第16話 決戦、冬木親子
「鬼ごっこの終着点には、相応しいじゃないか」
光夜と巫女はコロニーの奥に辿り着いた。
そこは居住スペース。交流広場と呼ばれた場所だ。
地球にとって公園みたいな場所で。
光夜と巫女はいつもこの場所で遊んでいた。
互いの両親に温かく見守られながら。
「あの日……。この場所で襲撃が起こらなけらば。運命は変わっていたのか?」
コロニーの窓から、地球を眺める男性。
冬木登市は瞳に青き星を映していた。
「知るか。起きちまったもんに、イフなど存在しない」
「そうだな。もはや我らの言葉は不要か……」
登市は振り返り、コートの裾を羽根の様に広げた。
強く赤い光を発しながら、胸を開く。
直後に地面が揺れる様な感覚がして、足元がふらつく。
本当にコロニーが揺れているのではない。
登市の持つ能力。相手の脳に作用させる、疑似五感がそうさせている。
感覚も操るため、非常にリアルな幻覚に襲われる。
「アンタが相手なら、最初からギア上げていくぜ!」
光夜は新たなオーラを、身にまとった。
未来と戦った時と違う。金色の光を体から発する。
更に瞳も金色の変化し、コロニーを本当に揺らす。
「お互い手の内を知っているんだ。小細工は抜きだぜ!」
光夜は一気に、登市へ高速移動した。
強力な能力だが弱点がある。
疑似感覚は一度にひとつしか、引き起こせない。
相手の脳に影響を与えるには、赤い光を浴びさせる必要がある。
幻覚は一定時間で消滅する。
現在の疑似感覚に耐えて、次の光を放てなくすれば良い。
「やはり正面から攻めてきたか。分かり易い奴め!」
地面から黒い何かが生えてくる。
何かは登市の形をしているが、真っ黒でドロドロな見た目だ。
光夜の剣はドロドロの怪物に阻まれた。
「なっ!? 幻影は一回に一つじゃ……」
「そいつは幻影じゃない。工藤力に作らせた、私のクローンだよ」
地面の揺れが収まったと同時に。
登市は天井まで飛んだ。
「意志も強度も弱いが。私の補佐をするように命令してある」
「しまっ……!」
光夜と巫女は、登市の発する赤い光を浴びた。
その瞬間、首を絞めつけられる感覚が喉に来る。
登市の得意能力の一つ。疑似窒息で相手を拘束する技だ。
「罠にかかった所で、たっぷり料理をしてやるか!」
登市は腕に魚のヒレの様な物を装備した。
手刀を振り下ろして、光夜の頭上に振ってくる。
光夜は首を押さえながら、頭に力を込めた。
頭に直撃した手刀は、真っ二つに折れる。
登市が舌打ちと共に、光夜から距離を取る。
同時に窒息感覚がなくなり、体が動ける様にある。
「相変らず石頭で」
「そいつがナマクラ過ぎるんだよ」
光夜は巫女へ振り向き、互いに頷いた。
左右に分かれてせめて、それぞれの剣を構える。
一人ずつの攻撃では、クローンに阻まれる。
左右からの同時攻撃で、登市の幻影を封じる。
十分距離を詰めたところで、同時に剣を突き刺しに入る。
「命令は自動で行われる。本体を守れとな」
光夜と巫女、双方の前方に先ほどの黒い怪物が出現。
二人の剣はクローンに、阻まれた。
光夜は即座に剣を離し、クローンを踏み台に飛んだ。
二丁拳銃を構えて、登市に銃口を向ける。
だが天井からクローンが出現した。
光夜は四体のクローンに、四方を囲まれる。
「面倒な事しやがって……」
光夜は空中で回転しながら、銃を発射した。
連射攻撃で、クローンを同時に撃破する。
即座に二本目の剣を引き抜き、登市に投げつけた。
彼が次の光を発する前に、剣が腕に刺さった。
地上に降り、クローンに刺さった剣を引き抜く光夜。
登市に走り、最初の剣も突き刺そうとする。
「ちっ……」
登市は腕に刺さった剣を引き抜き、光夜に投げた。
飛ばされた剣を、二本目の剣で弾き鞘に納める。
登市と距離を詰めたところで、光夜はもう一本も鞘に納めた。
登市の襟をつかみながら、金色に光る拳で顔面を殴る。
反対側の拳でも顔面を殴り、彼の頭を掴んだ。
「どうした? 全てを破壊するんじゃなかったのか?」
光夜は登市の腹部を殴った。
登市は背後に飛ばされ、壁に衝突する。
「もうクローンを突破するとはな。流石に想定外だ」
「科学者にしては、計算が甘いんだな」
「仕方ない。本気で戦ってやるか!」
登市は最も強い光を、周囲に放った。
地面が割れて、紫の異空間の様な場所が広がる。
これは登市が見せる幻覚だが、地面が消えた感触は本物そっくりだ。
本当は地面があるのが分かっていても、脳が処理できない。
光夜達はバランスを崩して、倒れそうになる。
「そいつは良かった。本気を出す前にぶちのめすところだったぜ!」
光夜は両手に二本の剣を、握りしめた。
金色の光を背中に集め。光の翼を出現させる。
足場が消えた疑似感覚を、浮遊感が打ち消していく。
「一生過去に囚われていろ。次の世代の邪魔をしない場所でな!」
「まさか、そんな技を……!」
光夜は登市の両脇に、剣を刺し込んだ。
そのまま体位を変えて、ドロップキックで吹き飛ばす。
「くっ! 貴様は憎くないのか!? 母さんを裏切った世界を! 仲間を奪った奴らを!」
登市は強引に刺さった剣を、引き抜いた。
二本の剣を装備して、浮遊しながら光夜に飛び掛かる。
「復讐したくないか? 全てを壊したくないか?」
「俺の趣味じゃない」
光夜は金色に光る拳で、登市を叩き落とした。
同時に幻覚が消えて、床が元に戻る。
叩きつけられた登市の近くに降りて、剣を回収する。
「チェックメイトだ。もうコンテニューはなしだぜ」
光夜は拳銃を構えて、登市につきつける。
「ふっ……。戦いに勝つだけが、勝利ではないぞ。息子よ」
登市がニヤリと笑った瞬間。
コロニーが大きく揺れた。
「なんだこの揺れは?」
「光夜! 大変だよ! 外を見て!」
巫女に指摘され、光夜は窓から外を眺めた。
地球に向かって、コロニーから切り離されたものが落下している。
「あれはブラッドローズか? なんで……」
「バカが! 最初からキャノンを発射する気などないわ!」
立ち上がろうとした登市の膝に、光夜は銃撃した。
「エネルギーを蓄えたブラッドローズを落とし。その余波で地上を壊滅させる」
キャノンを発射するより、被害は少なめになるだろう。
だが登市の言う通り、落下の爆発で人の住む場所はなくなる。
彼は初めから制御装置など、必要としていなかった。
「私はお前達と戦う前から、復讐を完遂させていたのだよ!」
「自分の妻を利用した、復讐をか?」
「私にとって愛した妻は……。四十年前の未来だけだ!」
登市は執念で、再び立ち上がってきた。
既に両腕を貫かれ、足も銃撃されているというのに。
ここまで来てまだ戦う意思を、狂気を見せている。
「宇宙空間ではどうすることも出来ないが。お前なら万が一が起こる」
登市はブラッドローズが地球に落ちるまで、足止めをするつもりだ。
地面と天井から、複数のクローンが生え始める。
「クソ親父。どうやら万が一は起きたようだな」
光夜は窓の外に、銀色の光を見た。
フッと笑いながら、二本の剣を構える。
「どういう意味だ?」
「地獄で永遠に方程式を解いてな!」
光夜は黄金の光を纏いながら、二本の剣を突き出した。
回転しながら水平移動して、大量のクローンをなぎ倒してく。
光夜の攻撃はクローンを貫通して、登市に届く。
「ぐぶっ!」
登市は剣が作る衝撃波に吹き飛ばされた。
そのまま窓を突き破り、宇宙空間に投げ出される。
「バカな……! 私は終わらん! まだ終わらんぞ!」
割れた窓を掴み、執念を燃やす登市。
光夜は巫女を抱えて、背後に銃弾を放った。
「悪くない四十年だったぜ」
銃声と共に、光夜は部屋から脱出した。
隔壁を下して、割れた窓の影響から逃れる。
「ぐおおおおお!」
登市の悲鳴が、隔壁が下がり切ると同時に途切れる。
光夜は銃をホルダーに仕舞った。
「ようやく終わったぜ。俺の長い仕事が」




