第25話 姉弟決戦
排水路の上で、ユウキとアリスは激しい剣を打ちあう。
ハッキリ言って、パワーはアリスの方が上だ。
まともにぶつかり合えば、ユウキが押されるのは確実。
しかも同行中に、アリスに技の殆どを見せている。
小手先では勝てない。ユウキは戦いながら、状況を探る。
「なあ、痛いんだけど?」
「本気だから!」
アリスに剣で突かれて、ユウキは背後に飛ばされた。
排水を転がりながら、体勢を立て直す。
「うへぇ。臭いのがコートに染みついちまったぜ」
コートの匂いを嗅いで、思わず吐き気がする。
冷却水の使用後なのだが、匂いは気になるものだ。
「お前、無駄口を叩くとは余裕ですね」
立て直した直後のユウキへ、アリスが兜割りで追撃する。
「余裕じゃなさ。Coolなだけ」
ユウキは右腕を突き出した。
念力を使って、空中のアリスを掴む。
重い程集中力と力を消耗する。重力が加われば、更に負荷が上がるのだ。
「飛んだのは間違いだったんじゃない?」
「いや、お前に念力を使わすのが目的です」
アリスは事前にためていた魔力を、右手から解放した。
火球弾が飛んできて、ユウキの足元に着弾。
爆発して、ユウキを吹き飛ばす。
「ああ……。拘束されたのは、こっちだったって訳ね」
「状況を見極めて、技を出しなさい」
着地したユウキに、すかさず突き攻撃を行うアリス。
少しでも速度を緩めようと、分身剣を飛ばして牽制する。
アリスはものともせず、寧ろ速度を上げて突撃してきた。
「こんな付け焼刃で……」
「本命はこっちだぜ!」
ユウキは右腕に溜めた、念力を放つ。
バスターを使って、アリスを拭き場そうと考えた。
だが最大まで溜めたエネルギー弾を、アリスは容易く切り裂く。
「クッソ!」
ユウキは瞬間移動で、アリスの突進を回避した。
アリスは即座に体を反転させて、剣を投げる。
投擲した場所に、転移したユウキが現れる。
飛んできた剣を避けられる、膝を貫かれた。
そのまま足元を崩し、地面に尻もちをつく。
「足を封じたら、身動きを取れなくなる」
「やれやれ……。ハンターの思考だな! おい!」
ユウキは転移直前に準備していた、ブレイカーを放つ。
巨大な分身の手が出現し、アリスに向かって飛んでいく。
彼女を掴もうとするも、魔法でかき消された。
分身の弱点は、一撃くらえば消えることだ。
常に行動が先読みされて、攻撃を封じられる。
「ちょっと痛いけど……」
ユウキは刺さっている剣を、引き抜いた。
足の痛みを我慢しながら、アリスに剣を投げる。
投擲された剣を、アリスは膝で弾いた。
上に吹き飛んだ剣を、キャッチする。
彼女の剣が青く光り。一振りと共に、斬撃波が飛ぶ。
射撃準備していた銃を、斬撃波で飛ばされた。
「なんで僕達、戦ってるのさ? 戦う意味ある?」
「頭の中で声が聞こえる。聞き馴染んだ声が。お前を倒せと」
「何の合図だよ? それ、洗脳されていない?」
片足を引きずりながら、ユウキは剣を持ち直した。
直後にアリスが飛び込んできて、剣を振り回す。
やはり力の差か、ユウキは防御しきれずに吹き飛ぶ。
地面に倒れた彼の右腕を、アリスは踏みつけた。
サイコガントレットまで、封じられた。
「おい、壊すなよ。後で蒼に叱られるの、僕だからね?」
「壊しませんよ。お前の体以外」
アリスは拳を握りしめた。
籠手が装備された腕に、四色の光が集まる。
魔法を使う時に使う、エレメントと言うものらしい。
エレメントが込められると、魔力が体内に込められる。
アリスは四つのエレメントを込めた拳を、引いた。
「あ~、その可愛い拳。ちょっと痛そうなんだけど……」
「フォーカードよ!」
アリスは容赦なく、拳をユウキに叩きつけた。
腹部を殴られ、拳から四色の光線が放たれた。
ユウキは光線に押されて、壁に叩きつけられる。
クレーターが出来るほどの衝撃が、壁に走った。
ユウキは血を吐きながら、地面に倒れる。
「ちょっとどころじゃない……」
「私は手加減などしない」
「手加減は覚えた方が、良いと思うよ……」
ユウキはうつ伏せになり、地面に倒れた。
そのまま目を閉じて、気を失う。
アリスが彼に近寄り、顔の位置を反転させる。
彼の口元に耳を近づけて、呼吸を確認する。
生きているのを確認したので、剣を構えた。
「はい、そこまでよ。トドメを刺しちゃだめ」
ずっと物陰に潜んでいた者が、背後から彼女に声をかける。
教皇アルリズ。二人が戦うのを、今か今かと待ち望んでいたものだ。
「猊下!? 何故ここに……?」
「その坊やは、私が預かるわ。教団の戦力にするために」
倒れたユウキに近づくアルリズ。
記憶処理を行って、自分の手駒にする。
ユウキのリアクター適正と能力を手にするのが、彼女の目的だ。
アリスを監視役にしたのも、彼が戦いを躊躇すると読んでの事だ。
二人の関係を、アルリズは知っていたのだから。
「喜びなさい。貴方はこれから、神の命に従う戦士になれるのよ」
アルリズが手を伸ばすのを確認しながら。
背後でアリスがニヤリと笑ったのを見た。
「Are you ready?」
アリスが不意に、この世界には存在しない言語を言った。
そのことに気を取られたアルリズは、思わず振り返る。
その隙に、ユウキが彼女に飛びついた。
「Of course!」
気が散っていたアルリズは、ユウキへの反応が遅れる。
ユウキは彼女の頭を掴み。念力を腕に送り込む。
「なっ!? これはどういうこと!?」
ユウキを引き離そうと、アルリズは手を動かそうとした。
そこへ背後から、アリスが羽交い絞めにして動きを封じる。
「芝居だったのよ。最初から、その体を解放するためにね」
「でも殴られたのは、本当だったけどね……」
「その方が、リアリティがあるでしょ?」
「僕じゃなかったら、痛いで済まなかったけど」
ユウキは念力と共に、自分の精神を送り込んだ。
アルリズは現在、リサと言う少女の肉体を利用している。
そのせいで多くの人が、人質を取られた状況だ。
そこでユウキの超能力を使い、アルリズの精神世界へ介入する。
この能力は発動まで時間がかかる上、消耗が激しい。
「アリス……! まさか……!?」
「残念。貴方がかけた洗脳なんて、とっくの昔に解けていたわ。ココトユーフフ!」
***
コロニーに辿り着く前。ノウシス達の隠れ家。
休憩中のユウキは、アリスと二人きりになった。
「ふわぁ~。疲れたぁ。ユウ、肩揉み」
「冗談じゃねえ。もずく入れた、お湯にでも浸かってろ」
その何気ない一言で、ユウキは察した。
「って、姉ちゃん? 今……」
「真面目な騎士って疲れるわ~。四六時中監視ってなに?」
「知らなかった! 女優になれるんじゃない?」
気分が良くなったユウキは、超能力を使った。
丁度良い力加減で、アリスの肩を揉む。
「でもなんで、洗脳されたフリなんて?」
「最短ルートで、犠牲を最小限にするべきよ。今回の敵は一人なんだから」
「なるほどね……。それで作戦は?」
***
ユウキはアルリズの精神世界に入り込んだ。
この間、ユウキの肉体は無防備になる。
だから誰にも邪魔されない場所で、アルリズに触れる必要があった。
アルリズがアリスを操るため、頭に声をかけたのが好都合だった。
元々洗脳された兵士は、その声を優先するのだが。
洗脳が解けたアリスに、そんな声は雑音でしかない。
「殺風景な精神だな。心の飾りつけをした方が良いぜ」
「貴様ら……。舐めた真似を!」
「彼女が解放されれば、サムライ団も戦う理由を失う」
精神世界のアルリズは、見た目が変わっていた。
長い髪の毛はそのまま、体が醜悪な悪魔の様な姿になっている。
溶けた様な顔で、赤く光らせた瞳を使ってユウキを睨む。
「見た目の方は、お似合いだぜ。アンタの心そのものだ」
「まさか神の代弁者たる、この私が……。一本取られるとはね」
「初めてあった時から、いけ好かねえとは思ったよ」
ユウキは拳を叩きながら、アルリズに近づいた。
この世界では本人たちのイメージが、そのまま形となる。
ガントレットや剣も、そのまま持ち込めている。
「知れば知るほど、ぶっ殺してやりたいって思ったな」
ユウキは剣を構えて、念力を込めた。
「今から有言実行するぜ。ああ、言ってはないけど!」
ユウキはその場で、剣を振った。
斬撃波が飛ばされて、教皇の体へ向かう。
アルリズは即座に大剣を装備して、斬撃波を防御。
「ああ。でもこれは言ったな。許せなくなったてな!」
スナッチを使って、アルリズの足を掴む。
腕を引っ張って、彼女の体勢を崩した。
転倒しかけた彼女へ、ユウキは走った。
彼女の体が落下しきる前に、すれ違いざまの斬撃を与える。
リアクターの力で高速移動をして、何度も突撃斬りを行う。
「残念だったな! 全て計画通りに見えて、何もうまくいってなくて!」
アルリズの足を掴んで、ユウキは地面に叩きつけた。
そのままジャンプして、飛び蹴りの姿勢になる。
「欲を出して、人ん家の物に手を出すからだ」
ユウキは分身剣を出現させた。
四つの分身剣が彼の足に装着され、刃をアルリズに向ける。
分身剣はドリルの様に回転。
立ち上がったアルリズに、飛び蹴りが直撃。
回転していた分身剣が、その体を貫いた。
「泥棒は犯罪の始まりって、ママに教わらなかったか?」
「私は神の代弁者だ……。こんな……。こんなところで……」
アルリズは両手を広げながら、胸を張った。
「私は! 神の超越者だぁ!」
叫び声が断末魔となって、アルリズの体は爆散した。
暗闇に閉ざされた精神世界が、ガラスの様に崩れていく。
「これで一件落着。意外とあっさりだったぜ」




