第4話 浮遊遺跡での接触
蒼達は遺跡に近づいてみた。
まだまだ遠くにあるとはいえ、近づくとかなりの大きさだ。
メカニックの蒼は、浮遊遺跡に興味津々。
「凄い……。推進装置とかないのに、自然に浮いている!」
「Hey。古代遺跡に機械があるわけないだろ」
「うるさい。どうやって浮いているんだろう?」
あの巨大な遺跡を持ち上げるには、相当な浮力が必要だ。
不思議な力で済ませれば良いが、それが出来ないのが科学者が性。
何とかして解明したいが、分析する機械を忘れた。
「なあ、蒼。感じないか? 体が軽くなったのを」
「え? あ! 確かに……」
遺跡に夢中で全く気が付かなかったが。
いつもより、体に感じる重さが軽い。
眠っている筋肉が目覚めた。訳ではなさそうだ。
蒼は軽くジャンプしてみた。ちょっと飛び上がるつもりが。
いつもより高く上昇し、ゆっくりと降下していく。
「ユウ。ここら辺だけ、重力が軽いみたいだよ」
「ああ。これで浮遊している謎は解けたな。行き方も」
「うん。地球の引力を均衡するように……。人工衛星と同じ原理で浮いているんだね」
蒼の予想では、遺跡に近づくほど重力が弱まっている。
遺跡内部はほぼ無重力と言っても良いだろう。
空気の濃さは変わっていない。一体どんな技術なのか。
蒼は早く遺跡に向かいたくて、仕方がなかった。
ユウキがやれやれと、首を振る。
「OK! じゃあ向かおうか」
ユウキは高くジャンプして、浮遊遺跡周辺の岩にしがみ付いた。
連続でジャンプし続ければ、遺跡に辿り着けるだろう。
蒼は高所恐怖症ではないが、やはり高さがあると恐怖を抱く。
「ユウ。下は見ない方が良いよ」
「落ちても死なないって分かっているんだけどね……」
本能が高さから落ちる事に、恐怖を感じる。
少しでも足を踏み外せば、最初から登り直しだ。
蒼達は恐怖心に耐えて、浮遊遺跡まで辿り着く。
浮遊遺跡は近くでも見ると、縄文土器が見当たる。
地層自体も、かなり古い時代のものだ。
「こんな太古の時代からある遺跡に、なんでこんな機能が?」
蒼は即座にデバイスを取り出して、解析をした。
まさか魔法があるとは思えない。
「まあ、そもそもなんで今更浮遊したのかって話だがな」
「この反応……。もしかして一種の反重力」
「Way。あそこに誰か倒れているぞ」
ユウキは蒼の前に立って、警戒を強めている。
彼の言う通り、目の前に白い髪の毛の少年が倒れている。
蒼からは顔が見えなかった。
ユウキは誰だか分かったらしく、慌てて少年に駆け寄る。
近づくと蒼にも判別が出来た。彼はユウキの友人だったはず。
「吹雪! 大丈夫か!?」
倒れていた少年は、雪道吹雪。
蒼やユウキと同じ学校に通う、中学生だ。
胸元を刺された形跡があり、更に崖から突き落とされた様だ。
「ユウ! 傷の様子は!?」
「急所は外れているが、出血が酷い。早く病院に連れて行かないと……!」
血がまだ乾いていない。
吹雪を傷つけた人物は、まだ崖の上に居る。
今から追いかけてとっちめたい気持ちと、吹雪の治療を先決したい気持ち。
ユウキはその葛藤が、流れているのだろう。
幸い二人居るので、両方対処することは可能だ。
「ユウは病院に行って! その方が早い!」
彼は専用の靴と異能力で、素早く移動できる。
浮遊遺跡に救急車を呼べない。
彼を助けるには、その方が手っ取り早いだろう。
「襲撃者は私が追い詰める」
「……。一人でやれんだな?」
「頑張る」
出来ると断言できなかった。
宣言してしまえば、また失敗する事をが許されなくなる。
ユウキは心配に思いながらも、吹雪を超能力で抱えた。
下手に刺激しないようにゆっくり持ち上げて、崖まで走る。
一瞬蒼に振り返ると、サムズアップして浮遊遺跡から下りた。
「この上に一体誰が……?」
蒼は浮遊遺跡をジャンプして、崖上に向かった。
幸い遺跡内も重力が浅く、連続ジャンプで垂直に登れる。
崖を上り切る直前で、蒼は動きを止めた。
まずは崖上の人物を、確かめる必要がある。
頭だけを飛び出して、様子を確かめる。
「おのれ……。この外道が……」
崖上には二つの人影があった。
一人は先ほど飛んでいったばかりの、ネガリアンだ。
もう一人は剣を持って、金髪のロングヘア―の少女。
赤いカチューシャをつけて、青いワンピースに白いエプロン。
冷たい印象を受ける青い瞳で、倒れるネガリアンに刃先を向ける。
「他愛もないですね。この程度で世界征服とは」
金髪の少女は、これまた冷たい口調で言い放った。
少女の姿に見覚えがある。彼女はユウキの姉だ。
確か冬木アリスと言ったはず……。面識は薄いが、覚えている。
知り合いの姿が見えて、蒼は動揺した。
その拍子に岩を落として、音を鳴らした。
「誰です!?」
アリスが即座に蒼に、剣を向けた。
彼女は観念して、崖下から姿を見せる。
「ど、どうも……」
「子供がこんなところで、なにをしているのです?」
アリスは呆れた口調で、剣を引っ込めた。
彼女もそんなに歳が変わらないだろうと、蒼は心の中でツッコミを入れた。
アリスの手には、黄色に光る石が握られている。
間違いない。リアクターだ。遺跡から回収したのか、ネガリアンから奪ったのか。
彼女は大事そうに、リアクターを握っている。
それが何なのか知っているかのように。
「アリスさん。私は蒼と言います。貴方の弟の、クラスメートです」
「ああ。ユウキの……。通りでチョロチョロする訳ですね」
少々とムッと来たが、ここは堪える。
アリスが厳格で、石頭だとユウキが良く愚痴っていた。
軍の訓練生である彼女は、一般人が関わるのを良しとしないのだろう。
「おのれ! 小娘が! このままで済むと思うなよ!」
アリスの注意が逸れた瞬間、ネガリアンは立て直した。
懐からスイッチを取り出す。
「我が万能空中移動要塞! フォートレスキャリアを見せてくれよ! バカ犬っとな!」
「ああ。ポチだけに?」
ネガリアンがスイッチを押した途端。
周囲の雲が真っ二つに斬れた。
浮遊遺跡よりもっと高くから、何かが下りて来る。
戦艦だ。それも巨大なんてレベルではない。
戦闘機どころか、中型の戦艦も収容できるレベルだ。
「見たか! リアクターが全て集まったあかつきには、この要塞で世界を征服してくれる!」
「なるほど。ただのビックマウスではなかったようですね」
アリスは巨大戦艦を見ても冷静だ。
彼女の声からは、まるで感情を感じられない。
「余裕なのも今の内じゃ! これでも食らうが良い!」
ネガリアンはジェットパックを広げて、浮遊遺跡から飛び出した。
同時に戦艦の先端が、緑色に光始める。
「くっ……」
「超高火力、荷電粒子砲! ネガリアンレーザー、発射!」
「だ、だっせぇ……!」
そんな場合ではないと分かっていても、蒼はツッコミを入れた。
その直後、緑色の光線が戦艦から放たれる。
あの出力を、盾で吸収するのは不可能だ。
光線は蒼達を直接狙わず、浮遊遺跡の中心を攻撃した。
その直後、浮遊遺跡は爆音と共に崩壊を始める。
「うわあ! まだ調べてないのに!」
足場が崩れて、蒼は地上に落下を始める。
更に爆発の余波で、吹き飛ばされた。
崩壊した岩山に頭をぶつけて、意識が朦朧とする。
彼女は低重力下の中、ゆっくり落下した。
薄れていく意識の中で浮かんだのは、ユウキの顔だった。
「ユウ……。助け……」