第24話 対立
ファイナルウェポンが破壊され、横たわっている。
教皇アルリズの最終目標は、神器と生命の融合体だ。
実験が失敗に終わった以上、目論見は崩れた。
そう言いたげなリダの表情を見て、アルリズは不気味笑った。
実験体達を気にも留めずに、蹴り飛ばしている。
「随分と余裕だな? 切り札が壊れたのに」
「この程度が切り札? 笑わせないで欲しいわね」
「なんだと? こいつらを兵士にするのが目的じゃないのか?」
リダの問いかけに、アルリズは一層口角を引き上げた。
彼女は両手を広げて、目を開いた。
瞳が赤く光り、周囲に衝撃波が走る。
「この力……。お前はまさか!?」
「ええ。私は貴方と同じになったのよ!」
再び空間に発生する衝撃波。
残ったカプセルの破片を全て、吹き飛ばす。
「フェクター細胞……。その体に植え込んだのか!」
「貴方の娘から採取したね」
アルリズの剣から、赤色の雷撃が放たれる。
雷撃は光夜とリダ、双方を吹き飛ばした。
「フェクター細胞ってなんだよ!?」
「俺達の世界で作られた、完全生命体の遺伝子名称だ」
吹き飛ばされた二人は、壁を蹴って着地した。
リダが説明を要求したので、光夜が解説する。
「俺の体は、半分がフェクター細胞で構成されている」
悪魔の因子。フェクター細胞を光夜はそう呼んでいた。
完全生命体の細胞を、適合した人間に移植する。
それにより優れた人間を、人工的に創造する。
「細胞の力を解放すれば、人智を超えた力を解放できる」
「随分便利な技術があるんだな。アンタらの世界」
「もっとも、代償はつきものだけどな」
アルリズの周囲に、赤く光る剣が出現した。
複数の剣が回転しながら、刃を重ね合う。
剣はドリルの様に回転しながら、アルリズが握る剣の先端へ。
彼女が剣を前に突き出すと、光の剣が発射された。
回転しながら、二人に接近。
リダ達は剣で防御するが、勢いに押される。
「使えば使うほど、ファクターが活性化して力が強くなる。代わりに……」
光夜は青いオーラを、身にまとった。
軽い一振りで、光の剣を粉砕する。
「人間の心を失っていく。制御出来なければな……」
「アンタの力を見て、恐ろしさが分かったぜ」
二人は同時に走り、アルリズへ攻撃する。
彼女は今、リサの肉体を使用している。
万が一細胞の活性化が進めば、例えアルリズの意志を消せたとしても。
リサは人の心を失った存在になる。
だからリダは、これ以上力を使われる前に倒そうとした。
「おい、教皇さんよ。アンタも自分を失いたくないだろう?」
「あら? 愚かな騎士長さんね。私がそんな代償を払うとでも?」
アルリズの背中から、赤い針が出現した。
ミサイルの様に進み、リダの体を吹き飛ばす。
「心。感情は所詮脳が作るものよ」
「何が言いたいんだ?」
「肉体を支配する脳が別なら。この細胞で心を失わないってこと」
リダは衝撃を受けて、目を大きいく開いた。
今までアルリズは、自分の意思をリサの体に植え付けたのだと思っていた。
だが今の発言で、彼はある仮説に辿り着く。
「まさか……。転生の儀じゃないのか?」
「ご名答! 私は彼女の意志を封じ、この体を操っているに過ぎない!」
アルリズは斬撃波を飛ばして、リダへ追撃。
動揺した彼は防御出来ず、直撃した。
壁に叩きつけられて、地面に膝をつく。
「どうやら彼らが来たようね。貴方達と遊んでいる時間はないわ」
アルリズは背後に、光の扉を生成した。
彼女が空間を移動する時に使用する、術式だ。
神の加護で全てを見通し、あの術であらゆる場所へ移動できる。
「全てのリアクターを人工神器に取り込んだ時。私の計画は成熟する!」
「待て!」
光夜は光の扉へ、駆け寄った。
それを妨害するように、地面に倒れた実験体が立ち上がる。
「こいつ、動けんのかよ……」
邪悪なほほ笑みを向けながら、アルリズは扉の向こうに消えた。
扉もすぐに消滅して、追う事が出来ない。
「なりふり構わないのは、追い詰められた証拠だぜ。教皇さんよ」
光夜は拳を構えて、実験体ファイナルウェポンに走った。
***
「しかし、俺達もつくづく宇宙に縁があるもんだな」
ユウキ達はサムライ団……。アルリズの本拠地に辿り着いた。
回復と立て直しを終えた彼らは、ノウシスの力で転移した。
細かい座標はネガリアンが、洗いざらい話したのですぐ分かった。
立て直しに少し手間取ったため、防衛体制が整っている。
ネガリアンや玲子が持ち込んだ、防衛装置や聖騎士達。
彼らがコロニーを守るため、警備をしていた。
「大所帯になってきた。二手に分かれるか?」
「Nice idea。じゃあ僕は、一番偉い人へ」
ユウキ達のメンバーは、七人構成だ。
上級騎士達は、自分達が信仰する神を信じた。
教皇の真実を知った以上、野放しには出来ない。
名誉や地位より、命を守る為に戦う。
立派な騎士だなぁっと、ユウキは心で呟いていた。
「俺は制御室へ。システムを奪えば、奴らを無力化できる」
「良いんだな? きっと母親と対決することになるぞ」
「覚悟しているさ」
吹雪の表情に迷いはない。元々母親との関係は悪化していた。
情がないわけではないだろうが。躊躇する理由もないのだろう。
「敵のボスはお前達の側だ。そっちの人数を多めにな」
「OK。Are you Ready? GO!」
ユウキ達は同時に飛び出して、左右にわかれた。
アリス、フゥ、蒼と共に教皇のもとへ向かう。
と言っても、どこにいるか分からない。
無暗に探すのではなく、セキュリティー室へ。
監視カメラを使って、様子を確かめようとした。
「なあ、いい加減覚悟を決めろよ」
道中でユウキは、アリスに話しかけた。
彼女はまだ煮え切らない態度だ。
真実知ってなお、アルリズと対立することを悩んでいる。
「他の二人はとっくに決めてんだよ。迷っているなら、帰れ」
「いえ……。迷っているのではなく、頭の中で声が……」
アリスは顔を抑えて、苦い表情をしている。
ここに来る前から、彼女は頭痛を感じていた。
記憶が戻りかけていると、推測されたのだが。
正直戦う上で、不調の人間は足手まといだ。
本音を言えば、着いてきて欲しくなかった。
「やっぱり帰った方が良いぜ。色々無理してそうだ」
「いえ……。大丈夫です……」
頑固なのは昔と変わらないと思い、ユウキは諦めた。
面倒なことに、無理に止めると殴って来る。
万が一記憶が戻るかもと、期待しているのもある。
だからこれ以上何も言わず、一緒に廊下を進んだ。
不気味な事に、これまで敵と遭遇していない。
「大広間か。やっぱり戦いは広い方がやり易いの?」
廊下を抜けて、広い空間に出たユウキ達。
そこには聖騎士団副団長、サブが部下を連れて待ち構えていた。
「よお! アンタ一人か? 団長が居た方が良いんじゃないか?」
「騎士長は、何故か連絡が取れない。もっとも、主な指揮は私がしていたがな」
「そう言えば、塔の時もそうだったな」
サブは既に、剣を構えている。
こちらの話を聞いてくれる様子はない。
神器の力は地形操作だったはずだ。
「前に僕一人にやられたのに。四人に勝てるとでも?」
「お前は逃げていただけだったがな。それにあの時は生け捕りが命令だった」
「そこ言われたら、痛いんだけどさ。殺す気で来れば、勝てるとでも?」
ユウキも剣を構えた。騎士二人は戦いにくそうだ。
ちょっと前まで、味方だったのだから。当たり前だろう。
何よりサブは、事情を知らないだけだ。
少し大人しくして、説明すれば良い。
面倒ごとを引き受けるため、蒼と共に前に出る。
「悪いけど、アンタの相手をしている暇はないんだ」
「私を前座みたいに扱うな」
サブは神器の力を発動して、地形操作を行った。
分断を狙って、真ん中の地面を上げる。
ユウキは蒼の裾を引っ張って、自分の下へ引き寄せる。
ここで分断させられたら、面倒なことになる。
極力離れず、コンビネーションで倒したいところだ。
「……。はあ!」
分断を避けたユウキへ、アリスが走った。
籠手のついた拳で、彼の腹部を殴りつける。
完全に油断していたユウキは、その場に蹲った。
「どういう……。つもりだよ?」
「頭の中で声が聞こえる。お前を倒せと!」
アリスは剣を抜き、刃を突き出した。
咄嗟にユウキは剣で防御するも、力は彼女が上だ。
そのまま壁まで追いやられて、ダストボックスに押し付けられる。
ダストボックスが開いて、ユウキはゴミガ通る道に落下した。
彼を追って、アリスも即座にダストボックスへ。
「おい! 冗談だろ!?」
アリスは落下中に、ユウキへ攻撃を仕掛けた。
防御しても、パワーで押し返される。
空中では体が制御出来ず、回避するのも難しい。
「クッソ!」
ユウキは逆に落下速度を上げて、地面を目指した。
ダストボックスの先は、オレンジの液体が流れる通路だった。
即座に着地して、側転でアリスの攻撃を避けた。
「いい加減にしろよ! 今はアンタの、迷いに付き合う時間はねえんだ!」
「うるさい! 戦え!」
冷静さを欠いているのか、荒っぽい口調のアリス。
違和感を感じながらも、ユウキは構えた。
「分かったよ。そっちがその気なら、遠慮なくやらせてもらうぜ!」
ユウキは瞬間移動で、アリスの前に移動した。
右腕でアリスを殴り、前に吹き飛ばす。
「言っておくが、アンタじゃ僕には勝てない」
「そう言うのは、"一度でも勝って"から言いなさい」
確かにユウキは、今まで姉に勝てたためしがない。
だが今回は違うと、拳を握る。
「ちゃんと勝つさ! 心配すんなって!」
***
排水路で戦いを始める、冬木姉弟。
その戦いを、影からジッと見つめる存在が居た。
「フェクター因子を持つ者で、戦いなさい」
教皇アルリズはこの時が来るのを待っていた。
二人が戦い、より活性化したフェクター因子が出来上がるのを。
限界まで戦い、引き出された力を手に入れるために。




