第4話 再起
「うわ~。これはまた、こっぴどくやられているね」
ユウキの装備品を見て、蒼が感想を漏らした。
持ち込んだものは、全て破損した。
携帯さえも壊れたので、遠距離会話は無線が頼りだ。
ユウキが瑠璃との合流場所に指定したのは、蒼の工房。
装備の修理は、蒼にしかできない。
修理中に話を聞くために、文句覚悟で集合場所に指定した。
「修理にどれくらいかかる?」
「三時間もあれば」
「早いな!? 剣の修復も頼んでいるんだが」
剣を修理するには、鍛冶屋の様な場所が必要だが。
ユウキにとって、修理するだけではダメだった。
クロに普通の剣は通用しない。
相手の裏をかくためには、新しい機能が必要だ。
その為には機械加工が必要だろう。
「靴の方は昔作った奴だから。短時間かつもっと良いものが出来るよ」
「頼もしい限りで」
蒼は工房のテレビをつけながら、作業を始めた。
どこもかしこも、街が崩壊したニュースばかりだ。
ユウキは少々気分が悪くなりながら、椅子に座る。
「アレは君のせいじゃないよ。向かった時には、既に手遅れだったから」
瑠璃が緑茶の入った、マグカップを渡す。
「分かっちゃいるけど、ただ装備壊しただけなのがね」
「あら? 君のおかげで、十分過ぎるほどデータが取れたけど?」
「ならそのデータで、作戦の立案お願いしますよ。今度は失敗しないやつ」
瑠璃はユウキの向かい側に座った。
ここに来たのは装備の修復もあるが。
ある程度、頼れる人物と情報共有をしたかったのものある。
ネガリアン自体は相変らずだが、事態は深刻だ。
街一つ消し飛ばす生きている球体。
エネルギーを吸収する、左手を持つクロ。
「それで。なんで四十年も前に生まれた存在が、貴方の姪っ子をやっているんだ?」
「そもそもお姉ちゃんは、結婚していないよ。弓穂は里子なの」
「答えになっていない。なんで二人はあんなに若いんだって話だ」
クロも弓穂も生まれた時期は同じくらいだろう。
だが四十年前に生まれたにしては、若すぎる。
外観だけならまだしも、クロは中身もまだ幼さが残っていた。
「答えは簡単。二人共コールドスリープしていたから」
「真実はシンプルって奴か。コールドだけに、クールだねぇ」
「君は知らないだろうけど。研究が凍結されたのは事故じゃなくて……」
瑠璃は完全生命体の凍結理由を、ユウキに話した。
大方の内容は、以前の事件に知ったものと同じだ。
研究を横取りしようとした、過激派が研究員を虐殺したこと。
データを得られずに、四十年も完成にかかった事。
その事件が原因で、祖母が死んだという事。
「事件の時、双子のプロトタイプを乗せたカプセルが。地球に落下した」
「そう言えば、前見た映像で……」
何かに逃げられたかのような、反応をしていたとユウキは思い出した。
あれはプロトタイプ二体の事だったのか。
「どういう訳か。今になってカプセルが開いたみたいなの」
「クロの方は、当時の記憶があったみたいだぜ」
「弓穂は何も覚えていない。自分が何者かさえも。だからお姉ちゃんが引き取ったの」
大体の流れを、ユウキは掴めてきた。
クロから情報を得たネガリアンが、弓穂を襲撃。
その時瑠璃は彼女の秘密を知ったのだろう。
より詳細を調べるため、冬木家を訪れたのが始まりだ。
旧友であった父に、協力を要請するために。
「ネガリアン相手なら、もっと楽勝だと思ったんだがな」
「連中の居場所が分からなくなったから。後手になっちゃうよね」
ユウキ達が今後の作戦を話し合っていると。
テレビの映像が、突如変わった。
黒い背景に見覚えある人物が、映し出されている。
『聞こえるかね、諸君! ワシは世紀の天才、Dr.ネガリアンじゃ!』
「そんなバカデカい声なら、昼寝も目覚めるな」
ユウキはテレビに視線を動かし、皮肉を言った。
『突然じゃが、ワシはこれより軍に宣戦布告をする!』
映像が切り替わり、空中を飛ぶ戦艦が映される。
以前のものより小さいが、代わりに複数存在する。
『明日の十五時! 軍の本部がある街を攻撃する!』
軍の本部は田舎と都会の境界線上にある。
付近の街は、程々の大きさと言ったところだ。
『野次馬は勿論、抵抗をしなければ無事で済むぞ! ニャハハ!』
「アイツ、狂っているのか、変なところでまともなのか分からんな」
わざわざ攻撃時間を宣言して、避難を促している。
要するに街に居なければ、攻撃しないという事だ。
ネガリアンの頭を考えると、時刻通り来るだろう。
『では諸君! このワシに支配される覚悟を……。照明が消えたぞ! レンツ!』
最後の最後で暗転と共に、情けない声が聞こえてきた。
映像が戻り、ニュースに戻る。
もっとも、緊急速報で今の内容に変わっただけだが。
「目立ちたがりのおっさんで助かったぜ」
「宣戦布告って。迎撃準備を整える暇を与えるだけでしょ?」
「それを捻り潰す自信があるのさ」
実際マヌケさを覗けば、ネガリアンは危険だ。
現代の科学力を上回る技術を持っている。
ロボットの大群で攻められると、軍も苦戦は必須だろう。
「まあドクロ頭はどうでも良いけど。クロの奴とはきっちり蹴りをつけないとな」
「う~ん。軍の人間として、民間人を巻き込んで良いものか微妙なところだけど」
「今更だろ。僕は始めたことは終わらせる主義なんだ」
前にも言ったが、瑠璃がなんと言おうと続ける気だ。
軍とネガリアン、本格的な戦いの最中に向かう事になる。
今度は説教では済まなそうだが、それよりも大事なものがある。
「分かった。私も全力でサポートするよ」
「そりゃ、頼もしいですよ。貴方のナビは助かる」
後は明日に備えて、準備をするだけだ。
多少怪我はしたが、明日には回復するだろう。
「ユウ。話が終わったなら、手伝って」
「OK! 何をすれば良い?」
「そこにおいてある銃、ちょっと使ってみて」
"そこ"がどこか分からず、キョロキョロすると。
工房の机に青色の銃が置いてあった。
「使えって……。僕は銃器を扱ったことが……」
「弾は念力波。範囲は下がるけど、その分威力が上がる代物だよ」
「なるほどな。微調整のために、テストしろと」
ユウキは銃を握って、的に銃口を向けた。
弾丸を当てる自信はないが、念力波なら別だ。
念力を中に込めて、トリガーを引く。
反動と共に、衝撃波が飛んだ。
壁に立てかけられた的に、穴が開く。
「ハハ! 良い代物だな。気に入ったぜ!」
「どうも。でも反動が強すぎるね。明日までに調整を終えるよ」
「あまり無理するなよ」
蒼の事だから、機械を弄ると徹夜しそうだ。
最高傑作であるブルーバードも、夜通しで完成させたらしい。
「勿論、今日は早く寝るよ。明日に備えてね!」
「ついて来る気かよ。止めないけど、危機感は煽っておくぜ」
「分かっている。私もネガリアンに借りを返したいしね」
蒼は銃で的の中央を狙った。
「以前、浮遊遺跡から落としてくれた借りをね!」
「射撃の腕は負けているな。こりゃ」




