がれることは確認済みだが、強力な技だ。
「バァカメェ! その技は読み切っているんだよぉ!」
アルリズは自分の周囲に、バリアを張った。
もはや狂気が口から洩れて、ロクに術式を唱えていない。
連続攻撃は全て防がれたが、バリア自体は破壊で来た。
「人界での貴方の戦いは、全て監視済みよ!」
「その割に苦戦しているように見えるけどな」
アルリズが少し歩き出したところで。
見えない斬撃が、彼女の体を切り裂いた。
「ブェン! 貴様ぁ!」
「時間差転移剣だ」
ユウキは空中に分身剣を作り、即座に発射した。
無数の剣がアルリズの体を貫ぬく。
「年貢の納め時じゃないのか? 神器なしじゃ、あんま強くないぜ」
「甘いなぁ! 決定打を打たれぬ限り、この私に敗北はない!」
アルリズの傷口が塞がる。治療の術を使ったのだろう。
アリスが見せてくれた時、剣で穴が開いても塞がったはずだ。
彼女の言う通り、術式を封じるか決定打を与える以外、効果が薄い。
「ユウ、もっと強力な一撃を!」
「僕は手数で攻めるタイプだから。威力がある攻撃はないよ」
アリスは既に人工神器の引き離しを行っている。
下手に引き抜けば、コロニーごと爆破しかねない。
リアクターの共鳴を利用して、エネルギーを抑えていた。
「なら攻めて、攻めて、攻め続けなさい! 回復の暇を与えない!」
「Shut up! 言われるまでもないって!」
ユウキはリアクターの力を解放した。
今の彼は瞬間移動を使わなくても、高速で相手に近づける。
助走で勢いをつけて、アルリズを切り裂く準備をする。
「貴様、さっき言ったな。戦う理由はぶっ倒したかどうかだと」
地面から巨大な剣が生えてきた。
一気に振られた勢いで、ユウキは弾き飛ばされる。
「そんなちっぽけな理由で戦う奴が、私に敵うと思うてかぁ!」
アルリズは怯んだユウキに、無数の光弾を飛ばした。
空中に投げ出されていた彼は、その全てに直撃する。
クレーターが出来るほどの強さで、壁に叩きつけられた。
「私は人界のため、民のために戦っているぅ!」
術で召喚された針が、ユウキの体を貫いた。
壁に貼り付けにされて、動きを封じられる。
「私は大きなものを背負っている! 責任を背負っている!」
アルリズは転移魔法で、ユウキとの距離を詰めた。
剣を彼の胴体に突き刺して、魔力を流し込む。
「貴様とは戦う重さが違うのだよ!」
「ガッ……!」
腹部に刺さった剣を抉られて、ユウキは吐血した。
抵抗しようと腕に力を込めるが、針が深く突き刺さって動かない。
「貴様の戦う理由は、独りよがりだ。だから私に勝てるわけがない」
剣を通じて魔力が、体を壊していく。
意識が徐々に薄れる中、ユウキは自分が戦いを始めた理由を思い出す。
「走馬灯って本当にあるんだな……」
超能力を使う気力が残っていない。
脳裏を流れる記憶が、彼の原点を映し出す。
ずっと過去の記憶だ。無力さを思い知らされた時の感情だ。
「ちっぽけな理由か……。良く言われるよ」
みんな、もっと大きなものを背負って戦っている。
世界や大義など、責任を背負って戦っている。
でも自分は、大切なものを守るしか頭にない。
「お前に良い事を教えてやるよ。トロッコ問題の答えだ」
脳裏に蘇るのは、戦う強さを求めた理由だ。
かつて凶悪な犯罪があった。犯人は捕まり、裁きを下された。
でも事件で深い傷を追った少女を、世界は助けてくれなかった。自分も救えなかった。
だからユウキ自身も、深く傷ついた。
自分の無力さ。誰も救ってくれない現実。
あの時の悔しさが、ふと心に蘇る。
「世界を救おうが、大勢が救われようが。大切なものを失ったら、意味がないんだ……」
ブラッドローズ事件の時、父が目の前で犠牲になった。
その時も思った、自分にもっと力があればと。
「正義とか正しさは、何の慰めにも免罪符にもならない……!」
かつて抱いた力への渇望が、胸の内に蘇って来る。
自分が戦う理由が、心の中で湧き上がる。
それに呼応するかのように、彼の右腕が光始めた。
「壊れた悲しみは、永遠に消える事はない……!」
「その剣は……!?」
ずっと右腕に仕舞っていた、ノウシスの剣が反応した。
神器の剣を握りしめた時。ユウキの瞳が赤く光った。
「もう二度と……。誰一人失わねぇ!」
体を拘束していた針が砕け散る。
ユウキの体が青い光の柱に包まれた。
その衝撃で、アルリズは背後に吹き飛ばされる。
「貴様……。その力は……?」
「あの時、僕の中で答えが出た。世界なんて守るより。大切なものを守ることに集中しろと」
ユウキの背後に、青く半透明な人型の何かが出現した。
鎧を被った騎士の様な。それでいて翼の生えた悪魔の様な姿。
「守る力を手に入れろ。もっと力を……!」
「ノウシス様の神器の力なのか? それとも……」
「命だろうが魂だろうが、心だろうが。代償が欲しいならくれてやるさ! 守る力を!」




