第13話 三つの別れ道
「ここに来るのは、四十年ぶりだ」
冬木光夜は今年で四十二歳になる。
物心つく前、コロニーから田舎町に引っ越した。
工藤薫。巫女の母親の手引きによって、彼女の祖父に育てられた。
だからあの事件に遭遇せず、今日まで過ごしてこられた。
正しい大人に恵まれたからこそ、道を間違えずに来た。
「二歳の時以来なのに。懐かしさを感じるな」
「私も。戻ってきたぞぉって感じがする」
幼馴染巫女とは、同じ場所で一日違いに生まれた。
幼い頃から一緒で、いつも互いを分かり合っていた。
「干渉に浸っている暇はねえな。さっさと進もう」
「でも父さん。どこに誰が居るか分かんねえぜ」
コロニーの発着点から、道は三つに分かれている。
それぞれ防衛用の装置、道の怪物、何もないで分断。
「瑠璃が言うには、起動装置は三つあるらしい」
「ええっと。それぞれが持っていて、奪い合っているんだよね?」
「ああ。工藤力は生物学者。草月風香は軍人。クソ親父は一匹オオカミだ」
それぞれの道に居る存在が、その先の人物を指している。
力と風香が争っている理由は不明だが、わざわざ登市に協力しているのだ。
お互い、腹積もりがあるのだろう。
「じゃあ、誰が誰をぶちのめす?」
ユウキの問いかけに、メンバーは迷いなく道を選んだ。
「クソ親父は俺の獲物だ。二十年以上の仲だからな」
「光夜のサポートは私にしかできないし。一緒に行くよ」
光夜と巫女は真ん中の道。敵がいないルートを選ぶ。
冬木登市と今度こそ決着をつけるつもりだろう。
「じゃあ僕は、蒼と一緒にパーティと行こうか」
「私のおばあちゃん、怖いらしいから。ビビらないでよ」
「安心したぜ。遠慮なくぶっ倒せそうだ」
ユウキは蒼を引っ張って、警備ロボのいる道を選ぶ。
その先にはかつての最高司令官。草月風香がいるだろう。
ある意味この戦いの元凶ともいえる人物だ。
「では我々は、こちらの道を行きましょうか」
アリスが先頭に立ち、吹雪とクロを連れていく。
吹雪は不満そうに、両腕を組んでいた。
「なんだこの、あまりものみたいな組み合わせは……」
「実際あまりものだよ。工藤力なんか、小物も良いところだぞ」
アリスの前方には、爪の生えた人型の怪物。
生物学に長けているなら、この怪物も生体兵器なのだろう。
アリスは剣を回しながら、怪物に構えた。
「肩慣らしには丁度良いですね。散歩してあげましょう」
「アリスさん。犬みたいに言わないで下さい。人型です」
「雪道、一つ教育を。首輪と鎖があれば、どんなものもペットですよ」
アリスは剣の柄の底を、ぽちっと押した。
すると剣が変形して、鞭のように曲がり始める。
アリスは紐の様に動く剣を、怪物の首に絞めた。
怪物を引っ張り、自分に近づかせる。
再び柄の底を押して、剣を元に戻す。
怪物に剣を突き刺し、柄を捻って剣をドリルの様に回した。
「うわぁ! 酷ぇ絵面だ! トラウマになりそう!」
「この程度で吐き気がするなら。お前はさっさと、帰りなさい」
アリスは鞘の底を長押しした。再び剣が変形。
鞘と共に左右に分かれて、双剣の様な形になる。
この変形の最中、剣が刺さっていた怪物の体を真っ二つにした。
二つに分かれた剣は、アリスの甲に装着される。
まるで一方爪の様になった剣を、アリスは次の怪物に刺した。
「鋭利状のものを刺し込む! 狙いは胴体!」
アリスは串刺しにした怪物を、壁に押し込んだ。
剣の刃から電流が流れ、怪物を痺れさせる。
「刺激物を流し込み! 内部の細胞を破壊!」
怪物は体が崩壊して、溶け始めた。
「グロイのは嫌いだから、激しく飛ばす!」
「え?」
アリスは手の甲の剣を、ミサイルの様に飛ばした。
連鎖的に他の怪物に刺さりながら、突き進む。
最後の爆発を起こして、通路の怪物たちを撃破する。
「終わったら帰って来なさい」
発射された刃が戻ってきた。
変形して再び件の形に戻り、自動的に鞘に収まる。
「アンタの剣、どうなってんだ!?」
「自作」
「そんなことは聞いてねぇ!」
吹雪は心底恐怖を感じた。
エックス事件の時、アリスが持っていた剣は普通のロングソードだったはず。
いつの間にあんな、魔改造を受けたのだろうか。
「殺意高すぎません? もうちょっとマイルドに……」
「戦いに綺麗も汚いもありません」
アリスは剣を振って、付着した血を払った。
呆然とする吹雪を放って、前に進む。
「こりゃ、余りもんの余りもんを倒す羽目になりそうだ」
吹雪はげんなりしながら、アリスの後をついていく。
現状今回、まだ一戦も出来ていない。
他のメンバーと違って、装備の新調もなしだ。
代わりと言ってはなんだが、新し技なら覚えてきたが。
披露する機会があるか、分からなくなってきた。
「もうアリスさん、一人で事足りるのでは?」
「だから言いました。お前など盾だと」
「この野郎……。今度は盾と言い切ったな……」
吹雪はユウキとは親友だが、その姉と殆ど会話したことがない。
少し組んで分かった事だが、自分はアリスと相性が悪い。
明らかに他の者より、下に見られている気配がある。
「そんなに力む必要もないでしょう。我々は余りもの担当ですから」
「そうですね。一般科学者らしいので。多分もやしだろうし、六十代だし」
「科学者に対する偏見が凄いですが、小物には違いません」
アリス達三人は、怪物を蹴散らしながら先に進んだ。
通路を抜けると、広い空間に出る。
窓があり周囲の風景を一望できる。
「工藤力。この剣の錆にされたくなければ、さっさと出てきなさい」
「アリスさんは本当におっかないぞ。肉片にされる前に出てこい」
アリスと吹雪の声に呼応したかのように、影が地面に降り立った。
白髪を生やした老人だ。筋肉質の男性であり、強面である。
ツリ目でアリス達を睨みながら、半裸のまま大剣を背負っていた。
「研究中に邪魔をするな。誰が誰を肉片にするって? もう一遍言ってみろ」
「こ、こ、こ……」
吹雪とクロは同時に体を震えさせた。
目の前の老人は、工藤力なのだろう。
研究者と聞いていたが、大量の銃器や刃物を持つ姿は傭兵のようだ。
「怖ぇ! ゴリマッチョ! もやしは冗談だったけど、予想外だぁ!」
吹雪は強面巨漢に、怖がっていた。
威圧感のある男性は父親で慣れていると思っていが。
これは怖い。ユウキの父親以上に怖い。
「怖がるのではありません。戦士たるもの、いかなる時にも冷静に」
「流石アリスさん! 俺らと違って、まったくビビってない!」
アリスは剣を構えて、力の前に立つ。
「私も舐められたものだな。子供だけでここに来るとは」
「お前の様な小物。私達だけで十分です。って……」
アリスは鞭状にした剣で、クロを縛った。
自分の近くへ彼を引き寄せ、力に向かって蹴り飛ばす。
「コイツがさっきほざいてました!」
「はい! やっと来た出番が、見るからにかませですぅ!」
クロは勢いに乗ったまま、力に近づく。
力はその太い腕で、片手で大剣を持ち上げた。
吹き飛んでくるクロに向かって、剣を振り下ろす。
「クソ! やってやるぞ!」
クロは左腕で、大剣を掴んだ。
「僕の左腕は死の腕だ! 剣のエネルギーを吸収する」
「ほう。で?」
力は片腕でバズーカを装備した。
銃口をクロに密着して、引き金を引く。
「あぎゃあああ!」
クロは弾丸と共に、壁に直撃。
その場で爆発をしながら、壁からずり落ちた。
「コイツも余りものとか言ってました!」
「アリスさん! 本当は怖いんじゃ!?」
吹雪の事も蹴り飛ばしたアリス。
涙目になりながら、吹雪は覚悟を決めて技を構える。
「余りものだと? 笑わせるな」
力は剣を地面に突き刺し、両手に拳銃を装備した。
吹雪に銃口を向けて、左右から時間差で連続攻撃を行う。
吹雪は氷の盾を生成し、銃弾を防いだ。
「ほう。少しは骨があるな」
「やる気はないんだけどね!」
「なら少しだけ、本気を出してやるか」
吹雪は飛びながら、氷の剣を生成して装備。
勢いに乗り、力の胴体に目掛けて剣を突き刺す。
だが力に近づく前に、吹雪は何かに止められた。
背後から引っ張られる感触がする。
吹雪が振り返ると、黒い人影が自分を掴んでいた。
「自他共に影を操る。それが私の能力だ」
力は吹雪の剣、その影を実体化させた。
空中に現れた剣がひとりでに振りまわり、吹雪を吹き飛ばす。
「グハァ! 意外と攻撃力高いな!」
吹雪は剣を粉砕されながら、壁に叩きつけられた。
それを棒立ちで見ていたアリスは、欠伸をする。
「敵の能力も分かりましたし。本気出しますか」
「悪魔だ! 悪魔がここにいるぞ!」




