第3話 オーシャンアドベンチャー
蒼達は海岸に居た。当然ここまで、電車で来た。
夕日が地平線の彼方に、沈みかかっている。
海開きもされていないのに、潜る事は出来ない。
ただでさえ水温の関係があるのに、暗くなったら探すどころではない。
蒼としてはさっさと次のリアクターを回収したかった。
「で、どうやって回収するよ? 僕は金づちだぞ」
「勢いだけで飛び出したんだね。計算力なさ過ぎ」
蒼は海の中にあると分かった時から、作戦があった。
とても泳いで行ける距離でもない。
中学生に船を貸してくれる人が居るとも思えない。
そこで蒼が考えたのは、リアクターの性質だ。
リアクター同士は引き付け合い、反応し合う。
こちらには二つのリアクターがある。
「ユウ、リアクターを取り出して」
「ん? どうして?」
「リアクターは人の想像力を吸収し、ある程度具現化する性質があるの」
蒼は長い解説の末、リアクターの性質を理解していた。
リアクターは手に握るだけで、人体に影響を与える。
悪影響はなく、逆に脳からの反応を吸収することもある。
磁石の様にリアクターが引き付け合う事を想像すれば。
それが現実となって、海中のリアクターを引き寄せられるのでは。
蒼はそう考えて、二つのリアクターを使おうとした。
「イメージして。リアクターが引き寄せられるのを」
「何か掛け声入れた方が良いか?」
「いらないって」
蒼とユウキは同時にリアクターを取り出した。
目を瞑ってイメージを広げ、海の中からリアクターが引き寄せられる事を願う。
思った通り、リアクターから熱を感じる。
人の意志を読み取って、力を発揮するようだ。
自分の推測が正しければ、海からリアクターが飛び出してくる。
水しぶきが飛ぶ音が聞こえた。蒼は目を変えて、飛んでくるであろうリアクターに備える。
「この展開は予想外だぜ」
音はリアクターが飛び出した音ではなかった。
海が真っ二つに割れて、陸地が出来ている。
真っすぐの道ではない所、リアクターまで最短距離を開いたのだろう。
「えぇ~。この道通るの? 途中でザバンってならない?」
「心配なら僕一人で行くけど」
「金づちを引き上げる方が大変だね」
蒼は観念して、海に出来た道を通ることにした。
魚が飛び跳ねていない。どうやら一緒に水と移動したようだ。
早く戻さないと、環境破壊になるなぁっと蒼は心配になった。
一本道なので、リアクターを探すのは苦労しないだろう。
問題は回収した途端に、海が元に戻らないかだ。
「ねえ、そう言えば。今リアクターの持ち主ってどうなっているの?」
蒼は移動しながら、現状を確かめた。
全部で六つあるらしいリアクターを、様々な人物が集めている。
ユウキと自分の分以外に、動いている反応が二つあった。
「一個はネガリアンが、もう一個はエックスが持っている」
「エックス?」
「この間、市役所で暴れた怪物の事」
テレビに映っていた、白い怪物の名前らしい。
市役所の騒動があってから、そう時間も経っていないわりに随分と詳しい。
大方、また首を突っ込んで、色々知ってしまったのだろう。
冬木ユウキとは、そう言う人間だ。
幼い頃から何度も危険と遭遇して、怒られた所を見ている。
「ユウはリアクターを集めて、どうする気? 軍にでも預けるの?」
「いや。軍は信用できないね。一回襲撃されているから」
多分この先のことは考えていないのだろう。
ネガリアンとエックスにリアクターを渡すとマズイ。
だから集めていると言ったところか。
「気をつけろよ。深くなるにつれ、坂道が急になっているからな」
「大丈夫。滑らないし」
「that's great! 芸人が喜びそうだ!」
アンタは滑っているけどね。蒼は皮肉を心の中で言った。
「反応が近づいているよ。あと少しで……」
レーダーを確認して、蒼は気が付いた。
水中の壁に巨大な影が動いたことを。
気のせいだと思いたいが、二度見しても影が聞こえる事がなかった。
「こ、こんにちは……」
蒼が挨拶した瞬間、その影は飛び出してきた。
ユウキが咄嗟に彼女に飛びついて、巨体を回避する。
飛び出した生物、シャチは地面に着地するとその場で暴れまわった。
「うわああ! なんでこんなところにシャチが居るの!?」
シャチが飛び出した瞬間、左右から水があふれ出た。
割れた道が元の海中に戻ろうとしている。
シャチはバタバタしながら、蒼達に襲い掛かってきた。
「走れ! 奴は哺乳類だから、地上でも息出来るぞ!」
「それはクジラ! でも走る!」
二人は迫り来るシャチと、海水から逃げ出す。
幸い後ろから海の道が崩れているので、進むぶんには問題がない。
しばらく走った後、緑色に光る石を発見。
「回収するのは良いけど! これどうやって戻るの!?」
「来た道を戻るしかないだろう」
ユウキはリアクターを回収した。
直ぐ傍までシャチと海水が迫ってきている。
彼は蒼の手を握りしめると、緑色に光りながらジャンプした。
「海上を取っていくけどね!」
念力を使って、しばらく空中浮遊が出来る。
それがユウキの特徴の一つだ。
「でも長時間飛べないんじゃなかった?」
「うん。この先は、Not thinking!」
「やっぱりぃ!」
ユウキの高度が下がっていく。
もう一度リアクターを使おうにも、蒼一人の力じゃ足りない。
ユウキは念力中、集中力を使っている。
こんなど真ん中で落下しても、誰も助けに来ないだろう。
もう日が暮れようとしている上、海岸から離れ過ぎている。
「もっと速度上げられない! 海上を走れるくらいにさ!」
今にも落下しそうなユウキに、蒼は必死で訴えた。
「海上を走る……! それだ」
ユウキはリアクターを二つ、握りしめた。
念力を止めて、緑の光が体から消える。
真っ逆さまに海に落下する中、リアクターが赤い光を発する。
「ブースト! ファイアー!」
「半分以上パクリだぁ!」
ユウキは赤い光を帯びながら、海上を平行移動した。
高速で動きた影響で、水面を走れるようになったのだ。
水しぶきを上げながら、海上を高速移動。元の海岸まで戻ってきた。
ユウキは浜場で着地。息を切らしている。
どうやら、体力の消耗が激しい技のようだ。
「ああ! もう! アンタと居ると飽きないわね!」
「それ、褒めているの?」
「一応ね」
蒼は文句を言いつつ、楽しかった。
幼い頃から冒険することは好きだ。
子供の頃も近所に冒険と称して、秘密基地を作ったものだ。
「これでリアクターは三つになったな」
「未発見の物はあと一つだけだね。ちょっと調べてみる」
蒼は再びレーダーを取り出した。
動いていないリアクターの反応を探る。
少し遠く離れているが、十分レーダーで拾える範囲だ。
「少し離れているけど、電車で二時間もかからない位置にあるよ」
「へえ。次は陸地なら良いな」
「ここは縄文時代に作られた疑惑がある遺跡だね」
最近発見された遺跡らしく、考古学者たちが調査している。
縄文土器が使われていたので、恐らくその時代のものだろう。
本当に最近見つかったので、世界遺産には登録されていない。
「なら善は急げだ。今日中に全て集めちゃおうぜ!」
「うん。何もなければ、回収しても。帰宅時には八時を回らないはずだよ」
蒼達は駅に向かって、電車に乗り込んだ。
幸い乗り換えなしで辿り着ける目的地だ。
辿り着いたのは無人駅。周囲に建物はあるが、少し離れたら何もなくなる。
「う~ん。これぞまさに、田舎の町だね!」
「いや、酷い所は周囲に建物ないし。電車も三時間に一本だぞ」
なにやら苦い思い出があるらしいユウキ。
それを無視して、蒼はレーダーを再び見つめた。
反応が近い。だがリアクター同士が、反応する素振りはない。
レーダーの欠点は高低差が分からないことだ。
平面なので、地下か空か分からない。
「う~ん。地中に埋まっているのかな?」
「それか……。空の上だったりして」
ユウキがほぼ確信を得ながら、空を見上げていた。
蒼もつられて、彼の視線の先を見つめる。
すると、明らかに異物なものが浮かんでいた。
「ねえ。あれって観光名所? それともムー大陸?」
「だったらニュースになっているね。リアクターはあの中だよ」
「Really? これじゃあ回収できないぜ」
浮遊遺跡は飛行機と同じ高さくらいまで、浮かんでいる。
ユウキの浮遊能力じゃ、そこまで飛べない。
「あれ、どう見ても人工物だね」
蒼は遺跡を観察しながら、作られた建物を見つけた。
「人が作ったなら、出入りできる方法があるはず」
「取り合えず近づいてみようか。何か分かるかもな」




