第22話 真実、対立
流石に毎回挿絵とおまけがしんどくなったので、ここぞと言う時にのみにします。
ネガフェイサーとの戦いが終わった。
武器を仕舞ったユウキのもとに、残りの二人も駆け寄る。
「ユウ! 無事だったんだね!」
「お前が負けるとは思っていなかったが。心配くらいはしてやったさ」
ユウキは二人に笑みを見せてながら、ネガリアンを引きずっていた。
周囲から戦闘する音が聞こえなくなった。
無事に全ての部隊が、迎撃に成功したようだ。
街を守ることが出来た。勝利した。
なのに、ユウキは直ぐに笑顔を引っ込めた。
「二人に話がある。コイツの事だ」
ユウキは懐から、写真を取り出した。
二人に突きつけて、中身を見せる。
蒼も吹雪も、首を傾げながら目を丸くする。
「なんだ? この写真……?」
「プロフェッサーが大事に持っていた。見覚えがないのは、僕も同じさ」
ユウキが見せた写真には、幼い頃の自分達が映っている。
ユウキ、吹雪、蒼、そしてアリス。もう一人。
記憶にはないが、会った覚えはある少女が写っている。
「これは教皇か? ノウシス教団の」
「ああ。彼らの証言が確かなら、この姿はリサって少女になる」
教皇アルリズは老いた体を捨てるために、転生の儀を使った。
他者に記憶を植え付けること。
日記によれば今の教皇は、プロフェッサー達の娘を乗っ取っている。
「見た感じ、合成とは思えないね……。そもそも私達……」
「俺がユウキと出会ったのは、もっと大きくなってからだ。蒼は更に後だぜ」
彼らが首を傾げたのは、見知らぬ少女が写っているからではない。
この幼さの時期に、三人は出会っても居ないのだ。
あたかも幼馴染の様に見える写真。だが加工された形跡はない。
「もう一つ気がかりな事がある。プロフェッサーの記憶だ」
「記憶だと?」
ユウキはプロフェッサーを、治療して助けたこと。
軽い尋問をして、話を聞いたこと。ノウシスに後を頼んだ事を話した。
直ぐにネガリアンが降ってきたので、アリスを放って駆け出したのだ。
「プロフェッサーは、幼い頃の娘と撮ったものと言っていた」
「なんか色々おかしくないか? プロフェッサーは人界の人間なんだろ?」
「うん……。私達とは違う世界で育ったはずだよね?」
根本的にこの話はおかしい。プロフェッサーはユウキ達の世界。
区別の為にユウキが、元世界と名付けた場所には居ない。
それにユウキ達が異世界に来るのも、これが初めてだ。
存在しない記憶。あるはずのない写真。
それをあったと主張する、プロフェッサー。
「これはあくまで仮説なんだけど……。この戦いは二つの陣営が戦っているのではなく……」
「おーい! お前ら、勝手に行くなよ!」
暑苦しい声と、鎧が響かせる足音が聞こえた。
プライムとフゥ。アリス達監視役が走ってきた。
ユウキは写真を仕舞って、彼ら隠す。
教皇の幼い姿が写っている。
騎士団に見せたら混乱するだけだろう。
「ちんたらしていた、お前が悪いぞ」
「なんだよ……。お前を庇ったから、怪我をしたんだろうが」
「まあ、感謝はしているけどな」
吹雪とプライムは互いに、微笑を向けあっている。
この戦いで、何かあったのだとユウキは察した。
「蒼……。逸れない……。猊下に狙われる……」
「あぁ、ごめん……。フゥちゃんに心配かけちゃったね……」
蒼とフゥも、普通に会話していた。
蒼は初対面の相手に心を閉ざしがちなので、仲良くなったのは意外だ。
「なんだ? 随分と友情が芽生えているようだな?」
「ユウ。それ嫉妬? 見苦しいよ」
「まあ、友達の数は少ないからね」
冗談を口にしつつも、心が重たい。
これから自分の推測を話す必要がある。
万が一仮説が当たっていたら、彼らとは再び敵対する。
限りなく確信がある。だから今、告げるべきか迷った。
穏やかに進むこの時間が、一瞬で壊れてしまうから。
でも伝えなければ。自分達が何に巻き込まれているのかを。
「二人共、さっきの話を続けるんだけどさ……」
「おい! 兄ちゃん! やべぇぞ!」
ユウキの言葉を、上空から遮るものが居た。
プロフェッサーの眷属であるカラスだ。
クロフォンと言う名前であり、こちらの事情は説明している。
「あ~、大事な話の最中なんだけど……」
「んな場合じゃねえ! 凄ぇ数の騎士団が、ここに向かっているぜ!」
クロフォンの早口から、危機感が伝わる。
彼が凄いというからには、余程の数なのだろう。
「ってか、こいつら上級騎士じゃん! 早く逃げないとヤバいぜ!」
「なんでだよ? 俺達は別に……」
「アンタらのボスが、騎士団に命令したんだよ! 異界人達を即刻、捕らえ……」
お喋りなクロフォンの口を、ユウキが塞いだ。
口ばしを握ったまま、彼を彼方へと吹き飛ばす。
「それを僕が、言おうと思ったんだよ」
「どういう事だ!? 確かに一時休戦だったけど……。まだサムライ団との戦いは終わってないぞ!」
動揺が走ったのは二人だけでなく、監視の騎士も同じだ。
市街地での勝利は、攻めてきたサムライ団だ。
まだ分からない本拠地には、幹部である玲子が残っている。
騎士団との停戦協定は、サムライ団を倒すまでだと思っていた。
騎士団も同じだったのか、戸惑いを隠せない。
「サムライ団なんて、最初から存在しなかったんだよ」
「どういう事? 私達は市街地でサムライ団と戦ったじゃん!」
「ネガリアンのロボット軍団とな。サムライ団の兵士は一人もいない」
最初から違和感を感じていた。
塔での戦いも、市街地での戦いも全てロボットが相手だった。
サムライ団の兵士と呼べるのは、玲子とプロフェッサーのみ。
「この戦いは教皇の狂言だ。プロフェッサー達は奴に、記憶を操作されたんだ」
「なに……?」
吹雪は一瞬驚いたが、直ぐに冷静な表情に戻る。
記憶を処理する技術は、何度も見てきたものだ。
姉の玲奈が意識を封じられたように。実は二人も教皇の支配下にあった。
「記憶って……。猊下がそのような事をするはずが……!」
「じゃあ聞くよ? 君の記憶は本物だと、証明出来るのか?」
食い下がって来るアリスに、ユウキは答えた。
彼女の存在が、教皇の持つ力の証拠だ。
「信じられないだろうけど、君達もサムライ団と戦っていたなんて、偽りの記憶があるんだ」
「そんなの信じられないな。でも……」
徐々に大量の足音が近づいてきた。騎士団の大群が迫っている。
音のする方角に、プライムとフゥが武器を構えている。
「アンタらを見てきた、俺らの記憶は弄られてないよな?」
「あぁ。少なくとも僕が記憶している範囲では」
「なら信じる……。貴方達は悪い人じゃない……」
プライムとフゥは、ユウキの言葉を受け入れた。
説得は難しいと、二人共考えているのだろう。
「俺達が時間を稼ぐから、アンタらはこの街を出ろ!」
「私、命令逆らえない……。でも悪人以外斬れない……」
立場がある以上、表立っては教皇に逆らえない。
だが知らないフリをすれば、時間稼ぎは出来る。
命令が自分達に来る前に、去れと二人は告げた。
今いる場所は一本道。裏路地はない。
代わりに迫る騎士と反対側に走れば、街を出られる。
「そんなはずは……」
二人と違って、アリスはまだ煮え切れない態度だ。
彼女を連れていくべきか、ユウキが迷っていると。
反対側の通路からも別の足音が聞こえてきた。
様子を確かめに、クロフォンが上空へ向かった。
何か口にしながら、ユウキの傍に飛んでくる。
「やべぇ! 実験体の軍勢だ!」
「実験体?」
「俺らより頭の悪い、怪物だ! 管理しているのは玲子のはずだけど!」
玲子の管理下と言う事は、敵対組織の戦力だ。
二つの軍勢が示し合わせたかのように、挟み撃ち。
嫌な予感が、ユウキの脳裏を走る。
「なあ。一時休戦を放棄して、敵と組むのは裏切りに入る?」
「それは分からないけど、言いたいことは分かったよ」
教皇は玲子と手を組んで、ユウキ達の攻撃を仕掛けた。
数分前まで味方だった存在が、敵になった。
「ユウキ、どうする? 正直、俺には数を相手にする体力は、残っていないぞ」
「最悪の奇遇だね。僕もだよ」
市街地攻防戦で、かなり体力を消耗した。
挟み撃ちどころか、片道を相手にする力がない。
『あ~、あ~。こちらノウシス! 聞こえておるか?』
「あのさ……。今はゴッドジョークに付き合っている暇は……」
『足元注意じゃ。全員に伝えよ!』
聞き返す暇もなく、ユウキは落下感に襲われた。
というより、本当に落下していた。
足元が急に消滅して、光のトンネルをみんな落下する。
「頼むから三秒早く言ってくれ……」
出口は分かっている。騎士団の影響を受けない場所だ。
塔での戦いが始まる前、ノウシス達とアジトにしていた場所。
神々が用意した特殊空間なので、教皇の監視能力が効かない。
「ふむ。間一髪じゃったな!」
胸を張って誇らしげにするノウシス。
そんな女神さまに、ユウキは冷ややかな目線を送る。
「カラス飛ばすなら、早く助けてよ……」
「愚か者! ギリギリまで頑張って、どうしよもない時に、神の手を借りよ!」
「結構ギリギリだったと思うけどな」
ノウシス達の用意したこの場所。実は地上のどことも繋がっていない。
出入口は彼女達が召喚した扉しかない。
なので敵の追撃が来ない、安全な場所だ。
回収された玲奈とプロフェッサーが、ベッドで寝ている。
命に別状はないが、かなり疲れているらしい。
「あ、貴方はまさか……。ノウシス様ですか!?」
「そうじゃが、お主らの感想は後じゃ!」
「押忍! 承知いたしました!」
プライムは敬礼をして、素直に黙った。
「ユウキよ。我々はとんでもない、勘違いをしていたようじゃ」
「ああ。僕もだよ」
「どうやら迷惑をかけたのは、我々の世界の方だったようだな……」




