第27話 母子対決
詰め込み過ぎて、長くなってしまいました
「非常用のサイレンが鳴ってやがるな……」
ユウキ達と別行動をした吹雪達。
今度こそ自分の家族と決着をつけるため、決意を込めて走る。
異常を知らせるサイレンが鳴っているが、自分達は戦闘していない。
ならユウキ達が暴れているのかと思ったが、違うようだ。
廊下には倒れた聖騎士が何名かいる。
「最低限の一撃で、気絶か……。これ、騎士長かもな……」
共に行動するプライムが、怪我具合から推測する。
「騎士長、ずっと猊下に疑問抱いていたからな」
「だろうな。不満がなきゃ、塔であんな屁理屈並べねえよ」
リダと対峙した時、彼は吹雪と戦わなかった。
状況が状況とは言え、命令違反に近い行為だ。
「案外、絶望的な状況でもないのかもな……」
吹雪は正直、戦力差が不安だった。
こちらは数えるほどしか人数が居ないのに対して、相手は騎士団だ。
微かな希望を掴みながら、彼らは指令室に動く。
幸いにもかつて侵入した、軍のコロニーと同じ構造だ。
場所もすぐに特定でき、戦闘もないまま辿り着けた。
「ふん。やっとアンタをぶっ潰せるな」
倒さなければならない人物と、彼らは向かい合う。
この事件の、元凶と言っても良い人物。
「雪道玲子」
「自分の母をフルネームで呼ぶとは。恥ずかしくない?」
「ああ。ちょっと恥ずかしかったな」
吹雪と玲奈の母親にして。プロフェッサーとの間に違う子を持つ。
その子供の為に、彼女は異界に騒動を持ち込んだ。
「無様で皮肉だな。娘を取り返すはずが、奪った奴と手を組む羽目になるなんて」
「吹雪……」
吹雪の皮肉を意にも止めず、玲子は手を伸ばした。
「貴方のリアクターを渡せ。それで戦いは終わりだ」
「おいおい。なに寝ぼけた事を……」
「アルリズは、支配欲にかられた存在ではない」
吹雪の言葉を遮り、玲子は言葉を続ける。
彼女の様子が以前と変貌している。
どこか、自分を気遣う感情を吹雪は感じ取った。
「彼女を動かすのは、恐怖心だ」
「恐怖心……?」
「神に授けられた使命。それを成し遂げなければならないプレッシャー」
ノウシスの話を思い出す。
教団はいずれ来る、脅威に対抗するための組織だった。
「アルリズは非凡な才能を持っていた。だから、後継者と言えるものがいなかった」
「だから自分の寿命を延ばしたと? 進歩が出来ない奴なんだな」
「だがその恐怖は、敵を倒せば終わる」
玲子は指令室の装置を動かした。
防衛装置が起動して、壁から銃器が飛び出す。
「リアクターとこのコロニーがあれば、敵を殲滅することができる」
「敵ってどういう定義だ? 俺は敵に分類されないってか?」
「障壁の向こう。人ならずらるものが居る世界。暗黒界」
ノウシスが語った、大規模な争い。
それは人とそれ以外の種族による戦い。
それを沈めるために、神々は二つの世界を隔てた。
「コロニーにある最終兵器。ファイナルキャノンなら、障壁を貫き暗黒界を滅ぼせる」
「ダッセェ、ネーミング。ただの殺戮兵器にしては、大層なこった」
「それが終われば、リサは帰って来る。お前達と戦う理由もなくなる」
吹雪は頷きながら、納得の素振りをする。
アルリズが目的を達したら、転生の儀は必要ない。
ならリサを解放して、素直に死を認める。一理あると思った。
「その為に、会ったことのない存在を皆殺しにするって? イカれてるぜ」
「障壁はまもなく壊れる。どのみち大勢が犠牲になる」
「かもな。でもそれは、俺達が介入して良い問題か?」
吹雪は頷くのを止めて、玲子を睨んだ。
「結果が同じでも、過程が違えば。発生する問題が変わる」
「だろうな。だが私は、ルールより感情を優先する」
「ああ。俺もそうするよ」
吹雪はその身に、冷気を纏った。
神器の力は、神器そのもののエネルギーを消耗する。
体力に影響はないが、気合でなんとかなるものではない。
「初めから納得する気はねえよ。そっちが降りないなら、引きずり下ろすだけだ」
「なぜ分からない? 最も苦しみが少なくて、最短の解決法だと言うのに」
「アンタが、何も説明してくれないからだよ」
吹雪は指をならした。同時に猛吹雪が吹き荒れる。
「芸がないな。黒騎士のときと同じ戦略とは」
玲子は目を光らせた後、姿を消した。
光を操る力は、体に反射するものすら遮る。
「芸がないのはどっちだよ。アホンダラ」
吹雪は気配を探った。玲子の得意戦術は知っている。
それは向こうも同じだろう。親子なのだから。
基礎戦術は父に叩きこまれたとはいえ、普段の癖なら知られている。
それはこちらも同じだ。玲子はアーマーを着ている。
その為、音を完全に殺すのが苦手なのだ。
「お前相手に、通常の戦術が通じるとは思っていない」
何もない空間から、光線が飛んできた。
吹雪は咄嗟に、氷の柱を生成して、光線を防ぐ。
「居場所を知られる覚悟で、攻撃かよ」
光線が飛んできた方向に、玲子は立っている。
姿が消えているから、攻撃の予備動作が見えない。
次になにをするのか、完全に読み切れなくなった。
「体温を奪って、動きを鈍らせる作戦だろうが。私は対策済みだ」
「ああそう。出し抜いたと思うのは、倒してからにしろよ」
吹雪は部屋全体を凍らせた。
床が滑るようになり、相手の動きを阻害する。
それだけではない。得意のスケート術で、自分が早く動けるようになる。
「気をつけろよ。これでアンタの光線は、床も壁も天井も反射するぜ」
「お前、私を舐めているな? 反射角の計算なら出来る」
姿の見えない玲子は、構わず光線を発射する。
空振りしたかに見える光線が、壁に反射して吹雪の背中に近づく。
吹雪は再び氷の柱を作り、光線が反射しないように調整した。
「照射する以上、私の方が有利だな」
「でもそのアーマーなら、上手く動けないだろ?」
「だがお前も、私の向いている方向が分からるまい。失策だな」
壁に光線が発射するため、玲子は吹雪を狙う必要はない。
いつどこを狙うか分からない。
「今の攻撃で計算は終わった。遠慮なくいくぞ!」
玲子は一斉に複数の光線を放った。
恐らく全てが自分に反射しないよう、計算されているはずだ。
吹雪は地面を滑りながら、光線を回避。
避け切れない光線は、氷の柱で防いだ。
部屋を動き回りながら、遮蔽物を増やす。
「おっと。危ない」
一発の光線が、直撃寸前だった。
吹雪は咄嗟に氷の盾を作り、光線を天井に反射させた。
「悪いが俺もお遊びは好きじゃない」
吹雪は懐からリアクターを取り出した。
その力を体内に取り込み、右足に集中させる。
「ユウキほど扱い慣れていないが、俺も訓練したんでね」
右足を後ろに回して、力を集中させる。
強固な氷が右足を包み込む。
「随分悠長な動作ね。当然……」
玲子が言葉に詰まったのを確認できた。
おかげでどちらを向いているのか、判断で来た。
「なるほど。悪戯に氷の柱を生成したわけではないと」
「あ! 柱も反射するから、この角度だと、お母さんにも当たるんだ!」
「姉ちゃん……。出来れば解説は、止めて欲しかったな」
吹雪の大技の予備動作は長い。
それを防ぐために、最短で届くのを防いでいたのだ。
「だが本命は、こちらだろ」
玲子は天井に向かって、光線を放った。
光線は玲子の頭上に落下しようとする氷柱を、打ち砕く。
「さっき光線を天井に反射させたのは、このためだろ?」
「ああ! フブ君の作戦が……!」
予備動作で引き付けて、上空から奇襲を狙うはずだった。
それを玲子に読まれて、氷柱を壊された。
「残念だった……。なに!?」
玲子は驚愕の表情を浮かべていただろう。
先ほどまで、吹雪が予備動作を行っていた場所から姿を消したのだから。
「アンタにそんな手が通じるとは、思っていないさ」
先ほど立っていた場所は反対方向から、吹雪は姿を現した。
体から冷気を放ちながら、強力な飛び蹴りを行った。
冷気の直撃で動きを封じられた玲子に、直撃する。
手ごたえと共に、玲子が姿を現した。
リアクターで強度を上げた氷は、アーマーさえも破壊する。
「見た目は光の反射。俺も利用させてもらった」
「私は氷に反射した、お前の姿を見ていたのか……。ならこの吹雪は……!」
「ああ。体温を奪うためじゃない。アンタの視界を遮るためだ」
強力な一撃を食らって、玲子は這いつくばった。
ただでさえ吹雪は、技が少ない。
情報が相手に知られている以上、新技の一撃で決めるしかなかった。
「俺の勝ちだ。アンタを捕まえる」
吹雪は倒れた玲子に、手錠をかけようとした。
異能力を封じる、特殊な手錠である。
「待って。フブ君」
玲子に近づく吹雪を、玲奈が止めた。
代わりに彼女が母に近づく。
「どうしても、聞きたかった。何故こんな事を?」
玲奈は優しく、でも問い詰める様に聞いた。
思えば吹雪達がこの一件に関わったのは、玲子が原因だ。
「娘を……。リサを取り戻したかった。何度も言っているだろ?」
「何故今になってなの?」
「それは……。傾が失脚したからだ。今なら……」
少し歯切れの悪い言い方が、吹雪は気になった。
塔の時にも感じた違和感。母は何かを押しつぶしたかのような感情がある。
玲奈はその何かが、分かっているかのような口ぶりだ。
「お母さん、本当は私達の事を気に掛けていたよね?」
「何言ってんだ、姉ちゃん。コイツは姉ちゃんを洗脳して……」
「そんな必要なかったと思うの。もっと優秀な協力者なんて、いくらでもいたのだから」
玲奈は優秀な人間だが、軍の関係者ではない。
確かに吹雪より強かったが、慣れている訳でもない。
「お母さん、お父さんの事嫌いだったから。あの人に良いように育てられた私達との、接し方が分からなかったんだね?」
吹雪は手錠を、そっと下した。
母は自分達の教育に、口出ししなかった。
それは無関心ではなく、父が許さなかったからだ。
「お父さんが捕まって。私達と暮らすのが不安で。だから過去の家族に縋ったんじゃない?」
吹雪は問いかけられた、母の瞳を見た。
何も答えず、ただ目を逸らすだけだ。
「それでこの世界に来てしまった。だからこんな事を……」
「理由はどうであれ、私がしたことは変わらない。勝者は敗者を裁くべきだ」
否定も肯定もせず、玲子は手錠を見つめた。
二度も禁句を犯した母は、恐らく監視レベルではなくなるだろう。
今更彼女の感情を知っても、吹雪は戸惑う事しかできない。
「さあ、吹雪。お前の手で終わらせるんだ」
「これだけやっておいて、牢獄に入れて終わりなのもちょっと納得いかねえけどな」
法律で定められている訳ではない。
異世界への介入禁止は、あくまで軍のルールだ。
この世界で行った悪事を、ちゃんと裁けるかどうかは不明慮だ。
「なら、この世界の代表たるこの私が裁きましょう! 死と言う裁きをねぇ!」
出入口の扉が壊されて、誰かが入ってきた。
同時に吹雪は、異様な雰囲気をリアクターを通じて感じた。
「アルリズ……」
「アルリズ? 教皇か? 見た目変わってんじゃねえか」
「私が初めて見た、アルリズの姿だ……。つまりあれが奴の本当の肉体だ……」
玲子が教皇アルリズを睨みつける。
確かに彼女は記憶を移す前のアルリズに会っている。
「雪道吹雪ぃ……。貴様のリアクターを渡しなさぁい!」
「貴様……! 私が協力すれば、騎士団は吹雪達に、手を出さない約束ではないか!」
「黙ぁれ! 神の代弁者は、ルールすら超越する!」
威圧感と共に、アルリズが衝撃波を放った。
その場の全員が吹き飛ばされる。
「エックスやブラッドローズの時の、ユウキと同じだ……」
吹雪は神器の力を解放して、アブソリュートレイに変身。
この敵は出し惜しみ出来ない。本能がそれを伝える。
「神器の力を使おうと、無駄だぁ! 何故なら私は神と同格だからだぁ!」
***
ユウキ達は急いで、制御室へ向かっていた。
倒れた兵士を避けながら、もう直ぐたどり着けるという場所で。
部屋の中から、爆発音が聞こえてきた。
「凄い嫌な気配がするぜ。こりゃあ」
ユウキが覚悟を決めて、部屋に入ると。
そこには吹雪のリアクターを刺した、アルリズの姿があった。
「これで揃った……! 後は全てを滅ぼすだけだぁ!」
「マジかよ……。吹雪が負けたのか?」
「負けてねえ。ちょっとダメージを負っただけだ」
部屋の隅で、吹雪が膝をついていた。
ダメージは深そうだが、確かに立ち上げれるレベルではある。
「今はお前達の相手をしている暇はないわ。私の計画も、最終段階よ! ブワ―ハハハ!」
得意の転移魔法で、アルリズは姿を消した。
「ユウキ、動力室だ。奴はそこで、キャノンのエネルギーを溜めるつもりだ」
「キャノンってなんだよ? 一体奴は一体何を……」
「説明は後だ! 奴を追ってくれ! そして絶対に勝ってくれ!」
アルリズが残したリアクターを、ユウキは拾う。
吹雪の様子から、急を要するのは分かった。
「どいつもこいつも、説明しろよな。まったく!」
ユウキは急いで動力室へと向かった。
強烈な不安を胸に抱きながら。
「勝てるのか? 僕は……」




