第3話 黒騎士
「蒼~。これどっちに付ければ良い?」
「右側。具体的には、右斜め前方方向」
ユウキは蒼のガレージで、機械いじりの手伝いをしていた。
彼女はブルーバードを改良すべく、朝から張り切っている。
高校に入学して、一カ月。ようやく新しい学校生活に慣れてきた。
落ち着いたとこで、新しい事を始めようとなったのだ。
それがエックス事件の時に、世話になったブルーバードの改良だ。
「悪いわね。こんな時に、手伝いを頼んで」
「いいよ。気分転換もしたいし」
「アリスさん……。早く見つかるといいね……」
姉であるアリスが行方不明になった。
父が死んだ直後なので、母親も心労で倒れている。
ユウキが何日も探しているが、見つかる気配がない。
アリスはユウキと同じく、リアクターを持っている。
共鳴現象を使えば、居場所が分かるはずだ。
だがどれだけ探索範囲を広げても、アリスが見つかることはない。
「にしても、そろそろ昼か……。思ったより手こずるな……」
「昼ごはん、奢ろうか? 手伝ってもらったんだから」
「じゃあ、ごちそうになろうかな」
ユウキはスパナを置いて、休憩しようとした。
だが蒼が作業着を脱いで向かったのは、自宅の方だ。
「直ぐに作るから、それまで作業お願い」
「ああ、そう。そう来るんだ……」
ユウキはスパナを持ち直して、溜息を吐く。
休日しか時間が取れないため、一秒も無駄にしたくないのだろう。
もっともユウキは、蒼ほど機械に詳しくない。
出来ることと言えば、ネジが閉まっているかの確認くらいだろう。
スパナを持ちながら、ブルーバードに近寄る。
そんな時、ガレージの扉が開く音が聞こえた。
「なんだ? 忘れ物か?」
てっきり蒼かと思い、ユウキは軽い口調で聞いた。
扉に視線を向けると、そこには見たことのない人物が立っている。
騎士だ。まるでファンタジー世界から飛び出してきたかのような。
真っ黒な鎧で身を包み、剣を腰に添えている。
兜も締めて、顔を伺う事も出来ない。
「おいおい、ハロウィンにはフライングが過ぎるぜ」
黒騎士はふら付いた足取りで、ユウキに近づく。
「ここは人ん家だぜ。土足で入るのはマナー違反だ」
黒騎士は上半身がふらつき、剣を杖の様にして体を支える。
「腹でも減ったのか? だったら丁度良かったな」
ユウキは作業着を脱いで、ペットボトルを口にした。
水を飲み干して、水分を補給する。
「蒼の料理は、滅茶苦茶美味いと言えないが、量はあるんだ。一人増えてもOKだぜ」
ユウキは壁に立てかけた剣と、机の上の銃を拾った。
「少しはなんか言えよ。じゃなきゃ、不審者として通報せざるおえない」
ユウキの言葉に、黒騎士は一切口を開かない。
反応自体はあった。黒騎士は地面から剣を抜いた。
そのまま力強い一撃で、剣を振り下す。
ユウキは装備したばかりの剣で、攻撃を防ぐ。
重たい一撃。腕に痺れの様なものが走る。
防いだのは失敗かもしれないと、思うほどだ。
「冗談だろ? いきなり襲われる覚えはないぜ」
ユウキは掌を開き、黒騎士の腹部に当てた。
念力波を放ち、黒騎士と距離を取ろうと考える。
だが念力の力を解放しても、黒騎士は微動だにしない。
「なっ! 僕の超能力が通じないのか!?」
黒騎士の剣が、黒く禍々しい光を放つ。
光を浴びたユウキは、得体の知れい気配を感じた。
凄く嫌なもので、尚且つこの世界のものではないような力だ。
剣から放たれた、黒い衝撃波がユウキを吹き飛ばす。
彼は壁に叩きつけられて、膝をついた。
「へえ。少しはやるじゃん。なら!」
ユウキは懐からリアクターを取り出した。
地球の意志が込められた、膨大な力を持つ物質。
彼はこの力を完全に解放することができる。
リアクターの力を借りて、ユウキは高速移動をした。
一撃の重さでは負ける。なのでスピードに乗らす。
相手の隙をついたうえで、強力な一撃を食らわせようとした。
「な……。んだって……?」
ユウキの音速に並ぶ、高速移動を。
黒騎士は最低限の動きだけで回避した。
更にすれ違いざまに、剣の柄でユウキの頭を叩く。
怯んで動きを止めるユウキに、すかさず回転斬りを行う。
ユウキは衝撃で吹き飛ばされ、地面に転がった。
「この動き……。戦い方……。どこかで……」
朦朧とする意識の中で、ユウキは思考を走らせた。
何とか立ち上がりながら、黒騎士を見つめる。
相手はユウキから興味を失ったように、別の方向を見ていた。
目線の先にあるのはブルーバード。
動力として、蒼が持っているリアクターが使われている。
「そうだ。吹雪だ。吹雪の戦い方に似ているんだ」
力強い一撃や、カウンター戦法は親友、雪道吹雪に似ている。
しかし吹雪は剣術より、格闘術が得意なはず。
それに気配が違う。洗脳された吹雪の可能性を、ユウキは消す。
「お前、一体何者……」
ユウキの問いを無視して、黒騎士はブルーバードに向かった。
リアクターを装備した箇所に、躊躇なく剣を突き刺す。
「お、おい!」
剣がブルーバードに刺さると同時に。
禍々しい黒い靄が部屋中に発生した。
剣の怪しい気配が強まる。
「あの剣が、リアクターの力を吸収しているのか?」
黒騎士は剣を引き抜いた。黒く光る刃先をユウキに向ける。
その直後、黒い光が剣の先端から放たれた。
漆黒の光はユウキの胴体を貫く。
「ガハッ!」
痛みはない。代わりに妙な感覚が、前進に走る。
意識を吸収されるような。魂が削られるような。
弱っていたユウキはその一撃で、意識を失った。
***
どれくらいの時間が経ったのか。ユウキも覚えていない。
ユウキは薄っすらとだが、意識が覚醒した。
何が起きたのか思い出すのに、数分の時間を要した。
全てを思い出したユウキは、自分の体から痛みが消えている事に気が付いた。
まさか病院で二、三日寝込んでいたわけではあるまいなと、不安になる。
肌の感触を確かめる。ベッドにしては、妙にざらざらしている。
「うぅ……。体の痛みはないけど、頭が重い……」
ユウキはゆっくり目を開けた。星空が目の前に広がっている。
夜だという以前に、外で寝ている事に違和感を覚える。
何より見えている星の数が多い。
自分が住んでいる場所は、こんなに星は見えない。
何より、月明り以外周囲を照らす明かりがない。
「どこだ……? ここ?」
ユウキは立ち上がって、周囲を見渡した。
見覚えの無い場所だ。辺りには木造建築が並んでいる。
街灯らしいものも見えず、暗闇で遠くの様子が分からない。
ユウキはスマホのライトを使おうとした。
そこで気が付く。手を入れるポケットがない事を。
「へ? え!? ええええ!?」
意識が覚醒したユウキは、自分の格好を理解した。
上着がない。ズボンもない。靴も履いていない。
剣も銃もない。あるのはパンツだけだ。
「裸一貫サバイバルにしても、説明がなさ過ぎ!」
異常事態に思わず、叫んだユウキ。それが悪かった。
叫び声を不気味に思った人が、その場に駆け付ける。
彼の姿を見るなり、持っていた提灯を落として呆然とした。
「へ、へ……。変態だああああああああ!」
その叫び声で、更に人が集まる。
中には騎士の様な格好をした人物が、武器を構えている。
「銃刀法ないの? って言うかここどこ? どうなってんの?」
ユウキは混乱したまま、衛兵に捕らえられた。
そのままなし崩しに、牢獄に入れられて。
数時間後、飛竜に乗った聖騎士に鎖でぶら下げられる羽目となった。
***
「ふわぁ~。記憶の整理完了っと」
ユウキは牢獄の中で、手を鎖に繋がれていた。
上級騎士に捕らわれた後、疲労が溜まって眠ったようだ。
寝たままの自分を起こさず、騎士は牢獄にぶち込んだらしい。
「その優しさ、泣ける」
ユウキは動ける範囲を確認する。
鉄格子に近づくことすらできない移動範囲だ。
「装備なし、仲間の救援なし、一文無し。さてと、どうするか」
~ユウキのスーパーナビ~
ユウキ「ここからは、僕と一緒に舞台やキャラについて勉強だ!」
蒼「今日はどんな情報?」
ユウキ「今回紹介するのは、この情報だ!」
『冬木ユウキ』
ユウキ「身長一五七センチ。体重四十七キロ。超能力と剣術を使って戦うヒーローさ!」
蒼「一撃の威力より、手数でダメージを与えることに特化しているね。分身など連続で攻撃するのが得意なのよね?」
ユウキ「父から受け継いだもの。それは誇りと諦めない意志だ!」
蒼「でも諦めたから、今掴まっているのよね?」
ユウキ「あぁ! 言い訳出来ねぇ!」
ユウキ&蒼「次回も、宜しく~!」




