第9話 第二幕
冬木光夜は妻を連れて、壊れた軍基地に向かった。
一週間前、ワイとの騒動で爆発した雪山の基地。
その地下室は無事だった。
地下室には傾も知らない、コンピュータがあり。
今も黒幕の手によって、稼働している。
「さっさと片付けて帰るぞ」
「了解。撃ち洩らした敵の処理くらいはするよ」
二人は逃亡した、冬木未来を追っていた。
彼女はこの場所で、黒幕と合流するはずだ。
その黒幕こそ、光夜が追い求めていた真の敵だ。
投降した傾からも、情報は得ている。
光夜は剣を構えながら、地下室へと向かった。
「敷地の広さの割りに、随分と狭いんだな」
光夜は地下室、巨大コンピュータがある部屋だ黒幕と対峙する。
赤黒いコートを羽織って、悪魔の様な黒い腕を持つ男性。
赤く目を光らせながら、白い短髪と邪悪な笑みを見せる。
その隣には戦場から脱出した、未来の姿がある。
二人は待ち構えていたとばかりに、光夜を見てニヤついた。
「久しぶりだな。クソ親父」
「ほう。感動の再会に、汚い口を叩くではないか。息子よ」
冬木登市。完全生命体、オメガとゼットを作らせた黒幕。
彼は傾達にデータを、提供した。
強大な兵器になりそうな部分だけを、摘出して。
本来の意図である、リアクターとの同調は省かれていた。
彼らを使って、自分の計画を進めていたのだろう。
「お喋りは苦手なんだ。さっさと始めようぜ」
光夜はポケットに手を入れた。
携帯を操作して、気づかれぬよう剣を突き出す。
「ククク。そう焦るな。親子喧嘩には相応しい、舞台が必要だろ?」
「"ククク"とは悪役が板についたな。悪いが俺は場所を選ばない性格だ」
光夜は自分の胸を掴んだ。
「アンタらを直接倒せるなら、早い方が良い」
「解せぬな。何故我々の邪魔をする?」
登市はいっそう、赤い瞳を輝かせた。
腕と連動して、悪魔そのものに見えてくる。
「我々は仲間の仇を討ちたいだけだ。何が悪い?」
「無実の人間を殺すことは、十分悪いと思うぞ」
「無実な人間などおらんよ。みな何かしら罪を犯している」
登市は空中に浮遊し始めた。
コートを翼の様に、広げてながら胸を開く。
「自分の罪を棚に上げ。他人をののしり合う。醜き者どものだ」
「個人の感想で、世界を滅ぼされたらたまらねえんだよ」
光夜は引き金を引いた。
重い銃声と共に、実弾が発射される。
銃弾は登市の体を透き通り、壁に穴をあけた。
「アンタのタネは分かってんだ。これで四度目だからな」
「随分邪魔されたな。だから慎重に動かざる負えなかった」
目の前の登市が姿を消し、背後に現れる。
相手の脳に刺激を与え、疑似感覚や幻影を見せる能力。
冬木登市はこの能力で、多くの者を翻弄してきた。
「傾には力を、ゼットには意志を研究させた」
背後で登市が、いくつもの分身を作る。
「その結果、私は遂に完成にこぎつけたのだよ!」
「一体何が出来たんだ?」
「残念だが、ここから先は命の有料だ」
登市は未来の隣まで、飛び込んだ。
気が付くと未来は、メモリを手にしている。
ここのデータを回収していたようだ。
登市は手をヒレの形にして、パソコンを切り裂いた。
光夜達に見られたくないデータがあるのだろう。
「時間稼ぎは済んだ。お前の望み通り、お喋りは終わりにしよう!」
「光夜。私達の息子よ。私の子の力を思い知りなさい!」
地下室が振動して、空の輝きが入り込んだ。
振り上げると天井が、消滅している。
銀色の巨人が、一階の床を引っこ抜いたのだ。
その胸には光る石、リアクターが装備されている。
巨人は膝で引っこ抜いた、天井を砕いた。
「ギン。ここは任せたわよ」
「殺しても良いんだな? 母さん」
「許可するわ。もう教育ができる歳ではないみたいだし」
未来と登市は同時に浮遊した。
開かれた空に飛び上がり、そのまま飛び去っていく。
「息子は子に含まれないらしいな。少し傷ついたぜ」
「チビの弟よ! 母の命令だ。大人しく死んでもらうぞ!」
「デカいのは図体だけにしておけよ。力量差を測れないなら、即死するぜ」
光夜は青い光弾を、銃から発射した。
弾はギンと呼ばれた巨人に当たると、その体を吹き飛ばす。
雪山に巨大な巨人が倒れる。
「それに時間稼ぎが終わったのは、こっちだぜ」
光夜はポケットから携帯を取り出した。
巫女に投げ渡して、ジャンプで地上に出る。
「巫女。データ送信が終わるまで、持ってくれ。俺一人で十分だ」
「了解。やり過ぎて、雪崩を起こさないでよ」
「空でやるから、大丈夫だ」
光夜は青い光の線となり、ギンに近づく。
まだ体勢が整っていないギンの足を、片手で持ち上げる。
そのまま上空へ向かって、投げ飛ばした。
光夜は剣を青く光らせて、上空へ振った。
強い風圧が発生して、ギンの体を更に吹き飛ばす。
「俺は遊びも容赦もしない主義だ」
光夜は瞬間移動の如く速さで、ギンの近くまで飛び立つ。
ギンを水平方向に蹴り飛ばす。
再び高速移動で先回りし、背中に発砲。
ギンは更に高く、吹き飛ばされた。
飛んでいく彼に、光夜は手を伸ばした。
「砕け散れ」
光夜の手から、青い巨大な腕が放出された。
青い手は吹き飛ぶギンに追いつき、その体を掴み取る。
光夜が腕を振り回すと、青い腕も同様の動きをする。
光夜はトドメに、ギンを地面に投げ飛ばした。
更に落下するギンの着地地点に、先に辿り着く。
剣を仕舞って、ホルダーがもう一丁の銃を取り出す。
「チェックメイト」
光夜は二丁の銃を、連射した。
全ての弾丸にエネルギーが込められている。
連続で銃撃されたギンの体は、空中で制止する。
その後ゆっくりと着地して、落下の衝撃を押さえられた。
ギンは上半身を立たせ、体を震えさせた。
「な、なんだこの力は……? リアクターなしで何故……」
「理由は地獄で考えな」
「ふざけるな! まだ終わって……」
光夜はギンに背中を見せた。
その背には二本の鞘が背負われている。
そのうち一本の剣が、鞘に納められていなかった。
ギンの真上に青く光るものがあった。
漆黒の剣が青い光を纏いながら、彼の胴体に落下。
体を貫通して地面に刺さる。
「言ったろ。チェックメイトって」
悲鳴ともに、ギンの体は爆発を上げた。
その衝撃で剣とリアクターが、吹き飛ばされる。
剣は回転しながら、光夜の鞘に収まる。
リアクターは彼の手元に落下して、回収される。
爆破後の背後を、光夜は一切振り返らなかった。
「まあ、肩慣らしくらいにはなったぜ」
光夜の戦闘スタイルは、二本の剣と二丁の銃。
更に格闘技を駆使した、複合スタイルだ。
粗削りだった技が加齢とともに、洗礼されて今の強さを得た。
「まずは一つ、回収完了っと」
エックス事件の時、三つのリアクターが行方不明になった。
恐らく全て、登市や未来に回収されたのだろう。
本物の完全生命体組み込み、力を与えるために。
「お疲れ様。こっちも送信が終わった所」
「時代を知らない親父共で助かったぜ」
光夜は基地周辺を飛ぶ、ドローンを見つめた口にした。
ここは本来圏外だが、ドローンが電波を繋いでくれている。
携帯からパソコンにアクセスして、瑠璃がデータを引き抜いてくれた。
壊される前に吸い取りは完了した。
二人が隠したがったものを、白日の下に晒せる。
「解析が終わるまで、次の仕事を片付けるとしよう」
「もう行き先は決まっているの?」
「ああ。浮遊した遺跡の跡地だ。リアクターの力を調べているならな」
光夜は遺跡が浮遊した理由が、リアクターのものだと聞かされた。
恐らく遺跡には、リアクターの力を引き出す仕掛けがある。
残骸だらけとは言え、仕掛けが残されている可能性はある。
「完了はまだだけど、二人の本拠地は分かったみたいだよ」
「聞かなくても分かるよ。アイツらは一生過去に囚われているからな」
「ええ。私達の生まれた場所。スペースコロニーよ」




